第79話 秘密基地 Secret base
三人はお互いに自己紹介した後、ソファが向かい合って置かれた部屋で話すことにした。
ソファ二つに挟まれた膝くらいの高さの机と花瓶に入った一輪の花以外はこの部屋には無かった。
やはり殺風景な部屋だ。
メイと名乗るその女性の反対側にカイトとマオは座った。
「あなたたちは一体何者?」
メイからの質問にカイトはどう答えるべきか、迷った。
急にこの世界から抜け出せなくなった話をしたら困惑させるだろうか。
同じタイミングで賞金首になったからと言って抱える問題が同じとは限らない。
だが、人目のつかない場所で隠居生活を送っているとすれば通ずるところがある。
それに賞金首になったタイミングも置かれている特殊な環境も同じだ。
互いに分かり合うためには情報共有も必要だと判断したカイトは全てを事細かに話した。
特殊な病気を患ったこと。
その治療のためにこの世界にいること。
この世界からは出ることができないこと。
このゲームで死んだ場合、現実世界でも死んでしまうこと。
途中途中でマオが補足してくれた。
メイは頷きながら真剣に聞いていた。
話が終わったあと、メイは腕を組み、足を組んだ。
一つため息を吐くと
「あなたたちも同じなのね」
「!それはつまりメイさんも同じ境遇にいるっていうことですか?」
「ええ。全く一緒よ、私も特異な病気を患っていて現実では病院の中…でもカイトが話してくれたことの中で一つだけ訂正することがあるわ」
カイトは聞き入っていた。
「それは治療のためにこのゲームをプレイしているわけではないということよ。治療はあくまで建前。本音は私たちを使って実験してる。治療するならVRなんか付けないほうがいいに決まっているわ」
メイは続けた。
「私たちの病気はVRHSを付けることで発症する。その患者にVRを付けてゲームさせると思う?つまり私たちは研究に使われているモルモットってわけね。世界中でこの病気が流行したらゲームを作っている会社は大損害。だからこうやって秘密裏に患者をゲームに参加させて調べてる」
「…なにを調べているんでしょう?」
「さあね、詳しくは知らないわ。でも患者を賞金首にするなんて正気の沙汰じゃないわ。運営から抹殺命令でも出たのかしら」
ふふ、と笑うメイに肩を震わせるマオ。
あ、と我に返ったメイはわざとらしく咳払いをした。
「兎に角、私はこんな理不尽な世界から抜け出したいの。それはあなたたちも同じでしょう?」
メイは立ち上がり胸を張る。
カイトとマオはそれに呼応するように力強く頷く。
「丁度人出が足りていなかったところなの。私たちでパーティを組みましょう、一人よりも三人の方が強くなれるわ」
メイが差し出してきた手をカイトとマオは握りしめる。
ここに賞金首三人の互いの利害が一致したパーティが出来上がった。
「ところで、メイさん、ここはどこなんですか」
「秘密基地…と思ってもらえばいいかしら。この世界に約数十か所ある隠れ家よ。この場所を認知しているプレイヤーは少ない。だから私たちにとってはうってつけの場所ってことね」
「バレないかな…?」
マオが心配そうな声を上げる。
「熟練の高レベルプレイヤーなら知っている人はいるかもね、この隠れ家もシーズンごとに場所がランダムで変わる。発見するためには神頼み。だから心配はしなくていいわよ、尾行でもされていない限りは」
尾行。
カイトとマオの顔が真っ青になる。
その様子を見てメイは勘付く。
「あなたたち…もしかして追手に追われていたの…?」
二人同時に頷く。
メイも真っ青になる。
二人の小学生の手を引き、急いで駆け出す。
「まだ追っては来ないと思うわ!だからとにかく今は隠れるの!」
ガシャン、ガシャンと何度も扉の開閉が行われ、隠れ家の奥へ奥へと入っていく。
左右に道が別れていた。
右に進むと右の扉を閉めた。
三人とも息を上げていた。
「これで…大丈夫だと思う…」
三人の中でも一番息を荒げるメイは安心したようにその場に座り込んだ。
「…二人とも、知ってる?私たちは普通の人に比べて食欲とか睡眠欲とかは無いんだけど…脳を常に動かしているから突然眠気がきて気絶するように眠るの…この前急に街中で倒れた時は焦った…起きたら布団の上…優しいプレイヤーの人に助けられたわ」
今は助けてはくれないでしょうね、と付け加えると俯いた。
「明日になったらここを出ましょう…そうしたらこれからの方針を伝えるわ…私は少し…ねむ…」
言い終わる前に地面に倒れこんでしまった。
急いでカイトは近寄り、近くにあったソファに寝かせた。
カイトは自分が以前気絶した理由が分かった。
少しは脳を休める必要があるのだろう。
カイトとマオは視界から入ってくる情報を遮断し、身体を休めた。
いつの間にか三人は眠りに就いていた。
*
「おめぇらご苦労だったなぁ!この神殿には隠れ家があんだよ、奴らはそこで隠れているに違いねぇ!!」
細身で黒いレザージャケットを羽織った尖ったヘアスタイルの悪魔が叫んだ。
ヘアバンドで尖った髪を後ろにまとめ、口からは二本の牙が生えていた。
手にはフルオートライフルを持っていた。
「んじゃ、俺行くからお前ら帰れ」
男はカイトとマオを尾行していた二人の悪魔に指示する。
肩には「W」のワッペンが付いていた。
「いやいや。あんたがいくら権力を持ってるっつってもこれは俺らが見つけた獲物や」
「…ここは俺たちに任せてもらおう」
二人の悪魔に詰め寄られるが、その男は動じることはなく、ニコリと笑顔を作った。
「じゃ、死ね」
ドドドドドドドドドッ!!!
即座に引かれたトリガー。
銃口から数多の弾が悪魔一人の身体に横から降り注ぐ。
「てめぇ!!」
もう一人の悪魔がオートマチックピストルのトリガーを引く。
飛び出した弾を難なく避けると一瞬で間合いを詰め、ゼロ距離で弾を発射させた。
「ひゃははははははははははは」
弾は留まることを知らず降り注ぐ。
二人の悪魔は動かなくなり、その後、ガラスが割れるような音とともにその場から姿を消した。
「ぁあー快感だぁぁァ」
男のレベルが上がる。
天を仰ぎながら快楽に溺れていると目的を思い出したかのように顔を正面に戻した。
神殿の方向に振り返ると不敵な笑みを浮かべながら入ろうとした。
しかし、強烈な殺気を感じた。
足を止め、後方に飛ぶ。
その瞬間、立っていた場所に隕石が落ちた。
いや、隕石ではない。
プレイヤーだ。
土煙を立たせながら登場したのは剣を構えた純白の羽を生やした天使。
凛とした表情からは明確な殺意が感じとれる。
「いいねぇ…いいねぇぇ!!!俺の敵にしちゃあピッタリだァァ!!」
ガチャリと銃口を向けると
「俺はデメルギアス…!!殺す天使に敬意を払って」
ニコリと笑う。
「私はミズキ。愛する者を守るため、私は戦う」
剣と銃が同時に動いた。
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