第73話 トリガー Trigger
ミズキが降り立った場所は闘技場のような場所だった。
円状になったスタジアムには上から降ってきた石版が散乱していた。
後方から感じた気配にミズキは羽を広げる。
同時に後方から銃声と共に弾丸が飛んできた。
羽でガードしながら瓦礫に身を隠す。
先程襲ってきた悪魔と同じ場所に落ちたようだ。
ミズキはこの悪魔がカイトの方へ行かなかった事に安心したが、それにしても心配していた。
早く守りに行かなければ。
ミズキは持っていたロングソードを強く握る。
そして立ち上がるといつもやっているように剣を構えた。
剣道の構え、背筋を伸ばし腕をピンと張り、剣を45度に構える。
その時、ミズキの身体ステータス値が上昇した。
このゲームはプレイヤーの脳波を測定する機能が付いている。
一時的な感情の高ぶりや、怒り、悲しみなどの感情で身体ステータスが上昇する仕組みである。
正式に方法は明かされていないが、一時的なバフ効果と捉えられることが多い。
ただ、たかがゲームだと考えるプレイヤーたちの間ではその仕様を嘲笑う風潮も存在して居た。
そもそも脳波の測定という機能自体が公になっていない。
したがってこのバフ効果自体に疑問を持つプレイヤーだって少なくない。
しかし、確かに存在している。
この機能を考案したのは現『Crosslamina』社長澤田和俊である。
彼はレベルの概念に囚われず、低レベルプレイヤーが高レベルプレイヤーに勝つ手段をどうにかしてでも実装したかった。
結果として生み出されたのがこの脳波を測定することによる自身の身体ステータスの向上である。
例え圧倒的にレベルが離れた高レベルプレイヤーと戦う場合でも、例え技術や戦術で敵わない相手だったとしても、自身が闘争心を燃やした時ステータスは向上し、相手に立ち向かえるだけの力が手に入る。
ミズキのステータスは一律2倍に上昇した。
この上昇倍率はプレイヤーの脳波によって異なる。
感情の起伏が激しいほどこの機能は働く。
しかし、ミズキのバフは感情の高ぶりによって得られたものではない。
これは「トリガー」と呼ばれる一時的にステータスを向上させる手段である。
感情に左右されることなく、確定でステータスを上げるこの力は、普段から自分が精神統一や戦う前のルーティンにしていることを行うことで脳が臨戦態勢を取ることで脳波の数値が高まり発生する。
つまりミズキは現実世界で剣道の試合を行う際にしている構えの姿勢を取ることで強制的に身体も脳も臨戦態勢を取ったのだった。
羽を広げる。
その瞬間更なるバフ効果が付与される。
【純白の羽】
素早さの数値が2倍になる。
ミズキのステータスは以下のようになった。
ミズキ
LV. [1]22
体力 [350] 241,138*2=482,276
素早さ [100]52,997*2*2=211,988
守備力 [350]185,491*2=370,982
攻撃力 [400]275,586*2=551,172
一瞬で間合いを詰めると剣を斜めに振り下ろす。
当然避けることができない。
攻撃を喰らいながらも怯むことはなく乱射する。
高速で低空飛行をしながら全ての弾を避ける。
闘技場の壁擦れ擦れを飛びながら弾丸がすぐ後ろを付いて来る。
ミズキは快感を覚えた。
(飛んでいる時が一番気持ちがいい)
飛行能力に加え素早さ数値20万越えとなると体感速度は戦闘機くらいの速さになるらしい。
この素早さを超える数値まで素早さを上昇させることはできる。
だが、殆どのプレイヤーは自身のスピードに付いていくことができず、画面酔いや眼精疲労、頭痛を引き起こす。
そのため推奨素早さ上限値は20万である。
もちろん20万を超えた素早さ数値を所持する物好きもいるが。
高速で移動しながら敵の背後を突く。
(相手にならない)
≪ズバンッ!!≫
一閃。
悪魔の背後を斬ると悪魔は消失した。
きっとあの悪魔は本領発揮する前に何もできず倒れたのだろう、とミズキは考えた。
ミズキは着地すると剣を納め、我に返る。
(カイト!!)
ミズキはまた羽を広げ闘技場の外へと通じる通路へと向かった。
ミズキ
装備ロングソード
LV. 22
体力 241.138
素早さ 52.997
守備力 185.491
攻撃力 275.586
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