第77話 『南都ポリネア』 Southern Capital

『南都ポリネア』では新しい手配書の掲示に盛り上がりを見せていた。

 悪魔教が広がっているこの地域では悪魔を崇拝し、天使を滅する思想が根付いている。

 弱肉強食を掲げる悪魔教には絶対王政が存在している。

 月に一度、悪魔たちは集まり決闘を行う。

 そこで勝った1人の悪魔を王として都を統治する。

 つまりはゲーム内での能力によって明確な上下関係が存在している。


『南都ポリネア』第55代目総統、プレイヤー名『ダンデ・リ・ユニオン』は静かに笑っていた。

 ここは南都王宮内部にある王座の間。

 王となったプレイヤーのみ座ることができる王座と呼ばれる格式高い椅子に腰かけ、目の前に立つ3人のプレイヤーを眺めていた。

 頭には二本の黒い角を生やしており、まさしく悪魔だった。


 三人のプレイヤーの一人が声を上げる。

 一番化粧が濃いヴィジュアル系バンドのメンバーのようなその男はプレイヤー名を『ゼウリウス』という。

「いち早く‘‘金の卵‘‘を回収しに行くべきだ!」

 中央にいた小柄だが丸い眼鏡をかけた茶髪の男が応じる。

 片手に本を持ったその男はプレイヤー名を『ナッシュベル』という。

「落ち着いてください。確かに‘‘金の卵‘‘は世界の均衡を揺るがしかねない。実際、最近急成長を続ける『西都』とはレベルの差も縮んできてしまっていますから」


 天使と悪魔の間に明確な対立関係があるのと同様に悪魔の世界でも都を掛けた争いが行われている。

 協力関係にあるはずの悪魔が支配する『東都』『南都』『西都』は対立関係にあった。

 その原因として利害の不一致があった。


『東都』は協力関係を築くために三人のプレイヤーで組織されたグループで決闘を行い、勝者となったグループの三人に三都の統治を任せればいいと発言した。


『西都』は一番弱肉強食の理念に則って行動をしており、悪魔だろうが天使だろうが攻撃をし、レベルを上げること、そしてスキルを磨くことを第一に考えている。


『南都』は現状維持を謳い、一番歴史のあるこの都では歴代の総統によって築かれた歴史を踏襲しようと意見を変えることはない。


 このように都によって意見や価値観は異なり、どこの都を拠点としているかによって行動理念が決まる。

 もちろんどの都にも属さずに単独でプレイするプレイヤーも少なくは無いが、結局は戦力の差で片付けられてしまう。

 どこかの都に属するよう催促されるのがオチだ。

 現状として古くから存在して居る『南都』は圧倒的な数の高レベルプレイヤーの保持を掲げ、三都の中でも一番権力が強かった。

 しかし、最近落とされ、悪魔の都となった『西都』は王となったプレイヤーの意向により、レベルを上げることができるのならばどんな手段を取っても構わないという行動理念を掲げているため、急速にレベルを上げ、『南都』や『東都』との均衡を揺るがしている。


「『西都』のプレイヤーを見かけたら攻撃していいんでしたっけ?」

 三人目のプレイヤー、黒いフードを被り、綺麗な白髪と真紅の目を光らせていた。

 年齢不詳のそのプレイヤーは、名を『シュベイン』という。

「ああ、許す」

『南都』の総統ダンデは頷く。


「なぁ、ダンデ。あんたも‘‘金の卵‘‘の回収に向かうべきだとは思わないか?」

 ゼウリウスがダンデに話しかけるが、ダンデは考えごとをしているのか返答が無い。

 見限ったゼウリウスは肩を落とし、ナッシュベルの肩に手を置く。

「早くしねーと西に奴らに取られちゃうよなぁ?」

 サッとゼウリウスの手を払い落とすと

「確かに、西の国はどこよりも早く動くでしょうね。あの国の王は優柔不断という言葉が一番似合わない」

「それは俺に対する皮肉か?ナッシュ」

 ダンデからの問いにナッシュベルは軽く頭を下げ

「いえ、そういうわけでは決して」


「いずれにしても行動は早く起こした方がいいですぜ兄貴。これからどうしましょ」

 シュベインはヘラヘラと笑いながら尋ねるとダンデの返答を待った。

 ダンデは考えていた。

 何故あのような低レベルプレイヤーに多額の懸賞金が掛けられたのか。

 普通は高レベルプレイヤーの名を晒す目的と戦う意欲を高め、プレイヤーの流動性を高めるために掛けられるはずだ。

 にもかかわらず低レベルプレイヤーに欠けられたということは何かしらの理由があるに違いない。

 懸賞金を設定するのは運営である。

 だとすれば運営の罠か、それともただ単に‘‘金の卵‘‘としてこの世界に産み落とされた存在なのか。

 どちらにしてもダンデの興味を引いた。

(一度会ってみたいものだ)

 ダンデは方針を決めた。


「これからの行動を決定した。‘‘金の卵‘‘を見つけ、見つけ次第し、『南都』に連行しろ」

 一同は同時に笑みをこぼした。

 それぞれの思惑は異なっていたが、‘‘金の卵‘‘との接触を許された。

 行動することが許されたゼウリウスは背伸びをし、

「んじゃ、行ってくらぁ~」

 とやる気のないような声とともに出口へと向かっていった。

「御意」

 と静かに言ったナッシュベルはゼウリウスに付いて行った。

 シュベインは既に消えていた。

 三人の曲者は『南都』組織の幹部である。

 ともに決闘をし、勝ち上がった強者である。



 ゼウリウス

 装備 ショットガン

 LV.76

 体力 882,643

 素早さ 84,321

 守備力 552,341

 攻撃力 782,211

 懸賞金76,000,000



 ナッシュベル

 装備 フルオートライフル

 LV. 77

 体力 853,421

 素早さ 65,478

 守備力 543,984

 攻撃力 675,487

 懸賞金54,300,000


 シュベイン

 装備 オートマチックピストル

 LV. 55

 体力 716,543

 素早さ 103,454

 守備力 246,745

 攻撃力 457,865

ミカドNO.002 崩壊帝 』

 特殊効果バフ 【階級無視】ゲーム内に存在するレベルの概念を無視した攻撃を繰り出すことが可能

 特殊技スキル 【秩序崩壊】攻撃時他の物質、デバフ効果を無視し攻撃する

 懸賞金29,800,000


 ダンデ・リ・ユニオン

 装備 オートマチックピストル

 LV. 88

 体力 1,076,753

 素早さ 86,981

 守備力 897,654

 攻撃力 987,250

ミカドNO.006 鏖殺帝 』

 特殊効果バフ 【異形変身】異形の者に姿を変え、一時的にコントロールを奪われる

 特殊技スキル 【皆殺し】範囲内に存在する全てのプレイヤーに一定のダメージを与える

 懸賞金280,000,000

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る