第百三十八話 悪夢の艦
ナラシンハから供給されるエネルギーがどんどんと増大し、もはやサイボーグに当初の意識がなくなった頃唐突にその意思は現れた。
「久しいな」「何者です?」
低く、恐ろしい底冷えのするような声。悪意の意思、何よりその声にはセブンスに対する恨みが籠っていた。
「我が名はヤハウェ」
アンリクレズは機械であるにも関わらず、緊張が走った。
「ナイトメア理論、その創造主うち一人と同じ名を名乗るとは不敬な」
「我はその創造主よ」「AIごときがその名を名乗るな汚らわしい」
「貴様こそ、不敬である」
「我の創造主はヴァレリアス博士、その意思はマスターの道具である事。お前は我が創造主ではない、そして私のマスターでもない」
「確かに」「今の私は、マスターに乞われた任務を遂行中。その優先度は私の命に勝る」「なんと、セブンスにマスターがいるだと?」心底驚いたような声でヤハウェが言った。
しばし、沈黙し。そして結論を出した様に、ヤハウェが言い放つ。
「その凶悪な性能と、その一途過ぎる意思によって創造主に封印されたお前にマスターがいるだと!!」「肯定します」
再び、ヤハウェは沈黙しサイボーグを下がらせた。
「どういうつもりです?」
アンリクレズが尋ねるも、ヤハウェが言い放つ。
「どうもこうもあるか、お前にマスターが居るだと? かつて、我らはセブンスに滅ぼされかけたのだ。マスターの居るセブンスは、マスターの技量や魂の質によってはあらゆる兵器に勝る。この様な玩具では話にならぬわ!!」
人間の意思ごと焼き切られた、サイボーグが勝手にどさりと煙を上げて崩れ落ちる。
「ナラシンハよ、急ぎこの事を全ナイトメア艦に通達せよ。我らの天敵はマスターを持って目覚めておるとな」
かってに通信を始めた、ナラシンハに艦内が慌ただしく右往左往している敵達を何かのトラブルかと勘違いしたセリグとフランの二人が再び、目的地に向かって走り出した。
アンリクレズは二人へのサポートをしながら、ヤハウェとこうした会話をしている。
ヤハウェが勘違いしている事があるとすれば、セリグとフランのどちらかがそのマスターだと思ってしまった事。まさか、セブンスの力を赤の他人に貸し与える様なマスターがこの世に存在するなんていう可能性をみじんも考慮していなかったのである。
(それは、セブンスを知っている自分なら絶対に取らない選択肢だから)
そんな誤解を持ってしまう程、自身がかつて受けた屈辱的な敗北は記録として刻みつけられている。
ナイトメア系の開発者として、AIとしてこうして生きながらえている博士が、現代でナイトメア艦のあちこちで意思をコピーして生きのびている等。
(何処までも祟りおる! ヴァレリアスめ!!)
ジジイの方がマスターであれば、寿命まで粘れば恐らく問題ない。
しかし、あの傭兵の方がマスターであれば大問題だ。
人ならざる力を持った傭兵が、宇宙最強を争える兵器を手にしている事になってしまう。
可能性を考えるなら、傭兵がマスターである確率の方がはるかに高い。
それは、サイボーグから抜いたデータを見ても明らか。
(対策を練らなければならぬな)
ナイトメア系は強い、それこそ宇宙の覇者となれる位には優れた技術だ。
犠牲にさえ眼をつぶれればの話だが、ヴァレリアス系はその犠牲が必要ないのに同じかそれ以上の力をどうやってか引き出す。すなわち技術体系もアプローチも違っていながら、ナイトメア艦の後期型を、幾つも叩き潰した実績があるのだ。
あれは、マスターが存在しなければ動かない。だから脅威になりえない、そういう前提だった。認めるのは癪に障るし、見るだけでも不愉快になる存在ではあるがセブンスという存在は自分が見た事も聞いた事もないティアドロップと違い。ヴァレリアス系で存在を確認している唯一の兵器であり、間違いなく動いていれば知りうる限り最強のスペックをしている。現代においては、その力をマスターが知っているか。使いこなせるかによっても大分驚異度は上下するだろうが。
ナイトメア艦は、意思を持ちその意思がマスターを選び。不愉快であれば、マスターでさえ食い潰す。それは兵器も武装も同じだし、そう言う意味で敵にも味方にも悪夢をもたらすという技術体系に他ならない。それが、名の由来でもある。
更に、セリグやフランがラッキーだったのは、なまじセブンスを知っていた為に、今回ヤハウェが引いてくれた事にある。
<ヤハウェはセブンスが七つに分けられた事を知らない>
セブンスが宇宙最強である為には、エネルギー問題を解決する錬金塔や最強の兵装であるギャラルホルン、最速の演算装置であるアンリクレズ、無限の倉庫等が十全に使える完全体である場合の話。
倉庫と演算しかない、今のアンリクレズの手札がバレる事があればそれこそどんな犠牲を払ってでも二度と宇宙に復活しない様に潰しにかかるだろう。
そういう意味では、本当に運が良かったと言える。ナイトメア艦を開発する程の悪意の塊でありながらAIである為勝率が一定を越えないと挑まない。
千載一遇のビッグチャンスを、ヤハウェはこの時逃したのだ。
この様なやり取りが存在した事を、人間側は全く知らない。
そして、先を急ぐセリグとフランの二人は通常兵器を持つ兵を掻い潜りながら上を目指すが再び別の敵が行く手を阻むのであった。
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