第六十九話 ロスト
紫電 神威(しでん かむい)が手に持っていたグラスを地面に投げつけ、盛大に粉々になった。
「何故、勘づかれたっ! そもそも、GPSの類は通信していなかった。更に、囮も配置したのに報告を聞く限り真っすぐ本命に向かって来たそうだな?」
「はい、報告が正しければそうなります」
部下はチラリと投げられた、グラスを見たがすぐに直立不動になるとそう答えた。
(どうなっている? 種が判らねば、同じ手段は取れぬ)
逃げられた時も、遺産らしきものを幾つも使っている形跡があった。
つまり、あのバカみたいに速い高速艦は遺産を幾つも積んでいるからあの機動力なのか……?
顎に手を当て、考えるが予想の域を出ない。
「追跡用の何らかの、遺産がある?。 だが、そんなものの存在を聞いた事が無い」
また、顎に手を当て考える。
「セリグが、そう言ったものを持たせていたのなら流石に判るはずだ。元とは言え、同じ軍の上官だった男。自分の持てる手段が、我らに筒抜けな事くらいは判るはず」
いったりきたり、して時々天井を見ながら考えをまとめる。
「あの艦の速度と機動力は異常だ、だからといって降りた所を狙って誘拐も無理となれば。もう、直接的な手段では無理と思った方がいい。それでも、フェティを捉える事を諦める訳にはいかぬ」
対空追尾ミサイルをよけながら、振り切って大気圏を突破し。その勢いを殺さず、パルスも爆縮砲も全て受けきった。こっちは、艦隊を率いて連携し。音速に達するだけのエンジンで追いかけたにも関わらず離されたのだ。攻撃をよけながら……。
見てくれはお世辞にも良いとは言えないボロ艦の癖に、性能だけは妙に良かった。
(あの、セリグが逃げ込むのも納得。つまり、艦にのせてしまった時点で失敗だった)
再び、ゆっくりと考えをまとめる。
「アラネアはいるか?」
「ここに」
眼の前に現れた女性が一人、年は二十前半と言った所か。
特徴的なのは、栗毛色のセミロング。
背は、百七十を少し上回る位か。
「アラネア、セリグと合流し監視をする事は出来そうか?」
アラネアと呼ばれた女性は、敬礼しお任せ下さいと言った。
「信用される為なら、こちらの兵士を殺しても構わない。それで、一年か三年程。私を裏切ったという形でセリグに近づけ。もちろん、情報を送る等はしなくていい。合図があれば裏切れ……、勿論フェティ様奪還が最優先ではあるがその次にお前の回収に尽力しよう」
アラネアは一つ頷くと、その場から消えた。
副官一人向こうにつけるのは少々痛手だが、こちらの兵士でセリグと接点があり近づく事が出来そうな可能性は彼女しかない。
(これで上手く入り込めれば良し、そうでなくば少々厳しいな)
室内にある、熱帯魚にエサをやると水面より上に飛び上がって食いついた。
「これぐらい、釣れてくれれば楽でいいが。五分五分といった所だな、セリグはあれで慎重だ」
にしても、やっかいな……。
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