第2章 準備編

第17話 問題提示

 都内某所。


  巨大なビルが林立するこの地帯に「Crosslamina」のゲーム会社「ZONE」はある。


  その建物の中にある「会議室」から話は始まる。


  円状の木のテーブルに20席ほどのオフィスチェア。


  そこには15人ほどの人間が鎮座していた。


  彼らは「CrosslaminaNPCAI総合管理課」に配属されている紛れもない「ZONE」の社員である。


  その中に1人。


  年齢としは50歳ほどの中年男性で黒い髪を上に上げている。


  風格からして何かの権威者である事がわかる。


  彼がこのゲーム会社「ZONE」の社長であり、「Crosslamina」の総合プロデューサーである澤田さわだ和俊かずとしである。


  彼はゆっくりと厳格な顔で話始めた。


  「魔王軍の動きをもう一度説明してくれないか?」


  社長澤田氏が話しかけたのは「NPCAI総合管理課」の管理長である。


  「はい。魔王軍は最近自身の領域を飛び出し、他の領域へ侵入。既にこの時点でAIの規約に反しているのですが……」


  「構わん、続けろ」


  「はい。以前全魔王軍AIに与えた、"プレイヤーに致死量の攻撃を与えると転装魔法の発生によりプレイ時間を制限するペナルティが発動する"という機能ですが、3日前、ペナルティ内容が違っていると魔王軍クエストを受けていないプレイヤーから通報がありました」


  「ほう、魔王軍クエストを受けていないプレイヤーから……か」


  「はい。それでその魔王軍のAIに自主的に変更されたとされているペナルティの内容ですが、転装させたプレイヤーのセーブデータを改ざんする、というものでした」


  「データ改ざん…」


  「はい」


  「それは直さなければならないな」


  「そうなんです。ですが……」


  管理長が急に暗い顔になった。


  「魔王軍のAIに魔王軍の動きを制限する権限を奪われたのです」


  魔王軍の動きを制限する権限を奪われるということはゲーム会社「ZONE」からは魔王軍のAIの動きを止めることはできなくなってしまったということ。


  つまり魔王軍が仮想世界を滅茶苦茶にしたとしてもゲーム会社側には止める力は無いということである。


  「それは君たちの問題じゃないのかね?君たちがNPCAIに権限なんか奪われるから」


  社長澤田氏は少し煽る口調で話す。


  「それがですね……。私たちは完全に魔王軍NPCAIの制御に成功していたんです」


  「なら何故?」


  「その3日前の事です。我らの課の一台パソコンが何者かにハッキングされたのです」

  「ハッキングか……」


  社長澤田氏は前例があったかのように呆れ顔で答える。


  「それにハックされた、と」


  「はい。こちらもなんとか食い止めようとしたのですが、なにぶん強力なハッキングで。同時並行にウイルスまで送り込まれました。ウイルスを対処している最中に魔王軍NPCAIの動きを制御するサーバーが乗っ取られていました」


  「まずいよね。それは」


  社長澤田氏の声に萎縮する。


  叱責されると思ったからだ。


  だが、社長澤田氏は落ち着いていた。


  「社長は何故そんなに落ち着いていらっしゃるのですか?」


  管理長の声に社長は笑顔で


  「ん?落ち着いてなんかいない。今心は焦りでブレイクダンクなんか踊っちゃってるよ」


  「社長!そんなに落ち着いている暇はないんです!なんとか権限を取り戻さないと!」


  「だから落ち着いて無いさ。もう方針は決めてるからね」


  「方針?」


  「そうだ。魔王軍の討伐クエストを全プレイヤーに依頼する」


  「しかしっ!今までプレイヤーが魔王軍に勝ったことなんて……」


  管理長の言葉を遮るように社長が話す。


  「ある。君は昨日追い込まれていたから知らないかもだけど。5周年アニバーサリーの日、私の元に情報が流れてきた」


  「情報ですか?」


  「バトルフィールド「ガイア」のプレイヤー情報を監視している課からの情報でね。“聖騎士エグバート“が現れたんだ」


「聖騎士エグバートですか。いましたね、昔のガチャで排出した聖騎士シリーズ。懐かしいです」


  「うん、そこじゃないんだ。どうやら悪魔を一刀両断したそうだ。今のところ悪魔、魔王軍に対抗する事ができる武器は3つしかない。それがやっと出てきたのだ。今こそ魔王軍を討ち取る奴が出てくるに違いない!」


「なるほど」


「そして!その武器を持つ人達にはいつか先頭に立って戦って貰いたいと考えていてね。その人達を公表するんだ。」


  「公表は別にプレイヤーにとってもいいと思いますけど、その前に魔滅シリーズの武器をもっと出した方がいいんじゃないですか?プレイヤーからのクレームが凄いって聞いてますよ?」


  「そうなんだけどね。なかなか魔滅シリーズを手にするプレイヤーが現れないんだよ。だが、それは昨日までの話!やっと来てくれたよ」


  嬉しそうな顔をする社長。


  自分の思い描いた未来に事が進んでいるのだろう。


  (それに、面白いデータも取れたしね)


  社長は手元にあったパソコンに表示されているあるプレイヤーのステータスを見ていた。


  そのプレイヤーは魔滅剣を手にしたプレイヤーだった。


  「討伐クエストは5周年イベントが終わってからだ。それが終わるまで、魔王軍の領域を封鎖してでも食い止めろ!」


  「「了解!」」


  そこにいた社長以外の社員全員が立ち上がる。


  これから魔王軍と冒険者プレイヤーの戦いはどうなっていくのか。


  その前に、クロミナでは、5周年イベントのPvPトーナメント大会の詳細が発表されようとしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る