第48話 Dブロック本選⑤ Semi-finals=5
ハンクは片手日本刀型長剣を振り下ろす。
目の前に現れた
壊滅させた
近接戦に持ち込み、ハンクとジャックが主に前線に出て戦い、
マルスは魔法を展開している玲の警護役である。
ハンクたちは運が悪かった。
実際には既に玲の最上位魔法を放てていただろうが、開始とともに周辺にいた
ハンクは一つ溜息を付くと剣を鞘に収めた。
「浪河くんの魔法はあと2分といったところか。くそ、だいぶ時間を取られてしまったな」
「まぁ、でも結構周りにいる奴らは倒したわよね?だったらもう……」
赤姫がそう言ったその時。
目の前から草木を掻き分け走ってくるような音が響いた。
「おいおい、まじかよ」
ハンクが呆れたように言う。
「なんか。まるで俺たちの場所がバレてるみたいだね…」
そしてその音がする方向に向き、各々武器を構えるとそこからは1人の男が出てきた。
血のような赤黒い鎧に顔の下半分を覆うマスク。
ハンクたちを見るなり、
「ビンゴ!やっと見つけたぜ!」
と喜びの声を上げた。
「なんだお前は」
ハンクが聞く。
隣にいたジャックも武器をしっかりと握る。
「俺はガンマ。
顔を動かさず、真顔のまま答える。
すると後ろから5人の同じようなマスクをしたプレイヤーたちが森の茂みから出てきた。
ハンクは異様な雰囲気を感じた。
すると後ろにいた1人のプレイヤーが急に大声を上げる。
「佐藤くぅぅん!!お勤めご苦労ー様ー!」
ハンクたちは急に何を言い出したんだコイツは、という目線を送っていた。
ただ、一番後方にいたマルスと玲を除いて。
「ぼーっとしてんじゃねぇよ!さっさと差し出せ!」
その声がさらに大きくなる。
ガタガタと身体が震える。
手先まで震えている。
こんなに、俺は恐怖心を覚えていたのか。
一瞬何もかもがどうでも良く感じたマルスは顔を上に大きく上げた。
そして隣にいた玲の腕を掴んだ。
「…え?」
玲が声を上げるがその声に気づき、前方にいたハンク達が後ろを振り向いた時にはマルスも玲もそこにはいなかった。
【
一瞬にしてガンマたちの目の前に移動した。
玲は何が起きたのかわからなかった。
マルスは俯き、それによってできた影で顔がよく分からなかった。
「な、何をしてるんだ?マルスくん」
ハンクたちは茫然と立ち尽くす。
その様子を見てガンマはとても楽しそうに笑った。
「なぁ。お前ら。今さっきまで、何か不可解な点が無かったか?」
ガンマがハンクたちに問いかける。
ハンクたちは顔を見合わせて答えた。
「強いて言うならば…出会った敵の数が多かったか?」
「まぁ、合ってるなぁ」
「?」
ハンクたちはまだ判然としていなかった。
「いいか?よく聴け?なんでお前らが狙われるかっていうとなぁ。お前らが使う魔法が危険だからだよ!」
それを聞いた赤姫が必死になって聞く。
「な、なんでそれをあんたらが知ってんのよ!それは私たちと…」
赤姫が話していた途中でガンマがそれを遮る。
「だーかーら!!結論を言うぞ?!お前らのお仲間のマルスくんが、情報を流したんだよ!!」
「?!」
マルスの方へ視線が集まる。
依然としてマルスは地面を見ている。
ガンマの前へと連れて行かれた玲は心配そうにマルスの方を見る。
ハンクたちはまた顔を見合わせ、考えた。
すると赤姫が声を出した。
「でたらめ言ってんじゃないわよ」
その言葉にマルスは顔を上げた。
そして何かを懇願するかのように赤姫の方を向く。
「私たちの事はDブロック予選の記録映像を見ればわかるし、私たちのことは結構知られていたわ」
「だからマルスくんが情報を流したなんて、俺らは信じないよ」
ニコリと笑う
ハンクとジャックも強く頷く。
だが。
「赤姫。レベル290。武器は
「?!」
赤姫は思わず絶句した。
そして何故かわからなかった。
なんで、それを知っている?
