第128話 家 The house

4月14日木曜日 22時。


PvP大会決勝戦から二日が経過してようやくカイトは重い腰を上げた。


大会が終結してからカイトは全てのSNSから離れていた。


記憶の回復により与えられた精神的ショックを少しでも緩和するようにクロミナを含む全てのSNSを触れない、いわゆるデジタルデトックスをしていた。


組織メンバーには少し休養を取る旨を伝えただけで、当然全てを話していない。


事の顛末を知っているのは澤田和俊ただ一人だ。


否、もしかしたら霧春真治も把握しているかもしれないが、それは彼にとって些細なことだった。


クロミナを起動し、メンバーが情報を共有するために利用していたグループチャットを開く。


今までクロミナの世界で集まる際に集合を掛ける掲示板として役立ってきた。


どうやらカイトがいない間も連絡を取り合っていたらしい。


先導していたのはリナだった。


カイトは少し安堵した。


もしかしたらこのグループは自分がいないと機能しないのではないかと懸念していたからだ。


自分がいなければこのチームのつながりは断たれてしまうのでは。


そう心配していた。


だがそれは杞憂だったようだ。


自分がいなくともこのチームは機能している。


チームに灯った炎をメンバーが消さないように守ってくれているようだった。


その暖かなチャット欄にカイトはすこし頬が緩んだ。


カイトは遂にチャットを打ち込んだ。


[今戻った。誰かいるか?]


即座に既読が付く。



ミズキ0924[カイト!もう大丈夫なの??]


ツカサ2525[カイトさん!待ってましたよ!!]


純白の翼[おせーぞカイト]



久しぶりのメンバーとの会話で少しだが自信を取り戻した。


自分にはまだ味方がいる、そんな気がした。


違和感とすればリナからのメッセージがない。


勿論毎回、毎時間連絡を期待しているわけではないが、普段の彼女を見ていると即座に返信してこないのは妙だった。


取り敢えず集合場所と集合時刻を書き込むとクロミナの世界へフルダイブした。


第8区大通り「クロス」の一角にあるカフェである「ラミ=cafes」。


カイトたち組織は集合や作戦会議をする際にはよくこの場所を使用する。


到着するとすでに先を越されていた。


「カイトさん!こっちです!」


元気そうに手を振るツカサに導かれ、カイトは三人がいるテーブルへと進んだ。


[久しぶりね、カイト。元気にしてた?]


ミズキからのチャット。


この感覚も懐かしい。


「ああ、とても元気だったよ」


ミズキを見るカイトの目は依然と打って変わっていた。


歓喜や羨望に溢れた目ではない。


その目には明確に「後悔」の二文字が刻まれていた。


ミズキはその違和感に気付いた、しかし二人の無関係のメンバーが居ることを考慮し、ミズキは共有チャットで話をするのは控えた。


「リナはどうした?」


三人に問いかけると翼が口を開いた。


「それがよー、最近なんか変なんだ。クロミナにはログインするんだけどよ、疲れてるのかゾンビみたいで」


「ゾンビ?」


[聞かれてることにも答えないっていうかね。心ここにあらずって感じなの]


「心配だな」


カイトが言うと三人は同時に頷く。


「ログインはしているみたいなんですけど」


ツカサが話している途中で4人のメンバーにリナがこの世界に入ったことを伝える通知が届く。


その後すぐにリナは姿を見せた。


たしかに元気がない。


カイトはすぐにそう思った。


いつも通り笑顔で振るまっているようだが空元気であることが見え見えだ。


「なにかあったのか?」


カイトがリナに尋ねるも返ってくる言葉は「何もないよ」の一点張り。


心配そうに見つめるツカサを思ってか、リナは揚々と話を始めた。


「ね、みんな。カイトがいなかったこの二日の間。何をしてたか見せてあげようよ」


「そうですね!」


「げ、また付き合わされんのかよ」


「大丈夫よ、もう目星は付けてあるから」


「付き合う?目星?いったい何の話だ?」


カイトが困惑しているのを見てにやりと笑うリナ。


「とりあえず!移動しよっか」


リナに連れられ、カイトたち一行は転送装置へと向かった。



*



着いたのは第14区画。


実はカイトは薄々気付いていた。


依然に交わした約束、大会が終わった後に報酬金で家を買うという約束。


それを忘れたわけではなかったからだ。


この二日の間でリナおよびツカサ、翼、ミズキは第14区画にあるほとんどの家の内部見学をして回ったようだった。


だから翼は億劫そうにしていたのだ。


あの戦闘民族の翼が家の内見などという平和極まりない行動にヘイトを溜めるのは理解に容易い。


「私たちがね、見て回った中で一番良かったところがーー」


笑顔を見せるリナが指さしたのは。


コンクリートでできたスタイリッシュな家。


入り口には同系色の巨大な壁がそびえ立ち、庭には華やかな庭園と噴水が。


(なんだこのデザイナーズマンションみたいな家は)


口には出さなかったが、これは明らかに現実世界ならば億を超える家だ。


こんな高級住宅に住むことができるのか?


カイトはいささか疑問だった。


「綺麗でしょ、ここ」


「い、いくらするんだ?」


「まず金の話かよ」


翼に突っ込まれるも動じない。


まるで娘が高い買い物をしてきて困惑する父親を体験しているようだった。


「取り敢えず中を見てから、ね」


リナに促され中に入ると、がいた。


「「カイトさん!」」


そこに立っていたのはミズナとネムだった。

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