第103話 修行① Sword of Nemesis
神殿を後にしたカイトたちはネメシスに連れられて更に『メラネア』を登山した。
この先にあまり知られていない隠れ家があるらしい。
隠れ家、と言っても今までカイトとメイが身を隠すために使っていたような地下にある建造物ではなく、山奥にある隠れ里のような場所らしい。
ネメシスは毎シーズンその山奥にある隠れ家で身の安全を確保しているそうだ。
草木を掻き分け、歩いた末に現れたのは、広大な広場と一軒のコテージ付きの大きなログハウス。
茶色の木材を使用し、建てられたログハウスからは温かみを感じた。
広場には射撃訓練用か、頭の部分に的が貼られたかかしが設置されていた。
到着してすぐ、ネメシスはカイトとメイをログハウスの中に案内した。
カイトとメイにそれぞれ部屋を与えると荷物を置くように催促し、準備が出来次第始める旨を伝えた。
カイトは部屋に一人になると突如として疲労感が襲ってきた。
眩暈と立ち眩みがカイトを襲った。
同時に強烈な睡魔にも襲われた。
またあの気絶だ。
だが、カイトは自分の頬を叩き、覚醒させる。
(寝てたまるか)
やっと手に入れた強くなるれチャンス。
この機会を棒に振るようなことは死んでもしたくない。
それに、自分がこの世界で生き残っていくためには自身の教化が最優先事項だ。
他人任せで眠るわけにはいかない。
それにカイトからすれば今置かれている状況がどれだけ幸せなことか。
カイトにとってネメシスは憧れの存在だった。
そのネメシスがわざわざ時間を作り、そして稽古を付けてくれるというのだ。
休んでなどいられるはずがない。
カイトは剣を腰に掛け直し、部屋の扉を開けた。
その瞬間、隣の部屋にいたメイも同時に外に出た。
二人の考えていることは同じらしかった。
言葉を交わすことなく、互いに頷き合うと二人揃って広場へと向かった。
ネメシスは外で何か作業をしていた。
何やら地面に杭を打ち付けている。
「何をしているんですか?」
カイトが尋ねるとネメシスは二人の存在に気付く。
「お、来たか。これは他のプレイヤーから姿を見えなくするための道具だ。これがあると指定した空間に他のプレイヤーは干渉できなくなる」
「私たちがいる空間を別の空間に置き換えるような感じですか」
メイが自分の解釈を話す。
「そうだな、それで大体合ってる」
ネメシスは続けて、設定者が認めたプレイヤーは入ることができる、と言った。
「あの子は入れるようにしておく」
あの子、とはミズキのことだろう。
カイトとメイは感謝を述べた。
カンッ!と最後に一撃、地面に向かって打ち付けると道具は発動した。
白いベールのような霧のようなものが空を覆っていく。
ドーム状になると完全にこの広場全体を覆った。
「これで他のプレイヤーに邪魔されることはない」
満足したように何度か頷くとネメシスは剣を持った。
「早速始めるぞ、準備はいいか」
カイトとメイは強く頷く。
その目には確かに炎が宿っていた。
ネメシスはその炎を見て笑みを零した。
カイトは先程のような黒い炎では無かった。
赤く、煌めくルビーのようだった。
対するメイは青い炎、その瞳には確かな目標と揺るぎない想いが宿っていた。
それは両者に言えることだが、メイの青い炎にはこの世界からいち早く抜け出したいという想いが見て取れた。
「まず、お前たちに話すことが幾つかある」
ネメシスはそう前置きをした上で話し始めた。
「まず剣の振り方。これは完全我流になるんだが、お前たちにはそれを完璧にマスターしてもらう。
続いてトリガーについて。自分の感情を支配し、一つの型へと落とし込む作業だ。これができればいつでも感情の高ぶりによるステータス値上昇が可能になる。
最後は
お前らはそもそも剣を扱いきれていない。剣の重さに慣れていないからだ。だからこれから剣の振り方を教えるがその間も常に剣を握り続けろ。そして寝てる時も、何してる時も剣を握り続けろ。まずは剣とお友達になること、それが一番の近道だ」
カイトとメイは剣を抜く。
そして握りしめる。
やはり剣はかなりの重量感がある。
腕が筋肉痛になりそうだ。
「剣の重さを変えることはできないんですか?」
「できるが、それは甘えだ」
きっぱり言い張るネメシス。
(甘え…?)
カイトとメイは顔を見合わせる。
「剣の重さを変えると今ままで培ってきたものが全て崩れる。だから二人には是非ともこのままの剣で戦ってほしい」
ネメシスは続ける。
「メイ、大丈夫か?」
ネメシスはメイに問いかける。
「このままで大丈夫です」
メイの持つサーベルはロングソードやクレイモアよりは圧倒的に軽い。
それでもかなりの重量はあるはずだ。
女子であるメイにとってはかなりの重さに感じるだろう。
だが、メイは弱音を吐くことはせず、即答した。
ネメシスはその様子を見て微笑む。
「無理だったら早く言うようにしろよ。カイトはそのままな」
当然心配されないカイトは剣の重さ以外になにか重いものを感じた。
「もちろんです、変えるつもりはありません」
強くなるためには、ネメシスのようになるためには、彼のことを真似ることから始める。
そしていつの日か超えて見せる、自分のやり方で。
カイトは強く誓うと握る手を強めた。
「よし、じゃあ俺の剣を教える。まずは見ていろ」
ネメシスは剣を構える。
そして剣を握る手とは逆の左手を剣の持つ右手に添え、小さく振りかぶったまま一秒間静止し、そのまま振り下ろした。
その瞬間風圧から風が巻き起こり、衝撃波のようなものがカイトの頬を掠めた。
「これが『
カイトは思わず感嘆の息を漏らす。
ネメシスは止まらず剣を構える。
右足を大きく前に出し、左足は後方に下げる。
そして右に持つ剣に左手を添え、横一文字に切りつける。
その瞬間風圧とともに衝撃が走る。
「これが『
更にネメシスは続ける。
構えた剣を肩に担ぐように持つと、左手は使わずに斜めに振る。
その瞬間…割愛。
「これが『
何か言いたげなカイトとメイを見てネメシスは続ける。
「わかってる、お前たちの言いたいことは。なんで全部衝撃を生むのか、ってことだろ?それはな、衝撃を発生させることで自分のペースに持っていくことができるからだ」
ネメシスは今までの戦闘を振り返りながら説明する。
「俺はとにかく短い時間で多くのプレイヤーを倒さなければならなかった。そこで生み出したのが衝撃波を伴う斬撃だ。この斬撃は相手に当たると相手は怯む。その隙に決定打を打ち込めばいい。なんなら衝撃で怯んだ奴は一度放っておいて、周囲の敵を全員怯ませた後、全員を一掃すればカンタンだ」
カイトはネメシスの強さをそこに見た。
強さの秘密はもちろん有り得ないほど速い剣技や、動きはあると思うが、同時にカラクリを仕組んだ。
そのカラクリは見事に作用し、不動の一位を守っているのだ。
カイトは自分の剣を見つめる。
自分もあの衝撃を生む剣を扱えるようになりたい。
いや、なってみせる、そう思ったカイトだった。
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