第百二十六話 八十七星雲

「シャリー、コーヒーあんがとな」軽くカップを掲げたあと両手で包むようにしてコーヒーを飲むモブにシャリーが微笑みかけた。


「お兄さん、本当ブラックが好きなのね」「コーヒーとヒーローは、ブラックがいいんだよ」そうやって返すと全員が苦笑した。


「しかし、シャリー。すまないな、仕事結構気に入ってたろ」「ううん、大丈夫」「そうか」


あれから、問題なく飛び立ち。オートパイロットになっているプレクスの中で、こうして全員が集まって平和な時間を過ごしていた。


「艦長、八十七星雲って小惑星とかが無数に飛んでる辺りだよな?」

フランも、ビールを片手にモブに尋ねた。


「あぁ、あそこはデカい艦はまず通れねぇから。プレクスみたいな小型艦か、強化機械兵とかでもちっさいのしかまずこれない。その分操舵にしくじるとぶつかってえらい目にあうけど、俺らはその点クレズが居るから心配ない。ヤバかったら流石に言ってくるだろ」

「過保護っスからね、俺に対して」響も呆れたように溜息をついた。

「安心はできねぇが、襲撃や厄介ごとを避けるならこのルートは遠回りだがかなり有効だと思うぜ」


フランが今日十何本目になるか判らないビールを開けながら、「それでトラブルが避けれるならそうすべきだな」と枝豆に手を伸ばした。


「そうですね、折角艦長が頑張って直して下さったのですし」とセリグが追加の枝豆を塩ゆでしたものを持ってきてそんな事を言った。



その時、揺れと共に警報が鳴ったのでその場にいた全員がコクピットに足早に移動した。

「クレズさん、どうしたっスか?」「響様、当艦は攻撃を受けました。敵は、一機の様です。ですが……」


いつもと違い、アンリクレズの歯切れが悪い。


「とりあえず、表示できるんなら表示してくれ。後位置も」


モブに言われ、すぐにモニターにアンリクレズは表示したのだが……。


「何だこりゃ?」そう、多少揺れはしたが特にダメージがある訳でも無く。モニターに表示されたのは、初期のプレクスといい勝負のオンボロ艦だった。


「こんだけボロかったら、暴発ってこともあるよな?」

「そうっスね」「だな」


「取り敢えず、警戒しつつ。呼びかけてみてくれ」


すぐに回線自体は開いたのだが……。


「どうするんだよ~、なけなしの弾は暴発しちまうし。向こうさんカンカンだぞ!」

「どうもできないわよ!」


「艦長、暴発であってるみたいッス」「だな……」


もうすでにこっちと回線がつながっているにも関わらずクルー同士で取っ組み合いの痴話げんかをず~っとやってる様を見せつけられシャリーも流石に「お兄さん達は、貧乏でも仲が良かったけど。あ~いう事もあるのかぁ」「こいつら、男同士で愛し合ってるからな」

「フランさん、それは誤解を招くいい方なんでやめて欲しいッス」

「それは聞き捨てならねぇな」「俺達仲は確かにいいけど、二人ともドノーマルッス」

しばらく、やいのやいのやっていたが回線があいている事に気づいた。


「あ~、すんません。こちら、フォーリ艦長のカサイといいます。暴発しちゃって」

流石に声をかけられたら気がつくのか、モブも向き直って挨拶をした。


「こちら、プレクス艦長のモブだ。艦族やギルドにはろくな連中が居ないから注意しろよ、賠償請求されたら、お前らじゃ払えずに一発で引退コースだかんな」


それだけいうと、モブが回線を切ろうとした。


「あの……、燃料とか水食糧って分けてもらえませんか?」


図々しいにも程があるだろ、さっきロクな連中がいねぇって注意したばっかだぞ……。

カサイとか言う奴マジかよと半分呆れながらも、響とフランが無言でモブの肩を叩く。


「わ~ったよ、そっちに行くから攻撃すんなよ。防御も無しだ、後入れ物用意しとけ」


それだけ言うと今度こそ回線を切って、プレクスのメンバー全員が溜息をついた。


「まぁ、襲撃や狙撃やらに比べたら全然マシっスね」「そだな」

「お兄さん達、人助けだと思って」まぁまぁとやるシャリー。


クレズ、悪いけどフォーリとかいうオンボロ艦の横につけて接続してくれ。後、セリグさん水はともかく食料に関してはどれをどれ位渡すかはアンタが決めてくれ。


うちのコックはアンタだしなと笑いながらいうモブに、お任せ下さいと苦笑する。


「フェティちゃんはそうだな、悪いんだけど向こうでギャーつく騒いでた女が居たろ。俺あーいうの苦手なんで、フランと一緒にちょっと相手しててくれ」


艦長どうしで話し合わなきゃ、どうにもなんねぇしなと頭をかきながらいうとプレクスのメンバーが何とも言えない顔で頷く。



「うちの、設備ってどこまで使わせていいんだ?」とフランが尋ねると「お前に任す」と言われ「了解」と答えた。


ごねたら、力づくでふんじばって向こうに叩き返せ。



シャリーはここで、プレクス以外の艦族の現実を知る事になる。

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