あの食事会でも系統は伏せたはず。
話したのはこの
赤姫は何かに気づいたように凍りつく。
たが、考えたくないのか、頭を振るう。
追い討ちをかけるようにガンマが口を開く。
「だから言ってるだろ?魔法攻撃が危険なのはみんな知ってる。だから初めに潰そうとして沢山のプレイヤーが襲ってきた。だが。俺たちはお前らの情報を全て知っている。なんでだろうな?そうだよ。マルスに教えてもらったからだよ!!」
最後まで信じようとしない赤姫たちに痺れを切らしたように声を張り上げる。
「時間にしてあと1分くらいか。初めにこの女から片しておくとするか」
ガンマが剣を一瞬で抜くと玲目掛けて振った。
そしてマルスは何も動かない。
すぐに助けられる位置にいるのにも関わらず。
「玲!!」
赤姫が声を出す。
その瞬間、玲は蓄積していた魔法を一気に放った。
【金:"上位"対象破壊魔法=
キィーン……!
空高く光の光線が上がった。
まだ最上位には達することはできなかったが、この危機を、脱するためにこの手段を玲は取った。
「は?おいおい!!佐藤ぉ!てめぇ、あいつは最上位しか使えねぇんじゃねぇのか!!」
範囲は狭いが最上位とほぼ同じの破壊力を持つ光の魔法。
空からは光の光線が無数に降ってきた。
「チッ!」
ガンマは舌打ちをすると後ろに後退して行った。
【
数秒後、光線は止まったが、周囲はだいぶ寂しくなった。
木々は倒れ、地面は抉れ、クレーターがいくつもできていた。
砂埃が立つ中、忽然と姿を消した『屍の会合』に安堵の声を漏らす赤姫。
そしてその目はすぐにマルスの方へと向いた。
「マルスくん?一体何があったんだい?」
ハンクが近寄りながら話しかける。
しかしマルスは自暴自棄になった子供のように声を上げる。
「ち、近寄るな!!あ、あんたらは頭がおかしいのか?!」
マルスは続ける。
「あんたらは俺が売ったんだよ!!俺があのくそ野郎に情報を流した!庇う必要なんかないんだよ!!」
いつもとは正反対とまで言える彼の豹変ぶりに驚くメンバー。
「仮にそれをやったとして。なんでそんなことをしたんだい?」
ハンクが聞く。
するとマルスは項垂れ、
「こ、こうするしか無かったんだ…!」
「聞かせて」
赤姫は真剣にお願いする。
「俺は奴らにいじめを受けている。それも何年も。その矛先は全部俺の友達へと向けられる」
マルスは一度溜息をついた。
「俺が友達になった人はみんなあいつに攻撃される。だから決めた。俺は友達は作らないと」
ハンクたちの表情が厳しくなる。
「だって。俺が友達を作らなかったら俺も苦しまないし、その人だって苦しまない。お互いにとって良い関係ですよね?」
マルスは笑いながら話す。
心の底から笑っていない、乾いた笑いだった。
「そう思っていたら奴らに俺の裏アカがバレて…。この
赤姫はその様子を見て静かにマルスの元へと近づいた。
そしてマルスに向かって思いっきり持っていた杖を振った。
ゴンッ!
音はしたが、もちろんダメージは無い。
立ちすくむマルスに赤姫は話す。
「なんで…なんでそういうことを私たちに話さないのよ!!」
マルスは目を大きく開ける。
「私たちは、同じ
ハンクも続く。
「マルスくんが情報を話したのかもしれない。だけどそれはマルスくんについて詳しく知ろうとしなかった俺たちにも非はある」
ジャックと
「だから!!少しは私たちを頼りなさいよ!!」
赤姫は叫ぶ。
その声が届いたのか、マルスの目からは一筋の涙が流れていた。
赤姫は一度も友達とは言っていなかった。
あくまでメンバー。
あくまで同じ
それでも。
仲間なのなら助けられて当然だと主張された。
その助け舟を自ら出してくれと訴え、自分にも非があることを認めた。
そんなことは絶対に無いのに。
マルスは申し訳なさ故にメンバーに向かって頭を下げた。
膝を落とし、前かがみになったその姿勢からは精一杯の謝罪が込められていた。
ダメージの無い攻撃は彼に響いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます