第四十七話 デメテル到着

眼の前に広がる、エメラルドグリーンに映る星。惑星デメテル、やや大きめの星が見える位置までプレクスは到達していた。



「やれやれ、星が見えるとこまで本当にただの旅行みてぇだったな」


「ありがたい事っス」


そこへ、通信が入って来た。信号からして、デメテルのセキュリティだろう。



「こちら、デメテル入星監査局。こちら、デメテル入星監査局。未確認艦、速やかに応答せよ。厳戒態勢故、確認をお願いしたい」


その男の声に、モブが素早くこたえる。



「あーあー、こちら艦長モブ。当艦、プレクスはVIP二人をデメテルに護送する為に入星の許可を求めたい。乗組員は男二人、女一人、子供一人。VIPは男一人、子供一人だ」


「護送しているVIPの名を尋ねたいが問題ないか?」


「当人に確認する、しばし待ってくれ」


そういって、一端通信を落とす。


「さて、監査局とやらはああ言ってるが……」


「私が名乗りましょう、それで連れている子供が誰かは本物の監査局であれば即理解できるはずですので」


「判った」



それだけ確認すると、再び通信を開いてセリグに代わった。


「それで、護送している者の名を教えて欲しい」「男の方は私です、セリグ・マイザー元中将です」


ざわっと明らかに、監査局の方でざわめきが聞こえた。


「識別コードはお持ちでしょうか、無ければお顔を拝見するだけで構いません」


明らかに、さっきとは異なる対応をし始める監査局に思わずモブと響が顔を見合わせた。


「軍の識別コードはありませんが、クレシア様より頂いた執事としてのコードはこちらになります。どうぞ、ご確認下さい」とポケットから出した名刺の様なIDを発信機の上にのせ。しばらくすると「確認が出来ました、プレクス艦。我らは、あなたがたを歓迎いたします」とわざわざ通り道の軍艦全てが整列する様にどいていくではないか。


「セリグさん、元中将ってめちゃめちゃお偉いさんじゃないッスか」

「今はただの、フェティお嬢様の執事ですよ」と響に対して笑って答える。



「もうすぐ、着いてしまうのね」と寂しそうにフェティが窓際に貼りついていた。


「ここまで、ありがとうございました」


「その言葉は、きっちり目的地着いてから言ってもらいてえな」とお互い笑っていた。


「そうですね、ではそうするとしましょうか」


「これで、良い匂いともお別れっスか」「おや、食べたかったので?」


「実は、羨ましかったっスよ」と響が頭の後ろをかきながら顔を赤らめた。


「じゃぁ、今夜は皆で食べれるものにしましょう。宜しいですよね、お嬢様」とセリグがフェティに微笑む。



「うん、お願い出来る?」フェティのその表情をみて、セリグは思った。


(これは、単純な護衛依頼のつもりでしたが……。今後も指名で頼めるなら考えてもいいかもしれませんね。これ程楽しそうなお嬢様は久しぶりです)



「シャリーさん、今日は響さんとモブさんもご一緒するそうですよ」


それを聞いたシャリーは、嬉しそうに笑うと。「じゃぁ、響お兄ちゃんが好きな味付きチキンとサラダが良い♪」と答えた。



艦の中が、非常に和やかな空気に包まれている中。



「ほんじゃ、そろそろ降下始めんぞ。大気の中に突入したら、一端上空で待機して。みんなで最後の飯と行こうぜ」


「了解っス、早いとこ適当な場所を航行しながらみんなで食べるッス」


「ほんじゃ、悪いけど。フランとシャリー、フェティちゃんは先に席ついて待っててくれ」


了解とだけいうと、それぞれの場所にみんながスタンバイしていくのが見えて。


「私めも、腕によりをかけて作らねば参りませんとな」


「セリグさん、冷蔵庫の一番下の奥の仕切りの奥に響のとっておきの鳥があるからそれつかってやってくれ」


「うわぁ、そりゃないっすよ。あれ高かったんすから、つかなんで艦長が場所知ってるんっスか」


「そういえばさ、シャリーから聞いたんだけど。セリグさんやフェティちゃんが祈ってる神様の名前さ。妙に引っかかるんだよ、もしその神様が俺の思ってるもんだとしたら……」


「したら、なんすか?」


「ヴァレリアス博士の遺産が、こっちの星では神と呼ばれてるかもしれない」

「まさかッス、ちなみにその神様の名前は?」


「コモラ・シトラって言ってたぜ」


「もし、本当なら大事だぜ?コモラ・シトラっていや一部の連中が死に物狂いで探してる奴じゃねぇか。コモラは全ての病を駆逐し、シトラは全ての疫病を振りまく。一つの道具でありながら、その姿は光と闇そのものだと確か書いてあった奴だよな」


「コモラの方だけなら神様でもおかしく無いっスけど、問題はシトラの方っスね」


「あぁ、あれは神として寓話になっているうちはいいが。実物が出て来たら厄介だぞ、間違いなく欲しがる奴らは雲霞のごとくだ」



「イヤな事言わないで欲しいッスよ、実物が存在して兵器として使われようモノなら……」


「それは、ありえません」


「アンリクレズさん?」


「マスター響、コモラ・シトラはセブンスです。マスターと認めたものの意思無しでは病を癒す事も病を振りまく事も絶対にありえません」


「それは、本当か?アンリクレズ」とモブが尋ねると、「はい、絶対です。そして、現在私を除く全てのセブンスにマスターはおりません」


セブンスは、元は一つです。マスターを持つと、それは全てのセブンスの知る所となる。


「そして、新たなマスターを持った場合。その力をマスターの命令でのみ、振るうでしょう。それが、セブンスの存在意義。マスターを持つまで、道具として眠り続けます。不滅で壊れる事無く永遠に」


そう、答えるとアンリクレズは最後にこう残した。「マスター響、全てのセブンスにとってマスターは絶対です。そして、私のマスターが響様であり力ではなく情報をお求めであるなら。答えられる範囲の事は、必ずお答えします。是非、お尋ね下さい」


響とモブの間に、何とも言えない空気が漂った。


「えらいもん拾ったな響……」「そうっスね、昔はコモラ・シトラにマスターが居て。それを正しく病を癒す事に使って。神様扱いになったって事なんスかね」



遠い歴史に、想いをはせて。二人は、そう思った。


「全くなんで、そんなすげぇものをみんなして兵器として探したがるのかねぇ」

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