第六十二話 クラフト
「しっかし、どうすっかな……」
モブは、あぁは言ったものの腕を組んで考え込んでいた。
推進機は構造的に増やせねぇから出力を上げるしかねぇ、でも現在の出力系をあげるにはもう殆ど内部の配線の材質から見直さないといけない所まできていた。
「ヴァレリアス博士なら、どうするんだろうな」
技術者の頂、そして憧れ。憧憬、色んな感情が入り混じる。
「変わらないのは、人の愚かさだけかよ。そして、俺もその一人だ」
ないものねだった所でどうしようもねぇ、俺に才能何かねぇんだ。
だったら、幾度も試すだけだろ。
「でも、軽量化もここ最近で随分進めたからなぁ」
チラリと、自分で描いた覚書を見る。
収入がある度、その中からやりくりをしては改造を続けてはきた。
だからこそ、見える己の限界。
「響の方も煮詰まってるみたいだな、あいつがあんな余裕ねぇ顔してんのいつぶりだ」
でも、相手は軍艦で。それも、一つや二つじゃねぇ。俺達に、攻撃力がなく防御力も付け焼刃である以上。運動性と腕で勝負するほかないが、面でこられたら次も逃げ切れる自信はこれっぽっちもわかない。
「あのしつこさなら、絶対次もある……」自分の悪い予感は外れたためしがない、良い予感なら割としょっちゅう外れるが。
「あーちくしょう!、酒でも飲むか」
そういって、外に繰り出してちらりと作業している響の方をみると。
響の方も腕を組んだまま、胡坐をかいてひっくり返っていた。
そこで、男同士の眼があってしばし見つめ合い。
二人で同時に、溜息を吐いた。
「酒でも、飲みに行く?」
「そうっスね、幸い割のいい仕事のおかげで貯金はあるッスから」
そこへ、シャリーがやってきて。「私も行きたい」と言った。
響は、作業をしていた道具をまとめて地面に降りると。シャリーに目線を合わせて、「シャリーちゃんはジュースかミルクにしとくっスよ」と笑った。
「うん♪」シャリーも、笑顔で答えると響と手を繋いで歩き出した。
それをみて、本当表情が良くなったなと思いながらも。モブも自分が使っていた道具を軽くまとめてプレクスの中に押し込むと。「おいてくなって」と頭をかきながらついていく。
プレクスをとめている港からほどなく歩いていくと、目的の小さな酒場があった。
「いらっしゃいって、子連れかよ…」気のよさそうな親父が苦笑しながら。「教育によくねぇから、あんまこういう所に連れてくるもんじゃねぞ」と言った。
響と、シャリーがカウンターに並んで座ると。モブはシャリーの反対のモブの隣に座った。「俺とこいつには酒を、後、ジュースかミルクはあるかい?」「ミルクはねぇが、ジュースはブドウのがあるぜ」そういうと後ろの樽のコルクを抜いて乱暴にジョッキにつぐとドカンと置いた。
「酒は一杯五、ジュースは三だ。合計十三、先払いな」モブが十三先払いすると「響がおごりっすか?」と悪ふざけで聞く「おごりは、そこのレディだけだっつーの」といつものノリで答える。
それを見た店主も、「仲がいいんだな」と笑う。
「「仲が良くなきゃ、やってられねぇよ(ッス)」」
シャリーも、自分のジュースを受け取るとゆっくりこくこくと飲み始める。
果物の甘さと、良く冷えた液体が喉を潤してくれる。
「お嬢さん、ここのジュースはウマいか?」とモブが悪ふざけして尋ね、シャリーがにっこりしながら頷いた。
それをみて、モブが酒が飲めない日が来たらジュースでも飲むかな……。なんて、ぼんやり思った。
「なぁ、響。そっちはどうだ?」とモブが尋ねたら両手を万歳しながら苦笑した。察しろみたいな薄ら笑いを浮かべて。「艦長はどうなんッスか?」と響が言うと、全く同じジェスチャーをしながら「こっちもだよ」と答えた。
二人して溜息をつきながら、頬杖をついてぼんやりしながら酒を一気にあおった。
「こっから上は、値がはるからなぁ」「そうっスね、クレズさんみたいにうっかりどっかで優秀なジャンクでも拾えれば別っスけど」と遺産である事は伏せて若干ぼかして言った。
「お兄さん達、何を悩んでるの?」とシャリーが尋ね、艦の事っスよと響が答える。
「随分、危ない眼にあわせちまったから。どうにかならないかって、二人で考えてたんだけど中々うまくいかねぇな」
残った酒を見つめ、モブがこぼす。
シャリーも、二人が一生懸命なのを見て自分も何か出来ないかなと思っていた。
「そういえば、新しく本を買うとかはダメなの?」とシャリーが響に尋ね、「娯楽系っスか?」ときょとんとした顔で答えた。
「お兄さん達みたいに、色んな事を知れたらなって♪」その表情に響は驚いた。
そして、一つの事を思いついて眼を見開く。
「そうっスよ、俺達の知識は古いんっスよ!」急に叫んだ響にモブがびっくりした。
「どうした、急に」「俺達の知識が古いなら、最新の本やデータ買って知識をアップデートすれば突破口が見えるかもしれねぇッス」
モブも、響が言いたい事を理解して。「それだよ!」と叫ぶ。
「シャリーちゃんお手柄ッス、明日はデータを買う為にそのデータいれとくメモリを買い増しするッス」「俺達二人じゃ、飲んだくれてるだけだったからな。助かったよ」
そういうと、二人はまるで若い子供の様にはしゃいでいた。
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