第50話 Dブロック本選⑦ Semi-finals=7

 周りを見たらいつの間にか炎が回っていた。


 そこには倒れる組織ギルドメンバーたち。


 いまから蘇生すれば間に合う。


 だが、彼にはそれができなかった。


 ただ、そこで一方的な攻撃を受けるメンバーを眺めることしか、できなかった。


 全く見向きもされない自分に、本当に自分は此処に存在しているのか、時折不安になる。


 彼の頭の中では葛藤が支配していた。


 自分は彼らを裏切った。


 なのに彼らはそれを最後まで信じようとせず、自分を信じようとしてくれた。


 そんな優しい人たちが自分のような周りの顔色だけを疑っているゴミのような人間のために敗れていくことなどあってはならない。


 そう思い、立ち上がる。


 だが、すぐにアイツの顔が思い浮かんでしまう。


 また、攻撃される…。


 そう思うと足がすくんで動かない。


 情けない、そうは思うが彼はその思考をすぐに正当化してしまう。


 だって、怖いから。


 だって、痛いのは嫌だから。


 だから自分のことを信じてくれた人が自分のために死んでいったって何も考えないんだ。


「そんなわけねぇだろ!」


 マルスは大声を上げ、すぐに一人残されたメンバーの元へ行く。


 そして剣を構えるガンマの前へと躍り出る。


 ガンマはなんだこいつ頭イッちまったかぁ?みたいな目で見てくる。


 だが、そんなの関係ない。


 だって…。


「どけ」


 マルスは足蹴りを喰らう。


 それによって横の木に激突する。


 また身体が震え始める。


 でも。


 マルスはまたガンマの前へと出る。


「マルス…さん?」


 後ろの浪河 玲が声を上げる。


 意外なマルスの行動に驚いたのだろう。


「なぁ、佐藤。お前死にてぇの?!お前死んだら色々と面倒なんだけど?」


 さらにガンマは付け加える。


「せいぜい俺の手足となって死んでくれねぇ?面倒くせぇからさぁ」


 マルスは口を開く。


「こ、こいつは倒さなくてもいいんじゃないか…?どうせ俺を倒さないのならメンバーが一人二人いても…」


「駄目に決まってんだろ?頭おかしーのか?」


 当然のように拒否される。


「コイツが一番危ねぇっつってんのにコイツ殺さなくてどうすんだよ?守ろうとする前衛も消えた今、絶好のチャンスなんだよ」


 そう言うと一発のパンチがマルスの腹部に入る。


「ぐぁぁぁ!!」


 マルスは思わず声に出して叫んだ。


 ガンマに従い、痛覚無効をOFFにしているのだ。


 痛みに転がり回るマルス。


「ふっ、そのまま転がってろ。カス」


 そう言うとガンマは持っていた盾を振り上げた。


 狙いは浪河 玲だ。


 この盾一撃で倒れるほど、浪河 玲はダメージを負っていた。


 そもそも魔力パラメータに殆ど費やしているため、体力は少なかった。


「アイツも5人組の無記名組織ギルドを壊滅させてるところだ。早めに殺さねぇと、時間が来ちまう」


(5人組 無記名組織ギルド…カイトくん…!)


 盾を大きく振り上げ、浪河 玲の元へ叩きつけようとした。



 *



 戒斗は森の小道を走っていた。


(流石に速いな、アイツ)


 狙いは音速で逃げ去った黒タイツ犯人野郎。


 アカウント共有を使えばすぐに追いつけると思うが、まだ早い。


 それはこの場においては適していない。


 どこに行ったのかもわからない状態で闇雲にスピードアップして走っても撃破することはおろか、見つけることもできないのだ。


 そのためその時は一瞬。


 敵の位置がはっきりした瞬間に一気に叩き込む。


 その時。


 目の前で山火事が起こっていた。


 炎が燃え移り、周りの木々を巻き込んでいる。


 炎と言えば、あのガンマっていう奴の魔法だったな。


 戒斗は思い出す。


 すると目の前の木々が炎によって倒れたその先に知っている顔があった。

(玲先輩…?!)


 その先にはガンマが盾を今にも振り下ろそうとしている。


 他の連中はどうしたんだ、という疑問よりも先に身体が動いた。




 *




 ドッ!!


「?!」


 ガンマが思いっきり振った盾は全く動かなくなった。


 まるでその盾の主導権が奪われたように。


(この感覚…まさか!)


 ガンマが気づいたときにはその盾は空へ飛んでいった。


 そして目の前に現れた存在にガンマは思わず笑った。


 それは何の笑いなのか。


 だが、これだけは言える。


 歓喜ではない。


「生きていたのか。まぁ、なかなか終わらねぇからどうしたもんかと思っていたが。やっぱりしくじりやがったかあのカス」


 戒斗は玲を抱え、後退する。


 すると玲は戒斗の腕を掴み、訴える。


「か、カイトくん。わ、私はもうダメみたい。だから逃げて」


「嫌です。逃げません。戦います」


 戒斗がそう言うが、玲は首を横に振る。


「そ、その気持ちだけですごい嬉しい。でもね。あの組織ギルドはまだ主力の二人が残っているの。だ、だからカイトくんがどんなに強くても…」


 戒斗は大丈夫ですと、そう言うつもりだった。


 だが。


 ドッ…。


 後ろから誰かに触られた感触。


(しまっ……!)


 明らかに焦る表情を見せる戒斗の気持ちを汲んだのか、玲は一言告げる。


「行って」


 そして玲はにこりと笑った。


 戒斗は悔しそうにするが、自分が死んでは元も子もない。


 戒斗は何も言わず、玲の元で頷くと背後へと走った。


 その道端、後ろから誰かが気絶する音が響いた。


 それも全て断ち切り、目の前の敵へと向かう。


「もう終わりだよ…。僕に辿り着くことなんてできない…。今すぐみんなの元へと送ってあげるから…」


 確かに距離にして100メートルほどあった。


 十分に魔法を唱えられる距離だ。


 だが、戒斗はすぐさま"ある道具"を投げ付けた。


 それは両者の真ん中ら辺で炸裂し、紫の煙が漂った。


「ん!目眩しのつもりか…。でも無駄だよね…」


 そして魔法を唱え始める。


 しかし、戒斗はすでに手を打っていた。


 相手が一撃必殺なら、こちらも一撃だ!!


 [アカウント共有]を選択する。


 この煙の中では何が起こっているか、周囲にはバレない。


 そして徐々に移動速度が上がっていく。


 それとともに戒斗は「カイト」へとなっていく。


 手には魔滅剣シャイリアル。


 攻撃力が最高の武器。


(これで終わりだ!!!)


 カイトは敵目掛けて剣を突き上げた。


固有剣技ソードスキル=シャイリアル・スラッシュ】


 キィンッ!!!


 余りに余ったその力は敵を撃破するだけでは留まらず、上空へと飛び、空高くまで斬撃が届いた。


 遠くの方でガンマが舌打ちをした。


 すぐさま剣を仕舞うカイト。


 その瞬間にバトルフィールドにあった魔法や道具の効果が切れ、本選終了の合図が鳴り響いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る