第五十九話 反政府軍

「セリグが乗った、小型艦はどうした!」


紫電 神威(しでん かむい)は悲鳴の様に怒鳴る。



「はい、紫電 元帥閣下。凄まじい機動力と速度で我々の迎撃を突破。現在第七防衛ラインを航行中、対空ミサイルとパルスレーザー共に効果を認められません」



紫電は、セリグを取り逃がした事を歯噛みした。


「もう、第七だとっ! これでは、地上からは追いつけない。今、宇宙空間の防衛に当たってる小隊を一つ回せ!!」


今から、浮上させたのではあんな速い艦は捕まるはずがない。

にしたって、見た目がボロい旧小型艦なのに何つー速さだ。


それだけじゃない、離陸してからトップスピードに乗るまでも他の既存艦とは一線を越えている上で。あの、戦闘機みたいな機動力。あれ、本当に小型艦か?!


「第八防衛ライン、突破されました!」


部下の悲鳴のような叫び声が聞こえ、紫電が頭を抱えていた。


「どうして、こっちの兵器がきかない?」

「回避能力もそうですが、どうやらフォトンバリアとシフト装甲を装備している様です。解析からさっきそう報告がありました」


「なんで、あんなオンボロ艦にそんな防御機構がついてんだ!」

「全防衛ライン突破、敵宇宙に出ます。宇宙に居た防衛小隊が一つ間に合いそうですが、相変わらず恐ろしい速さです」



まるで、隕石が宇宙に向かって飛んでいってるみたいに重力に全力で逆らって飛んでいる。


「悪魔に魂売った、強化機械人間ならともかく。セリグは生身だろうが」

「どうやら、敵さん。あの速度で機動してても生身の人間を運べるだけのバランサーを積んでるみたいですね。一瞬で、死角に入りこむ腕といい操舵の腕も相当です」


流石に、元自分の師であるセリグが逃げ込む様な艦が普通ではないとは思っていたが……。


それにしても、凄まじい。機動力と防御だけなら、実力は大型艦並みとみていい。


あんな、小さなコバエみたいなサイズで出力大型並とかありかよ。


「面制圧で撃たせろ!」

「もうやってます!」


「何でだ、フォトンバリアはもう切れてるはずだろ?」

「どうやら、敵さんシフト装甲まで積んでるらしく。当てても当てても金太郎飴みたいに装甲が復活してるみたいでして」


紫電は頭をかきむしりながら、レーダーを睨む。


「あの小ささ、あの機動力で当てるのでさえ困難なのにシフト装甲だと?!。どこまで、ふざけた艦だそりゃ」



閣下、爆縮砲準備出来ましたと報告がきて。紫電は、思わずにんまり笑った。


「よーしよし、幾らシフト装甲でも威力と範囲で押しつぶしてやる。うてぇぇぇぇぇ!!」



号令と共に、小隊から魚雷等で追い込んだ場所に重なる様に爆縮砲をうちこんだ。


「閃光防御、隔壁下ろせ!」


隔壁を降ろして、なお凄まじい光と共に雷撃の音が宇宙空間であるにも関わらず。ずしんと響いてくる。それは、反動でこの旗艦が揺れた音だ。



「敵、健在! 無傷です!!」「うそぉ!」


軍人にあるまじき、目ん玉ひん剥いて口から今飲んでいたコーヒーが滝の様に零れ落ちていく。


「解析でました、どうやら防護膜の様なもので爆縮砲を湾曲させて弾き飛ばした様です」

(遺産……か?)


現代でも強力な主砲に数えられる、爆縮砲をあの数湾曲させる様な防衛機構はもっと大きい艦にならのせられる。それは、バリアの強度というのは基本ジェネレーター出力等の大型のエネルギー炉が必要になるからだ。



あの小バエサイズの艦が、爆縮砲を耐えられるだけのバリアをはる様な代物は現代には存在しない。


そこで一回冷静になりながら、指示をだす。


「爆縮砲は、再チャージする。だが、しばし待て。恐らく遺産を積んでいる」


(仮に、遺産ならどれだけ凌げる?)


ヴァレリアス博士の遺産、それは現代の兵器や製造物とは一線を越えるもの。


(我々は今だ、何万年も前の天才一人に勝てずにいる……)


眼を閉じ、静かに奥歯を噛みしめる。


どれだけの開発費用をかけ、どれだけの人間が血と汗を流しても。

どれだけの技術者が屍になりながらも、彼女一人が作る道具に今だ及ばない。


生活でも、兵器でも。恐るべきものを残した、それが遺産たちだ。


遺産を使っているのなら、あの機動力も防御力も説明出来る。

「げに恐ろしいのは遺産……ということか、我らは今だその力を越えられずにいると言う事なのか」



「敵、爆縮砲の射程範囲から脱出しつつあります。我々には、これより長射程の武器はありません」「判ってる!」


(次を防がれたら、逃げられるな)


自分の心臓の音がやけに煩い、もう空になってしまったカップをゆっくりと置いた。


「次の爆縮砲を当てて、ダメだったら全艦帰還しろ。あれは恐らく遺産を積んでる、こっちの兵器がこうも手ごたえが無いのではな。弾とてタダではない!」


「了解です、爆縮砲スタンバイ完了までカウント十」


(これで、決まってくれよ……)


「五、四、三、二、一。ファイヤー!」


一瞬見えたのは、青白い羽に艦が包まれる様な膜。さっきは、卵の様な形状だったのに今度はまるで天使の羽に抱かれている様な形のエフェクトの様な膜が爆縮砲を霧散させてしまった。


(折り曲げたのではなく、霧散だとっ!)


爆縮砲より強力な現代兵器はかなり限られる、つまりあの艦は防御力だけなら現代兵器の殆どを凌げる事を今ここで証明してしまった。


「撤退だ、我々の武器ではあれは捕まえられん」


それだけいうと、カップを地面に叩きつけ。片手で顔を覆うと、邪悪な笑いを浮かべていた。


(宇宙では捕まえられなくても、止まっている所でならチャンスはある)


そう気持ちを持ち直すと、もしあの防御機構が手に入った軍艦があればもっと勢力を広げられるとほくそ笑んだ。


「貴方は、新時代には邪魔すぎるんですよ。セリグ」



それだけいうと、王の血など女神に選ばれるかどうかだけではないかと怒気を露わにした。



彼は知らない、その女神さえ。ヴァレリアス博士の遺産である事を。

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