第六十話 命からがら

ここは、目的地のRX。その港である、ウォマック港。

ここに着くなり、モブは叫ぶ。「艦長命令だ!、イヤなら艦を降りろ。全員につぐ、今から飯食いに行くぞ。拒否は許さねぇ!!」



響も、フランも、セリグも。シャリーやフェティも苦笑しながら、黙って頷いた。


そのまま、すぐに人数分予約を入れると。「響、昼一時に猛将予約したから十二時にプレクス出んぞ。それまでに、俺は外の推進機や根本の機構見てくる」


それだけいうと、被弾した推進機を外からあけてみる為に出ていってしまった。


「猛将ですか、美味くて量がある事で有名なトコですね。我々は一人前をみんなで取り分ける位で丁度いいかもしれません」とセリグが言えば。フランも、「いきなり艦長命令だって怒鳴るから何事かと思ったら飯食いに行くだけかよ。やっぱ、保存食だけの食事が相当こたえてんだな」と頭をかいた。


フェティやシャリーはきょとんとしながら、フランとセリグの顔を行ったり来たりしていた。



「俺達二週間も保存食だったから、気持ちは判るっスけど。艦長の艦長命令なんて、初めて聞いたからめっちゃ焦ったっスよ。猛将なら、俺も賛成っス」


でも、俺の分も取り分けて欲しいっスね。あそこ美味いけど、全部量がバグってるッス。

とシャリーに笑いかけながらモブが言うと、シャリーも「バグってるってなぁに?」と首を傾げた。




大体、標準サイズで唐揚げなら四十個は皿にのってくるんだ。千切りキャベツは、また別で。だから、猛将の客は一人前一皿頼んで全員で分けるのが普通。


無論、酒もデザートも大体量がバグってる。値段がその辺にある店と変わらないから、初見で頼むとひでぇ目にあうんだよな……と、実際に酷い目にあったのかフランもそれを思い出しながら言った。


「まぁ、取り敢えず。お昼までは時間あるッス、シャリーちゃんとフェティちゃんは外に出るならセリグさんかフランさんと一緒に居て欲しいッス」


小さい田舎の港とは言え、子供二人で歩かせるには物騒過ぎる。


「響お兄さん、判ったわ」とシャリーが返事をするとフランも響も胸を撫でおろした。


大分、喋れる様になってきてるが。あんな逃走劇やったり、空から落ちてきたりでは大人でも気持ちを整理するのに時間がかかろうというもの。



「悪いけど、俺は昼までコクピットで寝てるんで。お昼まで起こさないで欲しいッス」


実は結構、足にも眼にも来ていて視界がぼやけている。


「判りました、お昼には起こしますよ」とセリグが答えるとすまねぇっスとだけいって艦内に消えていった。



ふと、セリグがプレクスを見上げる。「凄い艦ですね……、これ」と何度目か判らない呟きにフランが答えた。「お手製だそうだぜ? あの二人は、艦族になりたくてゴミからこの艦をゼロからつくり上げたそうだ。夢を追うだけじゃなく、夢を叶えるってなぁいうより簡単じゃない。でも、やり遂げた実例がここにある」


シャリーもプレクスを見上げて、「私も、何かできたらな」と呟いた。

フランは、シャリーの頭に手をのせると「ゆっくりで良いんだよ、慌てたってロクなもんじゃねぇ。男見てぇな母親代わりだが、それでも見守ってやる位は出来る」



あいつ等も、口酸っぱく言ってるじゃねぇか。「積み上げろって」

才能なんてなくても、あいつ等みたいになれなくても。


少しでもなれる様に、頑張ったらいい。誰の為でもなく、自分の夢の為に自分が納得できる形を残す為に努力はあるんだからな。


「俺なんて戦闘しか能がないってのに、この艦来てから戦ったの数える位だし」と笑うとシャリーも「うん、少しづつ頑張る」とやはり本当の親子の様にプレクスを見上げていた。


それを、フェティは少し羨ましそうにしながら。

「我々も、仲の良さだけは見習いたいものですね」とセリグが羨ましそうにしていたフェティの左手をそっととりながら微笑んだ。



「そうですね」フェティもにっこりセリグに微笑み返した。

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