第六十三話 増設
結局、あの後三人仲良くプレクスに帰ってきて。フェティが自分も行きたかったと少し膨れた以外は特に何も問題なく。
次の日にデータ保存用メモリを購入した後、すぐ宇宙通信回線の時間内で使い放題と契約。早速、電脳大全にアクセスしては片っ端から論文やら実データやらをダウンロードしては今の技術を吸収していく二人。
「加工時は二百度前後で加工でき、特殊な薬剤を吹き付けると化学変化を起こして十万度まで耐えられる金属なんて今あんのかよ」とか、「アルゴリズムも凄いッス、特にこの電気工事従事者が発見して登録した数式を応用した関数なんて。俺じゃ一生かかっても思いつきそうにない概念ッス」
生きるのに必死で、しばらく勉強を怠っていた。
二人は、久しぶりに己の分野の勉強を始めてそう感じた。
今日はその横で、シャリーも基礎からではあるが二人分の勉強を一緒にやっていた。
ここに居るにしろ、艦族としてデビューするにしろもっと技術が無いとトラブルに対応できない。
フランやモブ、響達と旅をして危機を乗り切る度に。モブが言っていた事を思い出す。
「俺達は悪運には定評あるからな、掴み損ねない為にやってんだ」っていつも笑って言うのだ。
お腹を空かせていたあの頃、宇宙(そら)を見上げていただけのあの頃。
親が居なくなった後、艦族になりたくて忍び込んだら途中下車させられた事。
(私が、掴み損ねたくないもの)
この二人の様な、笑いあえる場所。信用出来る誰かとの居場所。
シャリーは一緒に勉強しながら、モブと響の様子をチラ見しながらそう思う。
頭をかいたり、鼻をこすったり。
肩を自分で叩いたり、時々少年の様な声をあげる。
いや……、少年をそのまま大きくしたような二人。
「おい、お前ら。セリグさんとフェティちゃんが待ってんだから、お茶の時間位はよ来い」
その瞬間、三人がフランの方を向いた。
「もうそんな時間っスか!」響が慌てて時計を見ると十五分は過ぎていた。
そんな様子を微笑ましそうに見ながら、シャリーの頭をフランがぽんぽんとやって。
「休憩だ、特製のホットケーキだそうだ」
「ごめんなさい」とシャリーが謝るが、フランは俺じゃなくてフェティちゃん達になとだけ笑って言った。
三人ともまるでそっくりに、両手をあげて伸びをするとすぐ近くの部屋ではホットプレートを真ん中に置いた状態でフェティとセリグが座って待っていた。
シャリーの姿を見ると、花が開いたような笑顔で喜ぶフェティ。
「待たせちゃって、ごめんなさい」シャリーが頭を下げると、フェティが首を横に振る。
「ささ、紅茶を温めなおしてきます」とセリグは席を立った。
「んじゃ、遅れた詫びに俺が焼くかな」とホットプレートの電源をいれて、生地のとろみを確かめる。
全員がホットプレートで生地が焼かれるのを見ながら、途中でセリグが戻ってきて一人ずつ温めなおした紅茶を置いていく。
「ありがとう」とフェティは短くお礼を言った。
セリグも、最後に自分の分の紅茶をいれると、席に座りモブが焼いていたホットケーキに蜂蜜をたっぷりとかけた。
全員が各自の皿に置かれたホットケーキをほおばると、しばし無言の咀嚼音だけが響く。
「これ美味いッスね」「蜂蜜はソーントンのやつを買ってきました、お口にあえば幸いです」
え?っという顔になるモブ「RXにソーントンの蜂蜜なんて高級品あったの?」
「たまたま、店主が高級品を置きたくて無理して買ったものが誰も買えなくて残ってました」
セリグが何とも言えない顔でいうと、フランが咽た。
「それ、俺達が来なかったら。誰も買わずにまだずっと放置されてそうだな」
「そうですね……、でもおかげで我々はこうして美味しいケーキにありつけるのですから感謝しなくては」
それもそうかと、フェティとシャリーの二人の笑顔をみてそう思った。
「セリグさん、フラン。すまないが、少し真剣な話だ」とモブがいうと、二人はそっちに向き直る。
「今日勉強してて判ったんだが、しばらくはRXにとどまって、プレクスの改造と修理をしようと思う。そこで、悪いんだがしばらく艦暮らしになる。最低でも、三か月欲しいんだが」
頭をかきながら、そういうモブにフランは苦笑しながら。「いいよ、軍艦から逃げる時相当ヤバかったんだろ」というと。
「我々も、構いませんよ。ねっ、フェティお嬢様」とウィンクした。
不便かけてすまねぇ、まさか田舎過ぎて宿もねぇとは思わなかったもんでなと溜息をついた。
「まぁ幸いパーツとデータは通販で何とかなる事が判ったが、問題は仕事だ。農作業の手伝いとか、そういう系統しかここには仕事が無い」
なんだ、そんな事かとフランは笑った。
「俺の方は隻腕とは言え、元傭兵。仕事は選ばなきゃ何とかなるさ」
「私は元々、引退軍人ですからね。贅沢しなければ、何とかやっていけますよ」と笑う。
「結局、何ともなんねぇーの俺達だけかよ」とモブが響の背中をポンポンやりながら苦笑し。「そうみたいッス、せちが無いッス」
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