第72話 奇妙な穴 Strange Hole
夜の行路を歩きながらミズキと話していた。
「剣道の有段者なんですか?!」
カイトはミズキの発言に対して驚く。
「ま、まぁね。小さい時からやっていて今まで続けてるだけだよ」
「それでもずっと何か一つのことを続けるなんてすごい事じゃないですか!」
カイトの褒める言葉にビクッと身体を震わせる。
心なしか顔が赤い。
「俺なんてゲームくらいしかやってきてないですね」
「それでも十分凄いよ。ほら、クエストの見つけ方なんて私知らなかったし…」
「それは攻略サイトとか見ればわかりますよ」
ニコリと微笑むカイト。
ミズキは思わず後ろに倒れそうになったが何とか制止する。
話に区切りがついたところで今度はミズキから話を振られた。
「カイトは…その…小学生って言ってたよね?このゲームって月額料金取られるけど大丈夫なの?」
やはりその点を気になるのは当然か。
カイトは隠すことにするか、現状をありのまま話すか迷った。
だが、急に「病気の治療のため」なんて話をしたって相手を困惑させるだけだ。
それに自分でもよく分かっていない事象を話すのは難しいと判断した。
「毎月のお小遣いとかお年玉とかを何とか崩しながらやってます」
わざと苦笑いを見せるカイトにミズキは思わず「私が払おうか」と言いそうになっていた。
だが、ミズキは流石に線引きはできていた。
そこまで踏み込めば引かれるし、なんなら自分の性格がバレてしまうかもしれない。
何とか思い留まり、そうなんだ、と相槌を打った。
「ミズキさんはどうしてこのゲームを?」
「呼び捨てでいいよ、それに、敬語も止めて」
「わ、わかりました、あ」
「わかってないじゃん」
ニコリと笑う先輩を見て、自分が一生懸命に話を振っていることが恥ずかしくなった。
大人の余裕のようなものを見せつけられ、自分も余裕を持って会話をしたいと感じるようになった。
その旨をミズキに伝えると
「カイトはまだそのままでいいよ、徐々に徐々に慣れていくものだよ。全ては経験」
と、やはり上級者のようなコメントをされたのだった。
対するミズキは余裕があるわけではなく、常に内心は焦っていた。
どのようにアプローチをしていくのが良いのだろうか。
嫌われないように、頼りにされるように大人の女性を演じなければ。
そう思っていた時にカイトから尋ねられた「どうしてこのゲームをやっているのか」という質問。
ミズキの本音は「現実世界で小学生と出会う機会が無いからゲームの中で出会いを見つけたい」というとんでもない出会い厨だった。
なんならゲームの中なら多少のお触りだって許されるだろうとこの女は思ったのである。
今もいつになったら手を繋いで良いのかと思考を巡らせていた。
当然出会いのためなど口が裂けても言えない。
そのためミズキは
「ゆ、友人に剣道の練習になるって教えてもらって…ほら、実際に剣を扱うからさ」
はは、と乾いた笑いを見せるミズキ。
「そのお友達とは一緒にプレイしないの?」
ギクッ。
確かに、その導入だと友人と一緒にプレイしていないことを不審に思われるか。
実際ミズキにはゲームを一緒にやるような友人はいなかった。
彼女の周りにいる友人はゲームはやっていなかった。
それに自分の性癖についても話したことはなく、このように一人で欲求を満たすしかなかった。
「お、お友達はこのゲームに飽きちゃったみたいで…」
あまりにも苦しい言い訳だが、カイトは笑顔で、そうなんですね、と答えた。
純粋、ザ・純粋。
ミズキは危うく涙が出そうになったがそれも我慢して威厳を保とうとする。
すると目の前に大きな穴が見えてきた。
空間そのものが削り取られたかのように、そんな穴など元々存在して居なかったかのように、周囲のオブジェクトを貫通して存在して居た。
ミズキとカイトは穴の下を覗いてみた。
月の光が穴の中に差し込み、中にいた三人の鎧を纏った人間を照らしていた。
(騎士団だ)
カイトは思った。
先程長老に教えてもらった容姿と一致している。
突如として現れたこの穴に落ちてしまい、気絶しているのだろうか。
わからないが、ピクリとも動かなかった。
カイトが中に入ろうとしているのを見てミズキはカイトにアイテムを手渡した。
回復のポーションだった。
「さっきの戦闘で何発か当たったでしょ?これ使って」
カイトはお礼を言うとアイテムを使った。
体力は全回復するとともに、限界値を超え、体力が1000プラスされた。
「こんなすごいもの…貰っちゃってよかったの?」
「いいのいいの、貰い物だから」
ミズキが持っていた)【回復のポーション完全回復+体力値上限解放1000】は先程いた集落で貰った物だった。
「落下ダメージどうしよう」
穴の中を覗きながらカイトが呟く。
かなりの深さの穴のため、落下すればダメージは免れない。
受け身を取ればダメージは無いと聞いたことがあるが、その術をカイトは持ってない。
「わ、私にまかせて」
思わず声が震える。
ついにこの時が来た。
思ったよりも早く来た。
小学生を抱きかかえるその時が。
バサッと背から純白の羽を生やすミズキ。
レベルが20を超えた場合に取得できるスキル【純白の羽】である。
このスキルはレベルを超えた者は無条件で獲得が可能で、飛行能力、落下ダメージ無効、防御態勢などの力を使うことができる。
カイトを抱きかかえるとミズキは穴に落下した。
このまま奈落の底に落ちても構わないとミズキは本気で思った。
地面に着地するとすぐさま騎士団の安否確認をした。
眠っているようだ。
しかし、なぜこんな場所で眠っているのか。
すると左上に表示されていたクエスト内容が変更された。
【消えた騎士団を探せ コンプリート】
表示が消え、続く、新たなクエストが追加された。
【必殺帝の試練】
カイトは意味が分からなかった。
普通は騎士団を探すクエストの続きとして騎士団を集落まで送り届けるとかそういった内容のクエストが次に表示されるはずだった。
だが表示されたのは全く違うクエスト。
必殺帝?
なんだそれは。
その時。
「カイト、下がって!!」
ミズキの声に肩を震わせると銃声に気付く。
後方に悪魔が潜んでいたようだ。
ミズキの羽に当たって生まれた金属音が鳴り響く。
銃声が鳴りやむと羽を広げ、悪魔目掛けてミズキが突撃した。
因みに【純白の羽】を使用して移動をする場合、移動速度、つまり素早さが2倍の値になる。
このゲームにおけるバフ効果は大抵自身のステータスに倍数を掛けた値になることが殆どだ。
効果で2倍、追加効果で3倍、追加効果で1.5倍、特殊効果で1.25倍…といったように自身のステータスを向上させることが戦闘において重要になってくる。
ミズキが突撃した、その瞬間。
地面が崩壊した。
まるで地面が重さに耐えきれなくなったかのように、地割れを引き起こしながら崩れていった。
「カイトーーー!!」
「ミズキーーー!!」
カイトとミズキは地面の崩壊に巻き込まれ、分断されてしまった。
カイト
装備 ロングソード
LV.1
体力 500+1000
素早さ 150
守備力 200
攻撃力 350
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