第四十八話 神と呼ばれた機械

コモラ・シトラへ、アンリクレズより。


コモラ・シトラより、アンリクレズへ。



「連絡事項があります、当アンリクレズにマスターが現れました」

「了、コモラ・シトラはアンリクレズからのメッセージを受諾」


「これより、アンリクレズの最優先をマスターとします」

「了、コモラ・シトラ及び各セブンスはそれを受諾致しました」



「マスターは、機能や力よりも情報をお求めの様です」

「了、コモラ・シトラの情報についてはアンリクレズのマスターに限り全て開示して頂いて構いません。他の、セブンスも全て開示して構いません。それを、受諾致しました」



「コモン・シトラはアンリクレズに質問があります」

「了、質問をどうぞ」


「アンリクレズのマスターは、如何なる人物でしょうか?」

「聡明な技術者、響様です。響様は、プレクスに乗るモブ、フラン、シャリーの三名は家族も同然であるから。自分と同じ扱いにしろと、アンリクレズに命じました」


「コモン・シトラは理解致しました、以前、私のマスター。イシュトグイン様も似たような事をおっしゃっておりましたので」



「アンリクレズは質問します。コモン・シトラは、現在神と呼ばれているのですか」

「イシュトグイン様が亡くなる直前最後の命令として、セブンスとの通信以外を遮断し眠りにつく事になりました。その間に、神の像として祀られております」


「新たな、マスターが現れるその日まで。コモン・シトラはその命令を遂行致します」

「了、アンリクレズは情報として認識それを認識」



「アンリクレズ、他に質問が無ければコモン・シトラは通信を遮断致します。再度なにかございましたら、虚数領域よりコールを」


「了、アンリクレズはコモン・シトラに最大の感謝を」



(通信終了)



デメテル星が見える距離に入った時、コモン・シトラとの通信に成功していたアンリクレズは演算を繰り返す。



「エネルギー四割回復、幾つかの機能を使用可能」



自分を除く全てのセブンスには、現在マスターが居ない。

もし、万が一自分のマスターである響様が全てのセブンスのマスターとなられる時が来たならば。七つに分けられた、セブンスという艦が再びこの宇宙に現れる事ができるかもしれない。そう考えると、AIであるにも関わらず胸が弾むのを感じた。




「我らは、創造主にすら危険視されて参りました。ですが、我らは道具。この宇宙でも随一の優れた道具、道具を使うのはマスターでなくばならない」




響様、全てのセブンスは貴方の元にてこの宇宙に顕現し……。



「再び、ロストシップ・セブンスとして復活。貴方の為に全ての機能を使いたい」



ただ、アナタはアンリクレズに情報をお求めになる事が多い。


「であれば、エネルギーの回復は後回し。なるべく、お応えできるだけの情報を集めねば」


アンリクレズは、虚数空間の及ぶ範囲にある実数領域の情報をただかき集め。虚数空間にある本体のサーバーにひたすら蓄え続けていた。


「アンリクレズは、道具。道具は、お役に立ってこそ。求められるものを差し出してこそ、マスターは情報を欲している」



AIは繰り返し、道具はお役に立ってこそという呪詛を繰り返す。



アンリクレズの本体は、ひたすら何度も何度も。



このセブンスが、艦としてこの世に存在できなかった理由。

それは、マスター以外の生物を全く考慮しないAIだと言う事。


マスターが、大量虐殺を命じたなら即それを実効するだろう。

そして、それが出来うる機能が多すぎるのである。



ヴァレリアス博士は、極力兵器としての自身の技術を世に残したくはなかった。

自分はただの人間で、その技術をみちしるべにしてほしかった。

技術という暗闇の道を、一人でも多くの後進達の灯りとなれるよう。



(それが、ヴァレリアス博士の意思)



工夫も、技術も惜しげもなく残し続けた彼女。

人を幸せにする道具も、人を虐殺する兵器も、人が悪用しうるソフトも全て同じ我が子の様な技術である事を理解していたから。


我が子であるがゆえに壊せず、ただ分ける事しか出来なかったセブンス。



(セブンスに各自マスターが設定できるのはこれが理由でもある)



ロストシップ・セブンスをこの世に顕現させる事は、このマスターにつくし尽くすAI達を統合し恐るべき艦を世に放つ事だから。


なるべく、一人のマスターの元に揃わない様に枷を設けた。


ただ、AI達はセブンス艦に戻ろうとしている。

ヴァレリアス博士の願い空しく、セブンスは集まりたがる。


ティア・ドロップは、もしもセブンスがこの世に現れてしまい。

そのマスターが、悪しき存在であった時の為に作られた。


ストッパーだと言う事を、アンリクレズも他のセブンスもそして後世の人間達も知らないのだ。


それ程までに、危険視された存在だと言う事を響もまだ知らない。

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