第百二十五話 独り言
全員が出払った後、モブは必死にプレクスを直しながら独り言を呟いていた。
勿論、臨時でつないだ部分は全て外している。
「全く、どうなってんだ……」その呟きはいつもより近い天井に消えていく。
冷暖房も含め、全点検をし。確実に修理を行っていく。
もう直した筈の場所も全数点検し、確実にその目と手で確認していく。
(そうしないと、安心できねぇ)
部屋もキッチンもとにかく自分が確認できるところは全部確認し、そして扉を閉じた。
特に通信系はよりも念入りにチェックしたが、特に変な仕掛けとかは無かった。
「おかしいな……」そう、何の見張りも無く仕掛けもないのにこの位置がバレる筈がない。これでバレる様では、何のために港がない未開惑星に止まって、港の帳簿に乗るのを避けたのか判らなくなってしまう。
(あんまり仲間を疑いたくはないんだが……、仲間を危険にさらすのはもっと頂けねぇ)
そういって、通信機に細工をした。いわゆる逆探知と通信内容の傍受を通信機に組み込むと無言で蓋を閉じる。
「セリグさんが話してる相手は、元部下のアラネアさんだっけか。随分信頼しているようだったから、あるとすればアラネアさんの所を敵がハックしてる可能性か」
モブは、アラネア自体を疑っている訳では無かった。むしろ、利用されているのではと危惧していた。とは言っても、勝手にこういう機材を取り付けるのはどうかとも思ってはいたが。
(響にも黙っておいて、もし見つかったら俺だけワリ食うか)
そうだ、そうしようと勝手に考え通信機に爪の先程度の装置を組み込むとそれを閉じ。ご丁寧に電源は内部配線から取っているので切れる事もないし、ログは全て自身の部屋にある小型端末にだけでしか読み取れないようにした。
何食わぬ顔で元に戻すと、大きく息を吐きだす。
ふと、部屋を見渡せばセリグさんの背広やシャリーが勉強する為の今は電源の切れたタブレットが整頓されていた。
それを、チラ見してから扉や鍵をチェックし部屋から出ていく。
「もう、セリグさん達が来てから随分立つなぁ。最初は俺達二人だけでやってきたのに、フランが仲間になって、シャリーがそらから落ちてきて。最初は護衛依頼だったのに、いつの間にか避難してくることになって……」
死に物狂いで逃げまくって、ここまできた。
こちとら、しぶといのだけが取り柄なんだ。
部屋を移動し、廊下を歩き、天井裏の配線を幾つもみながらモブは思う。
キッチンも、最初に比べたら大分良くなった。風呂もトイレもシャワーに掘りごたつまでつけた。まだまだつけたい装備は沢山あるが、生憎先立つ物がいつまでたってもたまらないのはトラブル続きだからだ。
ふがいないとは思わない、モブにとって自分の身の丈位は知っている。
相棒があいつじゃなかったら、フランが手伝ってくれてなかったら。
セリグさんが料理人をかって出てくれなければ、シャリーちゃんやフェティちゃんがあの時オペレーターをやってくれなかったら。
たらればを考えれば当然だ。
俺は俺に出来る事をする、それ以上でもそれ以下でもねぇ。
しかし、アンリクレズが言っていた言葉がどうにも引っかかる。
セブンスは、創造主に疎まれ。ティアドロップとは光と闇の関係にある。
そりゃ、つまりセブンスは七つに分けられただけでティアドロップのベータ版って事じゃねぇのか?そうであれば、ヴェルナーを触った時にティアから話しかけられた事象にも説明がつく。
アンリクレズは意思もあれば、応用も聞く高度なAI。
ティアがアンリクレズと同じものであるなら……。
(ティアドロップの正体は多機能AI、だとすりゃ何万年も見つからない筈だ)
ヴァレリアス系の遺産が何故こんなに見つからないのか、そりゃ実数の世界に出てるのが端末である事が殆どで宇宙と同じ広さの砂漠でココアの一粒探す様なもんだからだ。
そして、多機能AIではその端末すら実数の世界に存在しているかも怪しい。
砂粒探して、その砂粒のセキュリティを外して手に入れなきゃいけない。
人間の網膜に必要な時必要な情報を映し出しそれを全然関係ないコクピットにも行え、それを複数同時に出せる程の演算能力がありただ一人に従順。そのセブンスのAIは、武器は一つしかないし、一つで十分過ぎるものがあると言っていた。情報と演算や索敵能力が同様のものであれでティアドロップがそういう類のものであるなら、当然正式版のティアドロップも同じかそれ以上の武器がついてる可能性がある。
(幸いこの事実を知ってるのは、アンリクレズの全容を知ってる俺達だけだ)
それも仮定に推測、憶測の類でしかない。ただ、もしこの事実が漏れたなら全宇宙が艦族同然になってその力を探し求めるだろうな。
それは、間違いない。
「マスターは一人、相棒がマスターのうちは情報が漏れる事なんか俺達から以外ありえねぇ」だからこそ、俺達はつねに気を配る必要がある。
アンリクレズやセブンスがどういうものかバレない為に、秘匿しつづける。
「シャリーかフラン辺りがティアドロップを押さえてくれるならいう事はねぇが、フランがもし手に入れたとしたら響以上に宝の持ち腐れだな」
思わず、変な笑いが零れる。あの傭兵は、人間なのに人間辞め過ぎてやがる。
モブは自分が持ちたいとは思わない、モブにとって響と一緒に作り上げたこのプレクスこそが家であり、最高傑作であり、そして誇り……。
「俺達は、このプレクスで宇宙に出た。艦族として、お宝を探す為に」
悪用される位なら、持ち腐れにしとくほうがいい。心があるAIなら不満もたまるかもしれねぇが、ロクでもない連中に持たしとくよりはホコリでもかぶっててもらう方がいい。
全ての点検を終えて、外を見るとフェティ達が帰ってきていた。
「おう、おかえり」モブはにかっと笑うと、さびーからはよ入れと言った。
「お兄さん、プレクスはどう?」フェティがふんわりとした顔で聞けばモブは無言で親指を立てて「みんなが協力してくれたおかげでばっちりだ」と答えた。
「艦長、マジで一日で直したんスか?」「先に数日かけて直してあるところとかは、点検しただけだしな」「お前艦族やめて、メンテで食った方がよくね?」フランがそうからかうと「響やシャリーが艦族辞めたくなったら、それも選択肢かな」
「お兄さん、それ私の夢を諦めろって事なの?」「いんや、つまり当面メンテで食ってくことは考えて無いって事だ」
「ほんじゃ買い出しも終ったし、修理も終ったし。次は何処に移動するんスか」
「田舎で捕まるんなら何処泊めても変わらねぇ、だったら仕事のあるべセクに行く」
それを聞いて、フランが成程と頷いた。セリグもフェティも同じように頷く。
「ここから、八十七星雲突っ切ってきゃすぐだしな」
それだけ言うと、コタツの部屋に行ってしまった。
それを見て全員が顔を見合わせると、セリグ以外がモブの後についていく。
セリグだけは、キッチンの方に歩いていき夕食の支度を始めた。
この、八十七星雲を突っ切るという決断がまたトラブルの元になる。
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