第百二十四話 アラネアの苦悩
「あれは、無理ね」
コクピットに乗ったアラネアが、眼を閉じ諦めたように呟く。
神威も犯罪者ギルドもプレクスは大した武装がなく、泊っている時ならばと言っていた。
だが、蓋を開けてみれば一番厄介なのは中に乗っている人間だったとは……。
「まさか、生身でこの距離からの特殊改造したラミアムの狙撃を全部剣一本でそらすとは」この目で見ても信じられない、冗談みたいな人間が居たものだ。
長い軍生活でも、あんな芸当が出来る人間なんてまず他に見たことが無い。個人で上級傭兵と言った所で強化兵持ちだったり、サイボーグだったり、特異な生物構造をしてたりといった事ならば見たことがある。
正真正銘の生身の人間で、一個人でしかも片手で操る剣一本で報告が本当なら艦の攻撃すら凌いでいた事になる。そして、アラネアは自分の狙撃が弾かれた事でそれが真実であると確信した。
生身でどうやって、こちらの銃口や弾道を見切っているのか皆目見当もつかない。
あの調子だと、遺産艦での挟み撃ちがバレたのは、レーダーや遺産なんかではなく。下手をすれば個人芸の類の可能性もある。
命を商売にする傭兵ギルドが、フランを相手にするなら幾ら積まれても断ると先日いって来たのを思い出す。アラネアは、幾つも思案を重ねるがどれもパッとしない。
(奴らはこれを知っていた)
狙うなら、最低でもあの傭兵が居ない時でなければだめだ。兵器や兵数でどうにかなる相手じゃない。
セリグ様はそれを知っていて、あの艦に逃げ込んだ……。
神威になんて言えばいいか、皆目見当もつかない。
神威は上官で形式上では様をつけているが、アラネアの本音としては神威は元同僚だ。
信頼はしているが、忠誠は誓っていない。
「ナイトメア艦相手にしのいで逃れる事が出来るのなら、通常艦じゃお話にもならないわ」
ナイトメア艦は人を喰いすぎる、幾ら軍事に犠牲がつきものだと言った所で。幾ら蛮族の民でウジ虫の様に湧いてくるとしても、いなくなれば次に喰わせるのは自分達の手駒になる。だから、極力所持していても余りポンポン出せるものでもない。
「ヴァレリアス式の兵器がもしあれば、是非欲しいものだ」
虚数領域を使う、ヴァレリアス式は燃料の心配がいらない。命を使わず、ナイトメア式の遺産と同じかそれ以上の結果を出す。
問題は、ワープや倉庫などは存在しているのを知っているが兵器のヴァレリアス式など聞いた事が無い。
「ヴァレリアス博士の最高傑作、ティアドロップか……」
それが兵器であったなら、どれ程のモノか。考えるだけで夢が膨らむ、艦族達が血眼になってこの宇宙を探し回っているのも頷けるというもの。
だが、私は軍人だ。夢ばかり見ていて、現実を見ないのはナンセンス。
セリグは知らない、元部下アラネアのこの残忍な顔を。
セリグが知っているのは、暗部に入る前のアラネアだからだ。
暗部から、軍部に戻って来たアラネアはもはや別人になっていた。
そして、暗部を経ているから判る。傭兵フラン、あれをどうにかしないと自分達には一ミリの勝ち目もないと言う事を。
「狙うなら、一人娘の方しかないか……。確か、シャリーとか言ったはず」
だが、傷つけるのはダメ。あくまで、捉えて誘導するだけ。こちらの目的はフェティ様の確保で殺害じゃない。
犯罪者ギルドの連中には特に、言い聞かせないと。
あいつらは、誰彼構わず喧嘩を吹っ掛け。盗みを働くが、それ故に見えている地雷を喜んで踏みに行くきらいがある。
「神威も頭に血が上って無ければ、判断を誤る事は無いと思うのだけれど……」
このデータは、きちんと共有しないとダメね。
セリグ様が、私を信用して連絡をくださる限りまたチャンスは来る。
「フェティ様、必ず本国へ帰って頂きます」
後日、このデータは共有され神威も犯罪者ギルドも開いた口が塞がらなくなった。
一方、その頃。泣きっ面にハチになったモブはというと…………。
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