第71話 急襲 Assault

 カイトが尾行に気が付いたのは行路を歩き始めて直ぐの事だった。

 尾行に気付く、とは言っても初めから確信していたわけではなく、何者かが後ろにいるという気づきから派生したものに過ぎなかった。

 それでもやはり後方からコソコソとついて来る影は違和感しかなく、きっとこれが尾行と言うものなのだろうと薄々気が付いたのだった。

 となれば真っ先に思い浮かぶのは悪魔の存在である。

 初心者であるカイトを倒しに来たと考えるのが普通だろう。


 プレイヤーは夜になったからと言って減るわけではない。

 むしろ海外勢の多いこのゲームでは夜にプレイする人が多い。

 理由としてはゲーム内に流れる時間が日本の現地時間に合っていることが挙げられる。

 そうなれば他の国で朝の時間帯にこのゲームをプレイしたとしてもゲームの中では夜になってしまうのだ。


 なぜ海外で有名なこのゲームが日本の現地時間とリンクしているかは、過去のナンバーワンプレイヤーに日本人プレイヤーが居たことが大きく関係しているだろう。

 過去の日本人ナンバーワンプレイヤーはランキング1位になったことで一つのルール改変を行った。

 それがゲーム内の時間を日本の現地時間に合わせるといったものだった。

 この改変は海外勢のプライドを大きく傷つけたが、依然として変更されるに至っていないのが現状である。

 このような理由があって日本の現地時間とゲーム内の時間とが合っているのだ。


 話を戻すが、そういうわけで海外のプレイヤーからすれば今からプレイを始める人だっているのだ。

 夜の方が活発と言っても過言ではないかもしれない。

 そのプレイヤーがカイトを尾行している、となればすぐに襲ってこないのは何故なのかという新たな疑問が浮かぶ。

 こちらの様子を伺っているのだろうか。

 だとしたら倒すために絶好のポジションを模索しているのだろうか。

 それとも。


 カイトは予測していた中で一番嫌なものを引いた。

 待ち伏せからの挟み撃ちだ。

 前方には黒い角を二本生やした紅の目を光らせた悪魔がいた。

 手にはショットガンを持ち、カイトを確認するとガシャンとリロードをした。

 後方にいたカイトを尾行していたもう一人の悪魔も姿を現し、不敵な笑みを浮かべる。


 挟まれた。

 レベル1のカイトにとっては1対1の勝負でも勝機は薄いのに対し、1対2になれば絶望的だ。

 半ば諦めていたが、それでも剣に手を掛ける。

 後方にいた悪魔がカチャリと銃をカイトに向ける。

 あれは片手銃、オートマチックピストルだ。

 カイトは弾丸の速さを考えた。

(避けられるわけがない)

 トリガーに指を掛けられ、カイトの心臓目掛けて放たれる。

 運良く外れた弾丸はカイトの肩に直撃した。

 痛みはない。

 与えられたダメージは100。

 カイトの体力は残り400だ。

 ショットガンから弾丸が飛び出す音が響く。

 その瞬間に即座に横に飛び、なんとか回避行動に出る。

 しかし、広範囲に飛び出た弾のすべてを避け斬ることはできず、カイトの身体を貫いた。

 二発、合計200ダメージ。

 飛び出た弾丸は合計5発。

 全てに当たっていたらカイトは倒れていた。

 だが、自分の身を案ずることはできない。

 前方の悪魔はショットガンのリロードをしているし、オートマチックピストルの銃口は常にカイトに向いていた。

 当然回復するポーションも無ければ、立ち向かえる剣技もない。

(ここで終わりか)

 カイトは諦めようとした。


 その次の瞬間。

 後方にてオートマチックピストルを構えていた悪魔の一人が吹っ飛んだ。

 原因はどこからともなく飛んできた斬撃だ。

 ショットガンを構えた悪魔も仲間が吹き飛ばされたことを受け周囲を警戒した。

 そして一つの風とともにショットガンは宙を舞い、前方の悪魔は斬られた。

 2から3の斬撃がショットガンを持っていた悪魔の身体に刻まれると倒れて動かなくなった。


 そこに立っていたのは黒髪ショートの長身天使だった。

 スキンは女性で年齢に換算すると20代といった様子だった。

 クールな顔つきで鋭い猫のような目を光らせると、立ち上がり、銃口を向けたもう一人の悪魔に向かって走り、放たれた弾丸を避けながら近接技で倒した。

 使用していた武器はカイトと同じロングソードだった。

 扱いには慣れているようで、ブンッと空を一度斬るモーションを見せると鞘に剣を納めた。

 そして二人の悪魔はこの世から消滅し、カイトの前に現れた救世主のレベルが上がった。


「助けてくれてありがとうございます」

 スキンからして年上だと判断したカイトは多少の敬意を払いながら話しかけた。

 するとまるで照れ隠しをするように顔を背け、クールなその表情を崩すことなく小声で話した。

「同じ種族だから…助けて当然だよ」

 カイトはその時、同時翻訳機能が作用していないことに気が付いた。

 このゲームは海外で作成されたゲームであるため、多種多様な言葉をリアルタイムで翻訳する機能が実装されている。

 その精度は実際に同じ言語で話している時と殆ど違いはないと高い評価を得ている。

 今、この女性が話した時、同時翻訳機能が働いたことを示すアイコンが表示されなかった。

 つまり目の前にいるこの女性は日本人ということだ。


「俺の名前はカイトです」

 カイトが自己紹介をすると続けて女性も自己紹介をした。

「私はミズキ…高校生」

「あ、俺は小学生です」

 カイトが補足説明するとミズキの口元が少し緩んだ。

(ん?なんか俺変なこと言ったかな)

 疑問に思ったがカイトは納得のいく理由を思いつく。

 このゲームは月額制の少々敷居の高いゲームである。

 そんなゲームをプレイする小学生など世界のはほとんどいないだろう。

 その点においては自分が少々可笑しな存在であることには合点がいく。


 カイトはここで出会ったのも何かの縁だと感じ、ダメ元で協力を要請してみた。

「実は今クエストをやっているんですけど…一人だとどうも心細くて。もしよかったら同行してくれたり…なんて」

 ムリですよねーと頭を掻きながら笑っているとミズキは顔を近づけてきた。

「いいの?!」

 目はキラキラと輝き、頬は赤らみ、鼻息は荒くなっていた。

(間合いを詰めるの早)

 カイトはそのスピードに驚いた。

 かなりの手練れと見た。


「えっと、もちろん、お願いしたいのですが…」

 若干引き気味のカイトを見て我に返ったミズキは一つ咳ばらいをするとクールな表情に戻し、体勢を立て直した。

「まだ初めて間もない感じだよね…?私が教えられることならなんでも教えるよ」

 胸に手を当て堂々と言い張るミズキ。

(頼りになる…!!)

「よろしくお願いします!!」

 こうしてカイトにこの世界で初めてのフレンドができたのだった。



 カイト

 装備 ロングソード

 LV.1

 体力 200

 素早さ 150

 守備力 200

 攻撃力 350

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