第87話 対面 Meeting
馬車が止まった。
カイトとメイも少し眠っていたようだ、停車した衝撃で目が覚めた。
勢いよく後方の扉が開けられる。
カイトは心臓が飛び出るかと思った。
いきなり攻撃されるかと思ったからだ。
臨戦態勢を取ろうにも立ち上がれない今、何もできない。
カイトは屈強な男たちに運ばれた。
その際に黒い布を被せられた。
周囲を見せないためか、周囲の悪魔たちに気付かせないための配慮か。
分からなかったが、抵抗する術は無かった。
階段のような傾斜を登り始めた。
身体が斜めになるのを感じる。
メイたちは一緒に居るのだろうか。
それすらも分からないが、カイトは恐怖のあまり声を出すことはできなかった。
もし声を出したら殺されるかもしれない。
今、カイトは自分に人権なんて無いんじゃないかと思った。
地面に置かれる。
バサッと黒い布を取られると一瞬眩しくて目を閉じてしまった。
慣れてくると、自分が居る場所が豪華な装飾がされた部屋だと気付く。
まるで玉座の間のようだった。
隣にはマオとメイがいた。
同じように眩しそうに目を細めていた。
「長旅ご苦労だったな」
前方から声が聞こえる。
先程まで誰もいなかった玉座に大柄な男が鎮座していた。
南都の王、ダンデ・リ・ユニオンだ。
その瞬間、手足の拘束が解ける。
そして目の前に3人の悪魔が出現した。
一人はポッピーがいる集落で見た化粧の濃い悪魔、ゼウリウス。
一人は本を片手に持った参謀のような悪魔、ナッシュベル。
一人はカイトたちを連行した白髪の悪魔、シュベイン。
「拘束は解いたが無駄な抵抗は止めてもらおう。我々には敵わない」
カイトたちは立ち上がり、手足を動かす。
今まで固まっていた分をほぐそうとした。
カイトは目の前に立つ悪魔を一人一人観察した。
どの悪魔も今のカイトのレベルでは剣を持つことすら叶わないだろう。
特に強いのは玉座に座る悪魔、ダンデ・リ・ユニオンだ。
勝ち筋は一つも見つからなかった。
もちろん目の前にいる悪魔全員に勝ち筋など見つけることはできなかったが、その中でも特にだ。
冷徹な目でカイトたちを見つめ、不敵な笑みを浮かべていた。
「私たちを殺さないの?」
メイが発言する。
その声は震えていた。
その様子を感じ取ったのか、ダンデ・リ・ユニオンは、安心しろ、と言った。
「我々は現状お前たちを殺すことはない。信じてほしい」
「誰が…信じられる?私たちは敵対する勢力なのよ?私たちの事なんて経験値としてしか見ていないくせに」
「んだとコラァ!!」
ゼウリウスがメイを威圧する。
今にも飛び掛かりそうな勢いだ。
「止めろゼウリウス。攻撃は許さないぞ」
ダンデからの声にわざとらしく舌打ちをすると下がった。
「君たちの命の安全はここにいる限り保障しよう。私の命を懸けてもいい」
すると驚いたように三人の前線に立つ悪魔は振り向いた。
「なに言ってんすか!!」
「保障など…するに値しません」
「そうだ!!さっさと殺してしまおう!!」
三人から一斉に届く声に落ち付くように促す。
「メイ…といったか。信じてもらっていい」
「決まりね、私たちの誰かがアンタらに殺されたら死んでもらうから」
「てめぇ、調子乗ってんじゃねぇぞ!!」
「良い。我々は攻撃しない」
腑に落ちない様子を見せたゼウリウスだったが、渋々下がった。
「私はお前たちに興味がある。今お前たちに何が起きているのか、教えてくれ」
突然のダンデからの質問にカイトたち三人は顔を見合わせた。
突然連行されて何事かと思ったが、そういうことだったか。
メイは置かれている状況について説明することは情報の拡散を意味しており、それには一定の意味があると考えた。
カイトとマオも賛同するが、カイトは腑に落ちない箇所があった。
それはなぜカイトたちに興味があり、話を聞こうとしているのかという点だ。
悪魔なら何も聞かずに殺し、経験値にすればいい。
説明を促す意味が無い。
「話すつもりは無かったが、オレは現実世界で警官をやっている。もしお前たちに降りかかっていることが犯罪行為として認められるのなら俺は捜査する義務がある」
「警官?」
メイは疑いの目を向ける。
「本当だ、大手企業の闇には興味がある」
不敵に笑うダンデにメイは笑みをこぼす。
メイは嘘か本当か分からないが、話しておいて損にはならないと判断し、命が保障されている今、利用する他ないと思った。
「わかったわ、全てを話す」
メイの反応を見てダンデは一層笑顔になる。
メイの話が始まった。
録音を開始したのか、ピッという機械音が鳴り響いた。
*
ダンデ率いる南都の軍が金の卵を捕らえたという情報が東都と西都で広まっていた。
金の卵を独占することは許さないと西都は南都に向けて進軍を決定。
東都でも金の卵を奪うために行動を開始した。
そして金の卵の回収と共に、もう一つの策略が動いていた。
それは南都の王、ダンデ・リ・ユニオンの暗殺。
西都と東都は一時的な休戦と協定を結んだ。
南都に攻撃を仕掛け、ダンデ・リ・ユニオンを暗殺。
この歴史的偉業が成されれば一気に戦況は最終章まで進む。
生き残った全てのプレイヤーのレベルは100を超え、
そもそもこのゲームでナンバーワンプレイヤーになるためにはネメシスを殺すことは必須条件である。
西都の王は部下に命令する。
「奴はいつだって玉座に踏ん反り返っているはずだ。そこを奇襲しろ」
東都の王は部下に話す。
「金の卵に気を取られている間にダンデ・リ・ユニオンの心臓を貫け」
もちろん西都と東都の王は南都にいる幹部たちの実力を計算に入れていないわけではない。
西都の王は言う。
「南都に攻撃を仕掛けることで幹部たちは止めるために出てくる。王の護衛が手薄になった瞬間が奴を殺すタイミングだ」
東都の王は言う。
「ダンデ・リ・ユニオンに備わっている帝、鏖殺帝は発動させるとかなり厄介だ。その前に殺さなければ命はないと思え」
ネメシス出現予定時刻まで20時間を切ったタイミングで、南都の周辺には西都と東都の悪魔による包囲網が完成した。
その数、実に200万。
今、南都と西都、東都の金の卵、そしてダンデ・リ・ユニオンを懸けた戦争が始まろうとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます