第五十八話 道半ば
「くっそぉ、RXにつくまでマジでこれで過ごすのかよ」
眼の前の、雑巾の搾り汁味保存食バーが皿の上に一本のっていた。
ちなみに、これを三食。流石に、頭がどうにかなりそうである。
「俺は減らさないとか意地はった自分がバカみたいッス、当然これになるんだからむしろ減らす方が喜べたはずっス」といいつつも、響の皿の上には三本の同じバーがのっていた。
「今から減らしても良いんだよ響くぅん」やけにねっとりした声で、モブが響の肩を後ろからもみながら言った。
「男に二言はねぇッス、ちゃんと後一週間これ食って過ごすッス。ただ艦長、RXに着いたらぜってぇ最初に肉食いに行くッス。例え、拒否っても俺一人でいくッス」
眼に殺気がこもる程、響は肉や野菜といった普通の食事に飢えていた。
そう、あれから一週間ほどこうやって飛び続けている。
シャリー達は相変わらず、仲良さげに話が弾んでいたりして。外まで笑い声が聞こえてくるので、それだけが救いっちゃ救いだ。
フランとセリグさんには、残りが大分少なくなった餃子やチャーハンのレトルトを出していたが。二人とも、一人前を半分に分けて食う様な減らし方をしていた。
「俺は、ほらこの前隻腕で逃げる時ぶら下がったら思いのほか自分が重たくてよ」そういって残った片腕を見つめながら、少しやせるのに協力してくれよとフランは笑って言った。
まぁ、シャリーを心配させないための冗談だなと判りつつ。
「俺達は命あってのものだねだしな、きつかったらちゃんと食うんだぜ?」とそれだけ言って許可したんだっけ。
セリグさんも、「こう歳をとると、食欲が落ちましてな。特に、死ぬ程走った疲れもなかなか抜けませんし。疲れが抜けたら、ちゃんと食べますよ」とあんな優しそうな顔でフェティちゃんに向かっていうんだもんなぁ。
(まっ、あの二人にはバレてるだろうが)
と頭に手をやりながら考えていた。
あれから、特出する事もなく。宇宙を飛んでいるが、被害は甚大。
「RX着いたら、装甲類や部品の他に推進機が爆片吸い込んだやつの対策とか色々やらなきゃな」
「そうっスね、カセットも空。アンリクレズさんも一か月は動けないそうっスよ」
響も、保存食のバーを煙草のように咥えながら言った。
「そういや、急に推進機が元に戻ったり爆縮砲が霧散したりしたやつ。あれ、どうなってんだ?」
モブが尋ねると、響が説明をした。
「なんでも、緊急が認められる場合近くのセブンスに助けを求める機能があるらしいんッスよ。それで、助けを求めたら応じたセブンスが居たそうっスよ」
「成程なぁ、助けてくれたセブンスは……」
「艦長のお察しの通り、フェティちゃんが熱心に祈ってる女神様ッス」
「応えてくれる神様ってなぁ、羨ましいねぇ」
「機械仕掛けの、人工の神様でもッスか?」
艦長は、バーを流し込むように水をあおると。
「バーカ、何者であっても。苦しい時や辛い時にこそ手を差し伸べてくれる奴が本物で、それ以外の奴なんか大半ニセもんだろが」
「艦長が言うと、説得力あるッス」と響もバーを一本残して水をあおる。
「おめーみたいに、最初から付き合ってくれてる奴は例外だけどな」
モブが右拳を突き出して、響も同じように拳をだしてこつりとやった。
「たまたま、夢が同じだっただけ。たまたま、艦長がチャンスをくれただけ。たまたま、俺が内部系が得意だっただけっス」
「俺は、外側しか出来ねぇからな」とモブが苦笑した。
「足りねぇもん、補い合って何が悪いっスか? 誰かにも出会えず腐ってくより、俺達は誰かよりラッキーだっただけっスよ。お互いに」
そうだな、俺達の目的は。俺達を助けてくれたような、遺産の捜索だもんな。
「ギズモとか欲しいっスよね」「それを言うなら、カセットの増設もしてぇ」
二人して、これが欲しい。あれがあればと、遺産の目録を思い浮かべながら。
「だが、俺達が最初にやる事は食料の買い込みだぞ」
「異論無しッスよ」
そういって、二人で爆笑した。
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