第104話 修行② True Character
「今話した三つの剣をまず覚える。そうすればいくらでも応用が利く。例えば…」
ネメシスは剣を構えた。
あの構えは斜刃剣だ。
斜めに振り下ろすと同時に手の向きを変え、斜め上方へとスライドさせる。
「これが『斜刃剣の往復』という応用技だ。これによって二撃目のスピードが段違いに速くなる」
さらにネメシスは続ける。
斜刃剣を繰り出すと下方に向いた剣先を正面に向け、そのまま横一文字にスライドさせる。
「これが『
ネメシスは剣を一度仕舞うと言った。
「このように全ての剣に応用が利く。一つ一つの剣が速くなればコンボのように二撃、三撃、四撃といくらでも繰り出せる」
聞いていたカイトとメイは感心したように頷く。
「これがネメシス流剣技の全てだ。あとは練習あるのみ」
カイトは早速横刃剣をやってみようと構えた。
だが、その瞬間にネメシスから声を掛けられる。
「構えが成っていない。俺が前に立つから真似ろ」
カイトは素直に頷き、ネメシスの動きを真似る。
それに呼応するようにメイもネメシスの動きを真似する。
見れば見るほどネメシスの動きは洗練されたものだった。
動きには一切の迷いが無い。
流れるように動くその剣は見入ってしまう程だった。
(これが、ネメシスの剣…)
カイトは目を見開き、よく観察する。
そして脳内にネメシスの動きを記憶する。
瞬きを一回。
その時には既にネメシスは別の動きをしていた。
間に合わない。
カイトは集中して視る。
何度でも、何度でも。
失敗して、転んで、つまずいて。
その度に立ち上がり、しかしネメシスからは目を離さない。
(強くならなければならないんだ、俺は、何に代えても…!!)
*
日が暮れてきた。
ネメシスから今日の特訓を終える旨を伝えられる。
結局今日できるようになったのは構える際の剣の持ち方と足の動き。
まだ重心の移動の仕方や剣先の向きを柔軟に変更することができていない。
「一日目にしてはよくやった方だ、それも慣れてねぇロングソードでな」
ネメシスはそう言ってくれた。
だが、この時間もいつまで続くか分からない。
ネメシスはメイの方へと歩いて行った。
メイの方が戦闘慣れしていたこともあり、習得が速いようだった。
座り込むメイに何やら声を掛けている。
二人で話し込んでいるようだった。
カイトは気を使って先に部屋に戻ることにした。
部屋の扉を開け、中に入った瞬間何かが切れた。
ばたり、と床に倒れ、カイトは気絶したように眠りに就いた。
その数秒後、何事もなかったかのように立ち上がる。
そして手に剣を握ったまま扉を開き、外へと出た。
*
ネメシスは夕日を眺めながら外に置いてあった積まれた丸太に背を預ける。
(教える立場は慣れねぇな)
腕を組み、何かを考える。
その時、首元に剣が差し出された。
ネメシスは油断していたこともあり、首元に冷たい感触が伝わったまで全く気付いていなかった。
首を動かすことはせずに前を向いたまま剣の持ち主に話しかける。
「…どういうことだ?カイト」
剣の持ち主はカイトだった。
ネメシスからの問い掛けに何も応えず黙っている。
「特訓が嫌になったから俺のレベルを奪いに来たか?言っておくがな、レベルが高くたって剣を使えなきゃ強くなんかならねーぞ」
ネメシスの言葉に全く動じないカイト。
その様子を見てネメシスは極めて不可解に思った。
普段のカイトなら有り得ないほどの余裕と静けさだ。
ネメシスの問い掛けに応じないこともあり得ないし、剣を向けることもあり得ない。
だとすれば外はカイトだったとしても中はカイトじゃないと考えるのが妥当だ。
「お前…誰だ?」
ネメシスのその言葉にようやく動きを見せる。
剣は下げられ、ネメシスはカイトの方を向く。
そしてカイトは言った。
「流石ですね。私がカイトではないともう気付きましたか」
「お前は一体…」
問い掛けに対し、カイトではない何者かは答える。
「私は
間髪入れずネメシスは突っ込む。
「冗談はよせ、必殺帝にプレイヤーのコントロール権を奪うスキルなんて無かったはずだ。それに、プレイヤーとは別の意思を持つなんて有り得ない」
「よくご存じで。必殺帝というのは私を守る殻に過ぎません。私の本体はこのゲームを熟知した外部の人間です」
「このゲームを熟知した外部の人間…?」
ネメシスは疑いの目を向ける。
「はい。私はこのゲーム内で実際の人間を使用した実験が行われていることを知りました。その実験を止めるため、そして死者を出さないために私はここにいます」
「要するに、お前はカイトとメイを守っていたってことか」
「その通りです」
ネメシスは腑に落ちないことが一つあった。
「だとしたらマオっていう女の子を見殺しにしたのは何故だ?お前のチカラだったら守れたんじゃないのか」
「ええ。当然守れました。しかし、私の判断で彼女を敢えて見殺しにしました」
「なぜ?」
外部の人間は一つ間を作ると話を続けた。
「彼女は最先端AIテクノロジーを搭載したNPCAIだったからです」
ネメシスは思わず目を見開く。
「あれは本当の人間じゃなかったってことか」
「極めて精巧に作られていましたからね。あれは普通のか弱い女の子にしか見えないでしょう」
なんて卑劣なことを、とネメシスは思った。
どれだけアイツらが気を病んだことか。
哀しみ、憎しみ、自分を恨んだ。
その感情に全くの意味が無かったのだ。
「彼女はカイトとメイを監視するために親元から送られました」
「機能しなくなったが、親元からすればそれは良かったのか?」
「退場した時点で何らかの目的は既に達成されたと考えていいでしょう。監視する手段を変えたのかもしれません」
「奴はこの世界から消えないのか?」
「そこが問題なのです」
外部の人間は語気を強めた。
「『MAO』はこの世界から消えることはありません。その事実が既にこの世界に残り続けるNPCAIということを示唆しているのですが、それは置いておきまして」
「つまり、再起動はいつだって可能ということか」
「話が早くて助かります。その通りです。そしてパワーアップも、相手の動きを学習することも簡単にしてみせます。なので、いずれ『MAO』はカイトとメイを殺しにやってきます」
カイトとメイはマオの復活を今でも夢見ている。
どうすれば生き返らせることができるか、本気で考えている。
そのタイミングでマオが現れれば二人は歓喜し、迎い入れるだろう。
そしてカイトとメイの首を落とすのだ。
極めて非道とも呼べる行為だった。
「計画してる奴はクソだな」
ネメシスは顔をしかめながら言い放つ。
「…ええ。ですのでネメシスさん、貴方には秘密裏で『MAO』を処理していただきたい。秘密裏と言うのはもちろんカイトとメイに気付かれずに、ということです」
「わかった、早いうちにやっておく」
「できれば彼女に攻撃プログラムが実装される前が望ましいですね。彼女は相手の動きを学習する」
「問題ない」
ネメシスは堂々と言って見せる。
「俺を誰だと思ってる?」
外部の人間も静かに微笑んだ。
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