第99話 一筋の光 Ray of Light
「もう少し耐久値を上げたらよかったのでは?」
隣にいた白衣を身にまとった研究員に質問される。
ここは『Enge : Devil Online』を管理するオペレーター室。
多くの部門に分けられたオペレーター室の中でも脳波と身体状況を管理する研究室である。
「プロジェクトγ」の実行と共に開設されたこの機関は室長を霧春真治が務めている。
都内の病院に隔離した霧春芽衣奈と木下戒斗を常に監視し、同時にゲーム内の動向も詳細に監視を続けている。
最先端技術のAIを搭載した
通称「MAO」。
体力や守備力は最低値だったため、悪魔からの攻撃は一撃でも耐えられない。
「いいや、これで良かったのだよ。彼女は十分役割を果たした」
霧春真治は不敵な笑みを浮かべながらそう答える。
「彼女の死によって木下戒斗と芽衣奈の脳波指数は今までとは比べ物にならないほど上昇している。感情が高ぶっていることを示している…。芽衣奈と木下戒斗に「脳波測定器」を付けることもできたし、もうお役御免さ」
芽衣奈は中々隙を見せてくれないから心配したよ、と独りでに呟く。
監獄での唐突なボディタッチ。
あれは間違いなく霧春真治が彼女に命じたものだった。
「では問題はもう一つの方でしょうか」
研究員の一人が手を挙げる。
霧春真治はため息を吐きながら頷く。
ここ数日、外国籍の警官から木下戒斗と霧春芽衣奈が隔離されている都内の病院を調査させてほしいとの要請が入った。
当然断ったが、最悪裁判沙汰に持ち込むと脅され、今もなお膠着状態が続いている。
警官の男は確かに言った、オレには証拠がある、と。
霧春真治は大方目星は付いていた、というか彼自身が言っていた。
自分は警察だと。
「MAO」は視覚情報の共有が可能である。
南都に行った際、確かに目に入った大柄な男。
ダンデ・リ・ユニオンの存在に、彼は気が付いた。
「厄介な男を引いたものだ」
このまま事態が進めば霧春真治らが行っていた全ての研究内容が公になってしまう。
ダンデ・リ・ユニオンにしてみれば当然これからゲーム内部で木下戒斗らに接触を試みるだろう。
そして現実と仮想空間の両方で彼らのサポートに徹する。
問題なのが、ゲーム内の彼を排除したところで事態は収束しないことにある。
例えゲーム内でダンデ・リ・ユニオンを暗殺したところで、現実世界で行動されてしまえば意味が無い。
今、ダンデ・リ・ユニオンには二つのカギを握られている状況にある。
一つは仮想空間でのカイト、メイとの接触をする権利。
一つは現実世界での木下戒斗、霧春芽衣奈との接触をする権利。
その二つを有してしまっている。
その事実は即座に親元である米国最大手VRMMO会社「Thunder」に伝えられた。
今はその対応待ちである。
どう動くか、霧春真治にとってはいち早く知りたい情報だった。
その時、一通のメールが届く。
送ってきたのは「Thunder」社長、マークだった。
即座にメールを開く。
そこには。
「何が書いてありましたか?」
恐る恐る研究員の一人が霧春真治に聞いた。
霧春真治は真剣な表情で読むと、突然笑い出した。
「ダンデ・リ・ユニオン、本名レイトリー・ダンデは消される!我らに歯向かった罰だ…!!即座に抹殺命令が下されたぞ…!!」
ふはははは、と声高に笑う霧春真治。
周囲にいた研究員の顔は引きつっていた。
その時悟ったのだ、正義は巨悪には勝てないと。
そして今自分が加担しているのは間違いなく悪なのだと。
*
ダンデ・リ・ユニオンの下に一通のメールが届いたのはネメシスと別れた後だった。
あの後、回復を終わらせると安全地帯を見つけ、ログアウトを遂行した。
そして現実に帰ってきたその時に、メールが届いたのだ。
まるで全ての行動が筒抜けになっているかのように。
少々気味が悪くなったダンデ・リ・ユニオンは携帯を手に取る。
そしてメールを開き、中を確認する。
送ってきたのは澤田という人物だった。
初めは間違って送られたものだと思った。
しかし、内容は完全にダンデ・リ・ユニオン自身に送られたものであると徐々に判明した。
初めまして。
私は日本にてVRMMOの会社を運営している澤田和俊だ。
突然のメール申し訳ない。
君の命が危ない。
今すぐ日本行きの飛行機に乗って下記のリンクの場所に来てくれないか?今すぐだ!
真実を知っている者は君しかいない。
カイト、そしてメイを助けるために、そして米国最大手VRMMO会社「Thunder」の闇を打ち砕くために、一肌脱いでほしい。
君だけが頼りだ。
勇敢なる戦士よ、私と共に戦ってほしい。
ダンデ・リ・ユニオンは悟った。
そして迷わず支度を始めた。
焦り、驚き、恐怖、様々な想いが脳内を錯綜していた。
だが、たった一つ、彼を奮い立たせるものがあった。
それは調査内容が真実であったということ。
澤田和俊、知っている、日本の最大手VRMMO会社「ZONE」の社長だ。
その彼が警鐘を鳴らした、つまり今扱っている事件に信ぴょう性が生まれた。
(必ず闇を公にしてみせる)
彼を乗せた飛行機は一時間後に日本へ飛び立った。
その同時刻に、彼の元居た部屋は謎の集団によって荒らされていた。
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