第四十六話 待ち伏せ無かった

「しっかし、護衛っていったけど平和なもんだな」


モブがコクピットで頭に手をやりながら、そんな事を言った。


「何にもなかったなら、俺達にとっては珍しくラッキーだったって事ッス」


そんな事を、響も同じように頭に手をやりながら言った。


「あれから、特に何かの艦とすれ違う事も無く。シャリーちゃんとフェティちゃんがが仲良くなって、映画をみたり宇宙を見たり遊んでるのを微笑ましくおもいながらみてるだけだかんな」


「セリグさんも、フェティちゃんの安否を連絡したいって時々通信して。ご飯を作って、俺らと同じようにあの二人が楽しく過ごすのをめっちゃ優しそうな表情で見てるだけっスから」


とまぁ、トラブル続きの自分達にしては本当に珍しく何もない状態で完全に手持ちぶたさになっていた。


そこへフランが「トレーニングくらいしろよ」と顔を出す。


「折角トラブルがねぇんだから、のんびりさせてくれ」とモブがいうと肩を竦めるにとどめる。



「それはそうと、不具合とかはどうだ?」「それは特にない、不具合は無いんだがシャリーもフェティも背が小さいだろ?シャワーの留め具が下まで下げられると嬉しいかな」



モブと響があーみたいな感じで頭を抱え、フランもそれを見て、こいつら抜けてるなと思いながらも「考えてみてくれ」と苦笑した。



「そこで降りるフェティちゃんには申し訳ないが、デメテルで港についたら手動ハンドルで下げられる様にレールとかハンドル取り付けてみるわ」



そこへ、シャリーとフェティが手を繋いでやってきた。


「おっ、二人とも随分仲良くなったな~」そう言って二人に視線を合わせるためにモブがかがんで目線を合わせる。


まだ、ショックが抜けないのか口数が少ないシャリーにフェティが話かける形で質問し。たどたどしくシャリーが答えつつ、うちとけて良く笑う様になった。



「後、どれ位でつくの?」


「順調にいけば一週間ってとこかな、早く着くのがイヤなら少し回り道でもするかい?」

モブが、セリグに向かって目線で「いいよな?」と尋ねるがセリグは「お嬢様、気持ちは判りますが」と露骨に困った様な表情をした。



「だってさ、すまねぇな。まぁ窮屈なとこかもしれないけど辛抱してくれ」

「ありがとう、ここは窮屈じゃないし。素敵な所よ♪」


「お嬢様……」


セリグが思わず言葉に詰まり、口元を手で押さえる。


「シャリーちゃん、今日は何をする予定なんスか」


響が軽めに尋ねると、「うんとね、うんとね」と笑顔で答え「ゆっくりで良いっスよ、そこの涙ぐんでる執事さん以外は慌てることもないッス」とおどけた。


「今日はこれから、朝ごはんを食べて。お母さんと体操して、フェティちゃんと本を読むの」ゆっくり、たどたどしくはあるがきちんと答えたので「教えてくれてありがとうッス」と響はお礼を言った。


「それにしても、やったら艦の墓場でもないのにやたら残骸が飛んでやがるな」


目視とレーダー両方をみても、やたら散らばってこそいるが。


「とりあえず、セリグさん。今日も二人にうんと美味しい奴作ってやってくれよ」


フランが執事の肩を軽く叩きながらいうと、セリグももちろんですと胸を叩く。



「なんか、あったんッスかね……」

「薄気味悪いったらねーぜ、こりゃあ」



半日ぐらい、まるで瓦礫の山の中を掘り進んでる様な錯覚を受ける程だった。



「まさか、フォトンシールドをこんな風に使う事になるとはな」

「備えあればなんとやらッスね」



「シャワーの高さ調節とかは、言われて気がついたけど」

「まぁ、着くまでは何も出来ないんで我慢してもらうしか無いっス」



もしも、ホックリラリで拡張してなかったら。冗談じゃなく、本当に回り道する羽目になってた。


「問題は、フォトンバリアもつけっぱなしじゃ維持が大変だってことなんだが」

「幸い、エネルギーには余裕があるッス。推進機を最初につけ忘れた事もあって、その分減ってないのが幸いしてるッス」



何が幸いするかわかんねぇなぁと、二人で笑いあう。



「さて、俺達の火急の悩みと言えば……」

「今日は、お好み焼きっスね。香りだけでもたまんねぇっス」



このウマそうな匂いをほぼ毎食嗅ぎながら、インスタントを食べている訳で。

同時に二人のお腹がなって、思わず顔を見合わせ。



「俺達も、料理出来る様にならないとダメかなぁ」

「そうっスね」



だが、不思議とここ最近何処かにぎやかで二人でやってきていた時とは違った明るさがある様な気がした。



「なんにしても、フォトンシールドがあれば当面は大丈夫だ。最初はついて来た連中がい居たが、今は何もついてきてない。待ち伏せもなく、デメテルに着きそうなのも俺達にとってはありがたい」



「いつも、こんな楽でリッチな仕事ならいいんッスけどね」


いうなよ、と笑顔のモブの顔が凍り付く。


それは、偶然だった。



「おっ、おい……」「なんすか、そんな急に化け物でも見たような顔して」


「この残骸の破片、俺達を追って来た連中だ」


「何を根拠にってあれしかないっスよね、今右側を過ぎてった破片にはしっかりエンブレムがあったッス」


響も、流石にモブと一緒に考え込む。


「取り敢えず、ここで何があったかは判らないが。今何の反応も無いって事は、連中をこんな風にしたやつは今ここには居ないって事だ。俺達が来る前に待ち伏せしてた奴が粉々になってるってこたぁ、相当やべぇのがここに居たって事だろ」


「お嬢ちゃん二人に嘘つくようで悪いっスけど、デメテルまで急いだ方が良さそうっスね。もしここに居たのが敵だったら、俺達の艦じゃどうにもならない可能性の方が高いッス」

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