第六十一話 プレクス大改修
結局、猛将で力いっぱい平らげたプレクスのメンバーは行儀が悪いと知りつつもうちあげられたトドの様にひっくり返っていた。
「うっぷ、当分脂もんはいっかな」「同感ッス、それより艦長」
どうしたよと、モブが首だけ響の方に向けた。
「推進機を改良するなら、シャリーちゃん相手に折角だから基礎のおさらいでもと思うッス」
「基礎?」と程々に食べたシャリーが首を傾げる。
「まず大前提として、星から飛び上がる時。大昔はスペースシャトルっつって、燃料を大量に積んだ所詮ミサイルモドキみたいなもんで宇宙空間に出てたんだけど。火薬を始めとした殆どの燃料は、酸素を含むから宇宙の真空でもその酸素が続く限り燃える事自体は出来る」
人差し指を、一の形にするとシャリーにモブが説明を始める。
「殆どの宇宙船は、星の重力のくびきから解き放たれると。ほんの僅かの力でも噴射すればそっち方向に飛んでいく。だから、宇宙空間では銃などの兵器は使いずらい。全く同じだけの力を前と後ろに同時にかけないと力が足りねぇ方に吹っ飛んでくからだ。これは、反動のあるものは全部そうだ。同じ力を同じタイミングに正反対の方向へってのが、難しくてな。ちょっとでもずれると笛付風船みたいに振り回される事になる」
プレクスの速さと機動力の秘訣は、推進機が可変でこれをコントロールしてるのは響のソフトウェアだ。偶数の推進機をマイクロプロセッサにマシン語で直書きし、完璧なタイミングで操舵と反作用ベクトルを伝えるから宇宙空間であれ程可笑しな動きを可能にしてる。
指を二本にして、モブが説明を続ける。
「基本的に、マシン語で制御ユニットを全部直書きするなんてのは狂気の沙汰だ。一ビットしくじったら汚い花火の出来上がりだからな。だから、基本的にはソフトウェアは言語を通すし。マシン命令を使う、こっちは命令文が通用するハードならどんな艦でも使いまわせるのが売りだな。その分、直書きのプレクスよりは同じハードウェアなら遅い」
これは、ソフトウェア書いてる奴の腕がぶっ飛んで。そいつが、人として信用出来。それでいて、そいつと心中するつもりでその艦に乗るつもりじゃなきゃ絶対にやったらダメなやりかただ。
響も、胸の前でぺけのジェスチャーをしている。
「だから、俺達を追いかけまわしてくれた魚雷なんかは、打ち出す瞬間に自分で空気代わりのものを周囲にいれて噴射し。その溶着を防ぎながら撃つ兵器になるから、残弾の他にその溶着を避けるためのガスがなければ使い物にならない」
だから、あれだけしつこく追跡できる素晴らしい兵器なのに搭載してる艦は殆ど無いのはそういった背景があるからだ。
「そして、その手の兵器は噴射口が一個塞がったら使い物にならなくなる。要するに、どんな恐ろしい兵器にも弱点や攻略法はあるんだ。ただ、対策の仕方が昔のは噴射口だったんだが。最近のは、固定潤滑剤塗ってあるやつもある。温度で使えなくなったり、摩擦係数に耐えられなかったり種類は結構ある。それを、いちいち覚えろなんていわねぇが。軍艦なんか特にそうだが、弱点を弱点のままほっといたりはしない。そこつかれたら終わりだからな、塞ぎながらやっとこさって事。最近は、エネルギーが結構応用きくのが多くて整形して砲身を守るんだっけか」
指を三つにした、モブがシャリーに基礎として話しかける。
「特に今回俺達は推進機を二つもやっちまったから、これの対策はほぼ急務だ。でないと、同じ方法で墜とされちまう」
響も思わず、俺はまだ死にたく無いッスよといえば。モブも、俺もだよバカと答えた。
「そう言う訳で、それでもず~~~と昔の博士の遺産に誰も勝ててねぇ所を見ると本当勘弁してくれよって位のものが多いんだよ」と締めくくった。
シャリーは、メモを取りながら時々疑問に思った事を二人に尋ね。その都度、二人は説明をしながら。本当はこうしたかったとか、本当はこうだったらもっと良かったとか。
「もう少し、出力があったら倉庫増やしてぇんだよな……」とモブが溜息を零す。
「今の状態ではつけらんないッスからね……」響も鉛筆を鼻の上にのせながら笑った。
「シャリーちゃん、とにかく一端宇宙に上がっちまったらそれでやりくりするしかねぇ。だから、なるべくこうして星に止まってる時にもしかしたらこうかもしれない。あーだったらどうしようって考える癖付けとくといい。星に止まってる時に、飛んでくのは金だけだからな」
「貧乏な俺達には、その飛んでく金が結構痛手何ッスけど」
「うるせぇよ」と二人で笑いあう姿をシャリーも笑ってみていた。
「それでも、私はこの艦に乗る前より。この艦にのってからの方がずっと幸せよ」
少しだけ、陰のある表情で思い出しながら。
「ま、不幸になるよりゃいいさ。俺達も、地上から空を眺めては同じような事思ってたからな」とモブも、少し昔を思い出しながら。
静かに、時間が過ぎていった。
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