第七十七話 セリグとフェティ

プレクス艦内で向かい合う、セリグとフェティは大きく息を吐きだした。


「何とか、通過できましたか。この機械惑星は、セキュリティが厳しいですからな」


そういって、自分の入れたコーヒーを飲むセリグ。



「依頼達成率の高い艦族二人と、A級傭兵の看板は本人たちが思ってる以上だと言う事なんでしょう」


今は、シャリーも居ないので演技の必要もないとフェティも紅茶で口を湿らせた。


「ははっ、確かに。特に、A級傭兵やB級傭兵が相手ともなれば如何に艦数五百万を抱える機械惑星と言えど強気には出られません」


もしも、自分が現役の軍人の時でも敵対は愚策。問題がないのなら通す。


この宇宙で、B級以上の傭兵というのは『個人で艦隊を倒しうる程、戦闘力がある』。


平たく言ってしまえば、傭兵のC級とB級の間にはそれ程差がある。


「コックの資格はフェティ様に美味しいご飯を作ってあげたい一心で取ったものですが、ここで役に立つとは。資格は身を助けますな」そういって、微笑むセリグ。


「そうね、専属コックの資格で入った以上。食料と調理器具等は、好き放題購入できますからね。艦長の許可さえあればだけど」


フェティはセリグの娘としてここに居る以上、同伴無しで外は出歩けない。


「内情を知っている我々からすれば、真に恐れるべきはフランさんではなく響さんなのですけどね」


あの技術力に加え、空間に干渉し。距離を無視した物資のやり取りやメッセージのやり取りを可能にし、その上で爆縮砲すら捻じ曲げて見せたセブンスという名の遺産。



「あの、三下感でいつも忘れそうになるのですけどね」とフェティは苦笑した。



「それで、我々のこれからですが。あの男は諦めないと思います」セリグは真剣な顔でフェティに向き合う。フェティも姿勢を正し、判っていますとかえした。



「私の肉親を殺し、我が国を滅茶苦茶にした。神威ですね」

「はい、俺としては痛恨の極みです。あんな男と見抜けず、軍部を任せていた」



こぶしを強く握りしめ、膝を強く叩いた。



「有能でしたから、彼は。その光で周りの眼が曇っていたのは事実です。無論、私も」


フェティが暗く、俯いた。


「少なくとも、この艦に居れば安全ではあります。俺の様な年寄が親では不満もありましょうが」


「実の兄弟や親なんかよりも、貴方は誰よりちゃんと私を育てて下さいました。感謝しています」そういってフェティが頭を下げ、もったいないとセリグが慌てふためいた。


貴方がいなければ、私は家族の愛すら知る機会なんてなかった。


ふっと、フェティが笑った。


「私を、支えてくれてありがとう」「もったいない、お言葉」



「元軍人として、申し上げます。我々は痩せこけても泥にまみれても、その身を削られながら。守りたいものの為に、身をよじり、痛みと苦しみを耐え。友の死体や血肉にまみれながら戦い続けるから軍人足りえるのです。自らの欲の為に戦うのならそれは軍人ではありません、どれ程強く、どれ程優れ、どれ程の力を持っていたとしても」



諦めないからこそ、自らの限界が見えても戦い続けるからこそ軍人足りえるのです。

守りたいものが民なのか、信念なのか、何なのかは問題ではありません。



セリグは、しっかりとフェティを見つめ真剣な眼差しで強く言った。



「政治をするものは、それを忘れてはいけません。軍人は職業ではない、生き様なのですよフェティ様。俺は職業の軍人はやめましたが、生き方は死ぬまで変えるつもりはありません」


フェティもセリグの方を真剣な眼差しで見ると、こう返した。


「それでは、私は貴方という立派な軍人に守られるだけの価値を血ではなく人でしめせねばなりませんね」



そういって、セリグの右肩にそっと触れた。



「フェティ様」「例え、我々にどういう運命が待っていようとも頼りにしています。お養父様」


(あの方々ではなく、貴方を頼りにしています)



二人の、テーブルの上のカップは僅かなぬくもりを残していた。



「話は変わりますが、今日の夕食は何にいたしましょうか?」

「餡かけスパゲッティが食べたいのですが、出来ますか?」



セリグは、にっこり笑ってお任せ下さいと胸を叩く。


「キッチンを拡張して頂いたので、出来る様になりました」

「本当、宇宙艦とは思えませんね」フェティが口に手を当てて困った様に笑った。


「支払いが、怖そうです」とセリグもおどけた。



どこか気持ちもほぐれ、ゆったりと過ごせる時間。



(落ち込んでらっしゃらないのが、せめてもの救いか)


セリグは心の底から、そう思った。

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