第69話 天使と悪魔 Angels and Devils
「ゲームを始めてくれ」
戒斗が老執事に伝えると静かに頷き、杖をまた地面に突いた。
その瞬間晴れ渡った空に黒い影が出現した。
空に掛かった黒い影は夜だった。
丁度戒斗のいる場所を境界にして青い空と綺麗な星空が共存した。
いつの間にか、戒斗の足元には一本の線が引かれ、昼と夜を分けていた。
「さぁ、ではカイト様。役職を選択してください。太陽が出ている左側が天使サイド、月が出ている右側が悪魔サイドです」
生憎と夜の方は月は隠れているのか見えなかったが、太陽はしっかり照っていた。
太陽の下へ歩けば天使と成り、月に導かれれば悪魔と成る。
戒斗は既に役職を決めていた。
当然悪魔だ。
現環境化において悪魔一強であることはこのゲームでは周知の事実であり、新規参入者は決まって悪魔を選択する。
天使を選ぶのは固有の武器に惹かれた者か、情報不足の者しかいないだろう。
もちろんプレイヤーに倒されたときこのゲームに再アクセスが可能だ。
「転生」と呼ばれているが、その際に役職を変更することができる。
またゼロからのスタートだが、一度倒されれば地位やレベルをすべて失うという緊張感も人気の理由だろう。
このゲームでは環境と言うゲームにおけるアップデートのようなものが頻繁には行われない。
行われるためには天使か悪魔、どちらかの陣営のプレイヤーを根絶やしにする必要がある。
最終局面、つまりプレイヤーの力がインフレを起こし、誰も太刀打ちができなくなる状態に陥った場合、人はそのプレイヤーの陣営に就く。
結果として逆サイドの陣営は絶滅、環境の終わりを告げる。
その際、ナンバーワンプレイヤーにはゲーム内に一つのルールを追加する権利を与えられる。
これまでこのゲームがアップデートされ、その都度人気を博してきたのはこういったプレイヤーによるルール改変があったからだろう。
当然全てのルールは審議され、その上で実行に移されるかどうかは判断されるが、多くの場合叶えられる。
制作側もプレイヤーの意見を聞く機会は最重要視しているのだろう。
戒斗は月の下に歩みを進めようとした。
現環境下で一番になるためには一番勢力の強い陣営に就くことが近道だ。
しかし、戒斗は前に進めなかった。
夜と昼を隔てる間に見えない壁のようなものが存在していた。
どうしても悪魔陣営を選択できない。
「おい、これは一体どういうことだ」
戒斗は老執事に問いかけるも、老執事は答えない。
戒斗の方を向いてなぜ早く役職を選択しないのかと怪訝そうな眼でこちらを見つめている。
(つまりこのNPCには権限が与えられていないのか)
プレイヤー戒斗が悪魔を選択できないことについて言及する権利。
しかしシステム自体に問題があるのか、制限されているのか判らないが、NPCが踏み込む領域ではないのだろう。
戒斗は一つため息を吐くと太陽の下に出た。
その瞬間、職業が選択されたという通知が届き、頭に天使の輪が浮かび上がった。
これがデフォルトの格好だ。
追加要素として純白の羽を生やし、空を優雅に飛ぶことができるが、それはまだレベルが足りていないようだった。
「続いて装備を選択してください」
老執事の目の前には三本の剣が出現した。
このゲームでは装備は固定だ。
天使陣営は剣を。
悪魔陣営は銃を持ち、敵勢力を叩く。
その装備が天使と悪魔のパワーバランスを脅かしているように思えてならなかった。
剣はそれぞれロングソード・サーベル・クレイモアだった。
ロングソードはガードの部分が細長く、ブレイドは幅5センチほどだった。
目立った装飾は無いが、ブレイドは綺麗に磨かれていた。
サーベルのガードは丸みを帯びて装飾がされ、長く細いブレイドはすぐに折れてしまいそうな感じがした。
ガードの部分は金色でこちらも綺麗に磨かれていた。
クレイモアは先述した二つの剣とは異なり、大剣という扱いだ。
全体的に大きなその剣はガードの部分が黒く硬い鉄でできており、盾の役割も果たす。
ブレイド自体も幅15センチは超え、主に弾避けとして利用されることが多い。
戒斗はロングソードを選択した。
一番オーソドックスで扱いやすいと踏んだからだ。
扱いきれなかったらまた転生すればいいし、色々と試してみよう、そう思っていた。
だが、このゲームにおいて彼のこの選択は最初で最後の選択となった。
カイト
装備 ロングソード
LV.1
体力 500
素早さ 150
守備力 200
攻撃力 350
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