第62話 決勝戦⑤ Final game=5

 義武vs暗黒。

 決勝戦が始まってから30分の時間が経過した。

 依然として砂嵐が視界を遮り、二人の間には膠着状態が続いていた。

 義武としては砂嵐がある以上自分に分があると思っていたが、油断はできない状況に陥っていた。

 暗黒の持つランスが避雷針としての役割を持ち、雷を纏わせた砂鉄の斬撃はあの槍の前では効果が掻き消されてしまう。

 あの槍に触れた瞬間砂鉄はただの砂に還り、さらりと風に舞っていくだけである。


 だが、それでも義武に分があった。

 暗黒は適切な箇所に、そしてベストなタイミングで槍を振るわなければ雷を纏った砂の斬撃によって一刀両断されてしまう。

 義武が先述した通り、この状況下では義武に負けはあり得ない、つまり最強だ。


 しかし、それはこの環境がずっと維持される場合に過ぎない。

 しかも未だに砂鉄による攻撃を暗黒は喰らっていない。

 これが四大公式組織‘‘黄虎‘‘のリーダー暗黒か。

 この状況では最強と言ったが、それもわからない。

 いつ反撃の狼煙を上げられるか、判然としなかった。


 暗黒は一切動かなかった。

 その姿はまるで相手を確実に倒すために適切な頃合いを見計らっている暗殺者のように感じられた。

 次の攻撃は、いつ実行するのが最良か。

 思考の為、動きを鈍らせたその瞬間を暗黒は見逃さなかった。

 暗黒は一瞬で17文字の英数字記号のコードを口にした。



「JUVEFNP-1RNAZMH+1」



 一言一句間違えることはなく、長年使用するタイミングを見計らってきた一生に一度のチートコードが唱えられる。

 その瞬間に砂嵐が消える。

 暗黒の視界を映像が乱れるような感覚が襲ったが、それは義武も同じだったようで、眩暈を催したように頭を抱える。

 しかし、すぐさま体制を整えると砂嵐が消えた事実を確認し、即座に暗黒目掛けて走り出した。

 砂嵐が無い以上、単純な力で戦うしかない、そう判断した。

 判断は正しかった。

 だが、義武は暗黒との間にある単純なレベルの差を失念していた。

 暗黒はただ槍を突き刺す。



槍技ランススキル:ホワイトスラッシュ】



 一閃、義武の身体を貫いた後も攻撃の手を止めない。

 後方目掛けて身体を回転させながら義武の横腹目掛けて振るう。

 義武は何とか体制を整えようとするが叶わない。

 HPはみるみるうちに減っていく。

(最後の足掻きだ)

 義武はアイテムを使用する。



【爆弾(カスタム済み)】



 自身もろとも、周囲一キロのプレイヤーを爆破し、致死量のダメージを与える超攻撃型爆弾。

 当然爆破によって義武はリタイアとなり、暗黒はー。

「アイツが爆破で成りあがってきた奴だったのか」

 咄嗟に使用した魔法によって防御に成功していた。



【金:‘‘最上位‘‘防御魔法=全反射防御鎧フルアンチバリアアーマー



 暗黒は金色に輝く鎧に身を包み、立っていた。

 全てのアイテム、全ての魔法、全ての剣技。

 ありとあらゆるクロミナ内に存在する技を無効化し反射する悪魔みたいな鎧。

 持続時間は5分。

 彼は5分間、最強となった。


 義武の自爆を完璧に防御できたかと聞かれたらそれはノーだ。

 突然の爆発は暗黒にとっても予想外のことで、仮に義武が自爆戦法によってプレイヤーを一掃し、勝ち上がってきたプレイヤーだと目星がついていたのなら爆破にも即座に対応できていたのかもしれないが、生憎暗黒はそこまで考えが至っていなかった。

(奴が一人だったことも考慮すべきだった)

 暗黒のHPは半分削られ、魔力も殆ど最上位魔法を使ったことで底をついていた。

 つまり彼がトップになるにはこの五分を有効活用するしかない。

 五分で全員を倒す。

(そして一位となり、俺は解放される)

 暗黒は遠くで黒い煙幕が上がったことを確認した。



 *



 ギラの思考はまとまっていた。

 リンは兎も角、この無記名組織のカイトというDブロックから勝ち上がったこのプレイヤーはどこかおかしい。

 単純な速さだけではない、レベル1000を超える仲間5人を一振りで葬り去りやがった。

 となると、こいつは紛れもない、俺よりもリンよりも強い、間違いなく現環境最強プレイヤーだ。

 問題はなぜ今になって本領を発揮したのかという点だ。

 この力があれば予選はおろか本選だって一振りで終わったはずだ。


 自分の力を隠している?

 隠していなければ煙幕を使う必要もない。

 確かに今の今まで最強プレイヤーであることを隠してきたとなれば考えられるのは一つしかない、こいつが放置によってレベルを上げた‘‘放置厨ほうちちゅう‘‘だということだ。

‘‘放置厨‘‘は単純なレベルだけで勝負するため軽蔑の対象となっている。

 本来単純攻撃力やスピードが速くてもその力を扱いきれず、ただのHPの多い木偶の坊と成り下がることがテンプレだった。

 何故なら経験者との間には歴然とした経験の差が生じてしまい、戦略や道具の使い方によっては勝ち目が無いからだ。


 だが、こいつの場合は自分の力を扱いきれている。

 そしてトッププレイヤーである俺やリンに一切隙を作らない。

 そしてなんなら四人のトッププレイヤーを消した。

 これは‘‘放置厨‘‘の単純な攻撃力云々の話だけでは収拾がつかない。

 コイツは間違いなく一位を取ってくる。

 ギラは悔しそうに奥歯を噛む。

(これでようやく解放されると思ったんだが)

 ギラは思考を止め、全力で戦うことに決めた。

 やれることはやる、それが一番だと結論付けた。



【水;‘‘上位‘‘環境変化魔法=冷血大地アイスフィールド



 ギラの足元から氷が瞬く間に広がっていき、辺り一面が氷の床に変化した。

 カイトの足元も氷となり、行動が大幅に制限された。

 リンは自身が発する炎で周囲の氷を蒸発させていた。

 カイトは魔法を扱えない。

 ステータスに表示されている魔力は0であり、その上魔力系統も選択していない。

 この状況下ではカイトに対処できることはない。

 氷を利用して物凄いスピードでカイトの元へと向かってくるギラ。

 カイトはただ茫然と立ち尽くしていた。

 ここで倒されるのが一番自然だと判断したのか、カイトは動かない。

 カイトは防御すらも解除していた。


 しかし、次の瞬間、横槍が入った。

 ギラ目掛けて一人のプレイヤーが突進してきたのだ。

 金色の鎧に身を包み、全ての技を反射する彼は真っ先にギラを狙った。

 実に4年ぶりの邂逅であった。

「てめぇ、邪魔すんじゃねぇよ!くそ野郎がァ!!」

「お前を殺す」

 ついに集結した四人のプレイヤー。

 決勝戦はついに最高潮クライマックスを迎える。

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