第47話 Dブロック本選④ Semi-finals=4

 ミズナはすぐに人の気配を感知した。


 遠くの方から木々を掻き分けて進む音が複数聞こえる。


 先程ミズナとネムは1つの組織ギルドを倒した。


 魔法攻撃を主軸としたDARKsideという組織ギルドだった。


 その為ネムの"魔法攻撃無効反射オートマジックリフレクター"が大活躍し、相手を完膚なきまでに封じたのである。


 それに安堵の声を漏らしていた最中だった。


 一瞬緩んだ気持ちが一気に引き締まった。


 すると、突然辺りが静かになった。


 ミズナとネムが立っている場所は森林地帯の中を通る10メートルほどの幅を持つ道の上。


 左右を木で囲まれており、森の中から見つかれば好きなだけ狙ってくださいと言っているような場所だ。


 ミズナはいっそ森の中へ入ろうかと考えたが、魔法攻撃が飛んできた時にネムがいないと防げない。


 ネムの"魔法攻撃無効反射オートマジックリフレクター"は周囲半径1メートルまで干渉する。


 Dブロック予選の終盤で戒斗が魔法攻撃に当たらなかったのは、ネムが近くにいたからである。


 戒斗の近くを離れなかったのは、あの時ネムが戒斗の元を離れ、ミズナの元へと動いていれば、ネムの"魔法攻撃無効反射オートマジックリフレクター"の全貌が周囲の人に知れ渡ってしまうと考え、それを恐れたからだそうだ。


 ネムと話し合って、この道で敵を迎え討つことに決めた。


 するとその時。


 ミズナの身体に赤い斑点が浮かび上がった。


 何かの症状か。


 そう一瞬思ったが、それは違う。


 何故ならその赤い無数の斑点は身体に浮かび上がるとミズナの顔へと移動を始めたのだ。


 そう、これはレーザー光だ。


 これは弓矢に取り付けることで矢の軌道を明確にし、正確性を高めることができるカスタムパーツ、光線照準機レーザーサイトである。


 弓矢は魔法による性能の強化だけでなく、付属パーツを取り換えたり、自身でカスタマイズしたりすることができる。


 これはその一種だ。


 その赤い光は正確にミズナの身体を狙っている。


 隣にはネムが心配そうにミズナの方を見ていた。


 だが、ミズナの立っている場所はネムの1メートル圏内。


 魔法攻撃が飛んできても簡単に跳ね返すことができる。


 その上飛んできた方向がわかれば弓矢を放った人を特定できる。


 だが。


 ネムが心配しているのはミズナの身の安全だけではない。


 今から飛んでくるであろう矢には魔法が付与されているのかどうか、だ。


 魔法攻撃でないとすればネムは跳ね返すことができない。


 と、危惧していたミズナとネムだったが。


 遠くの方から聞こえてきた声で思わず安心した。


『緑:弾道補正魔法=疾風弓矢ブローアロー!!』


 周りから幾つも声がした。


 ミズナは思わず口に手を当て笑った。


 ネムもどこか呆れたような表情を見せた。


 しかし。


 ドドドドッ!!


「?!」


 ミズナは驚いた。


 自分のすぐ隣から何度も矢が貫通する音が響いたからだ。


「え……?ね、ネム?!」


 ネムは


 "魔法攻撃無効反射オートマジックリフレクター"は万能ではない。


 それは魔法攻撃を無条件に全て跳ね返すことを条件に、魔法攻撃以外の攻撃は自分で身を守らない限り、のだ。


 ネムを中心とする1メートルの範囲にいる人を対象にした攻撃も全て攻撃対象となり、確実に当たってしまうのだ。


 つまりネムは仲間を魔法攻撃から守ることはできる。


 そして物理攻撃からも守ることはできる。


 但し、自分を身代わりにしてのみ、だ。


 そのような特性を持ったスキルなのだ。


「ネム!!」


 ネムは弓矢攻撃を全て受け、瀕死の状態に陥った。


 ミズナは周りも見ずにすぐさま蘇生に入った。


 必死になっていたミズナの耳に複数人の足音が聞こえてきた。


 まるでその蘇生を阻止しようとしているかのように。


「ミズナ、う、後ろから来てるよ。私のことはいいから早く…!」


 ネムはそのあとの言葉が思い浮かばなかった。


 助けて欲しかった。


 だけど、自分を助けるために大切な仲間には死んで欲しくない。


 だけど言えなかった。


 とは。


「2人でよくここまで昇り詰めたもんだ。関心するぜ」


 太い掠れたような声。


 ミズナが蘇生を一時的に止め、ネムを庇うようにその声のした方を向いた。


 そこには血のような赤い鎧をした奇怪なマスク男。


 ガンマだった。


「まぁ、自分たちの力を過信し過ぎたってところか」


 周りの人達がつられるように笑う。


 ミズナはずっと考えた。


 なんでこの人たちはネムのスキルを知っているのか。


 そして確かに魔法攻撃だったはず…。


 だってそうやって攻撃を出して……。


「なんで魔法攻撃が当たったか、不思議か?」


 ガンマはミズナの表情からミズナの心理を読んだかのようにニタリと笑う。


「まぁ、当然だが、あれは魔法攻撃じゃない。ただの攻撃力マシマシの物理攻撃だ。

あれは魔法攻撃だと思わせるためのただのだ」


 ミズナは目の前が暗くなった。


 あの時、あの声で安心していた自分を思い出す。


(…辛いな)


 ミズナは奥歯を噛み締めた。


「んじゃ、時間も無いんで。この人数で叩くぞ」


 ガンマの声が冷たくなった。


 それから新たに本選からは2人の脱落者が出た。




 *




 戒斗たちは歩きながら体力回復に努めていた。


 先程戦った場所にいれば音を聞いたプレイヤーが襲ってくる可能性があるからだ。

「プレイヤーの数、結構減りましたね」


 ステータスを確認していたツカサが呟く。


「残り何人?」


 リナが質問する。


「えーっと、残り24人ですね」


「経過時間は?」


 戒斗がついでに聞く。


「現在12分経ってます」


 戒斗は歩きながら少し考えた。


 [24人ってことは結構終盤じゃない?]


 ミズキからのメッセージ。


 確かにそうだ。


 この本選は残った3組織ギルドが決勝へと進める。


 つまり、1つの組織ギルド6人だとすると、残り18人の状態で本選が終了する可能性もあるのだ。


 初めは46人だったのに対する24人である。


 この12分で半分近くのプレイヤーが倒れたということになる。


「それよりもさー、カイト」


 翼が『HP回復パン』を食べながら戒斗の方を向く。


「さっき話があるって言ってたその話ってなんだよ」


 戒斗は翼の言葉に頷き、


「みんな結構回復できたな。なら話しておきたいことがある」


 戒斗はそれでも歩みを止めずに、話を始めた。


「これは可能性の話なんだが……」


 その時戒斗は気づいていなかった。


 背後に近づく影に。

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