第六十四話 道なり

「あぁ~、風呂入りてぇ」

「RXって前来た時は涼しかった筈ッス」


モブが愚痴をいえば、響も額の汗を拭きながらおかしいッスねと苦笑した。



「あぁ、それならRXの連中が農地を広げるために木を大量にきって星自体のコントロール能力失ってここ最近温度が急上昇してるみてぇだな」


「あぁ~、こんな田舎だとシュミレーションも使えず。ファーミング衛星や気象コントロールも予算的に無理なのにやっちゃった感じか」


この星に住む人は知らない内に、死人が出そうな温度の生活を強いられてるって寸法かよ。


酷い話もあったもんだな……と、二人で溜息をつくと。


「風呂作るか、二つ」「そうっスね、どうせ大幅改修するなら今まで我慢してきた所もやっちゃう事にするッス」



二人して、決心すると。

「響、俺が先に今のシャワー室を広げてバスタブとかおくから。水と排水と温度コントローラーつけてくれるか」


「ガッテンっス、でも艦長早く入りたいからって手抜きは厳禁ッスよ」


「宇宙でトラブルになったら嫌だから、重力コントローラー床に仕込んだりするとこまできっちりやるさ。後防水周りや換気周りもな」


「設置しようとすると、やる事一杯あるんすよねあれ」


「でも、入りてぇ」「同感ッス」


暑さと、メンテナンス場所によっては熱がこもるので必然汗をかいてギトギトになる訳でそれをシャワーだけというのは結構辛い。


「そうだ、そうすると水タンクもうちょい増設した方がよくね?」

「作れる水量は変えられなくても、ためて置けるようにって事っスね。そんだったら、タンクの内部の清潔を保つ為に特殊加工もやっといた方が良いっス」


普通のキャンピングカー等で、水タンクをそのまま使う事は難しい。だから、ろ過装置を通す等の対策をする事が水を確保する為に必要なのだが。プレクスはそれを、内部特殊塗装で解決していた。


大仕事だけどやるしかねぇなと、モブが背伸びした。

「艦長、最低でも推進機やジェネレーターを十%は上げないと改造する意味無いッス」

「わーってるよ、そっちも調整しっかりしてくれねぇとお湯が出ないとか嫌だぜ?」


二人で、軽く拳をぶつけ合ってそれぞれの改造にとりかかる。


お互いのやろうとしている事を、ノートに書きだしてお互いが判っているから後は作業するだけ。


モブは壁の一部を剥がして奥側と横に拡張を始め、最後に床を剥がし。最初に、重力制御装置とバランサーを仕込む。ここは、装置に湿気や水がかかるとまずいので先に防水でガチガチに固めてからタイルをはってパテで埋め。装置の下からプレクスの中を通して、重力装置にエネルギーを補給する為の配線等を配線した。



作業を一部屋づつやるのは、しばらく使えなくなるからだ。


こうして、床を張り直し。そのはり直した床の傾きを一度か二度排水溝側に傾け、中に入った排水は汚れと水に分離し。汚れは宇宙に吐き出し、水も宇宙に凍らない様に処置をしてから吐き出すようにした。他の艦と違って、プレクスは推進機さえ動いていれば水だけは幾らでも手に入るからだ。



「本当はジェットバスとかつけたいけど、それやると泡製造機や水圧コントロールもつけなきゃならんから我慢我慢っと」と自分の願望も口にしながら着実に作業を進めていく。

数日もすると、一部屋目の風呂が完成し。今まで使っていたシャワー室のドアから入って手前が鍵付きの脱衣所、奥が風呂になっている。


「これと、同じことを後もう一回隣の分もやらなきゃな」と肩を回しながら、響がシャワーや風呂のお湯の出や温度をチェックし。顔を床に張り付けて丸い球を置いてちゃんと排水溝側に流れていくかを転がり具合でチェックする。


推進機も、先日少量羽を増やして羽で破片が入らない様にガードをする等大幅な改修を施して出力機関も新型の基盤等を使う事で効率をあげている。


「まっ、そのせいで響はコントローラー一から書き直しになったんだけどな」


制御とコントローラーを微調整で済ます予定が、全書き直しになって響は泡ふいていた訳だが。流石というかなんというか、前以上に滑らかに切り替えられて推進機の移動がスムーズになっていたのはびっくりした。


その後、寝るッスとだけいって二日ほど人間として食うとか排泄以外は全部寝て過ごして風呂に入ってから作業を再開した。


ありがとよって言ったら、これが俺の仕事っスから。艦長の仕事はどうなんスか、ちゃんとやってんでしょうね?って聞かれたから親指をびっとやって「見ていけよ、恥ずかしい仕事はしてねぇから」と言ってやった。



それで、軽くみて一つ頷くと。「他の改造もあるッスから、ここだけ気合入れてる訳にもいかないんッスけど」と苦笑しながら。


「俺達長い事我慢してきたからな……」「長年の夢がここにきて叶うとか、人生思い切ってみるもんッス」


二人でしみじみ言うと、これで疲れを取りながら。二つ目を作って、次は操舵周りだなとモブが間延びしながら言った。

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