第百十八話 永遠に感じる十秒

アンリクレズのカウントが進む、その間アンリクレズは可能な範囲で演算を繰り返し。

響の要請した、十秒間プレクスの負荷を押さえ込むように各部を調整。


コントロール可能部位は全て負荷分散に回して、その十秒をひねり出していた。



(ここまで、強く要請された事は今まで無かった……)



ならばその十秒は、自分にとって道具として光輝く最高の瞬間であり。信頼を勝ち得る仲間としてその能力の見せ場に他ならない。



ネジ山の一山、配線の銅線一本、合板の軋みまでアンリクレズはその負荷を計算しきっていた。



モブはとにかく、曲がる能力も旋回能力もすべて推進力に回している為べた踏み。

響は、アンリクレズが表示してる情報を逐一確認しながら。ずっと、さっきから「ヤベエッス」を繰り返していた。



フランも、流石に人間で砲撃を逸らすなどという芸当を連打してれば疲労困憊。ただ、持たせると言った以上、ぶっ倒れるつもりでヴェルナーを振りぬく。



それぞれが、窮地を凌ぐために奮闘。長い長い十秒を越えて、敵のセンサー圏から脱出したのをアンリクレズが知らせて来た。


「おいクレズ、悪いけど俺もうダメだわ……」そういって、モブが汗びっしょりのままコクピットの地面でひっくり返る。


「クレズさん、本当すまねぇッスけど。俺も限界ッス……」響も同じようにコクピットの椅子の横で大の字になって倒れた。


「おぃ、状況はどうなったよ?」フランが昇降口を閉めてコクピットに這ってきた時にみたのは、ひっくり返っている男二人。


「敵の索敵圏からは出られたって、クレズさんが言って立っス」


「助かったのか……、本当お前らといるとこんなんばっかりだな」その場でうつぶせで倒れこむフランがそう言うと。「好きでこんなんやってんじゃねぇ…………」とか細い返事が。


モブがそれだけ言うと三人とも変な笑いを浮かべ、無言で片手をグーにして形だけガッツポーズした。



「索敵範囲に脅威は確認できません、自動運転を行いながら各部のチェックを致します」


それだけいうと、アンリクレズが今何のチェックを行っているかがコクピットに映し出されつつ高速でログが流れていく。


幾つか、紅いラインが引かれ。特に、推進機と超電磁レールが何か所か切れている部分があった。それを見る度、モブの顔色がどんどん土色になっているのが判る。



「艦長、それと残念なお知らせがあるッス」響が深刻そうに言うと、モブがまだ何かあんのかよと言った虚ろな表情を向けた。



「俺達、デュークにいってなんの仕事もしてねぇッス」

「セリグさんの知り合いに港利用料無料にしてもらってたし、ジャンクもしこたまもらったし、もろもろ色々手続きもやって貰って今までになくスムーズに済んだけどけどそういや仕事受けてねぇな……」


その瞬間、響と二人で今にも口から魂が出ていきそうな表情になる。



「お義母さん! 大丈夫?」シャリーが倒れているフランに走り寄るが、フランは壁に背を預けるように起き上がると「大丈夫だ、悪いけどセリグの奴に甘くしたココア貰ってきてくれるか?」安心させるようにゆっくり両肩に手を置いて優しく笑う。


何度も縦に頷くと、シャリーがとてとてとセリグの方へ走っていく。

その背を見届けると、再びへたりこむようにずり落ちた。


フランが横になると、「喋るだけできついわ」とだけいって無言になった。

その様子をみていた、モブと響も口元だけで笑う。



「艦長、後で修理宜しくッス」「響、修理終わったら少し働くぞ……」


了解っスとだけ言うと、二人も無言になって。



セリグがコクピットに来た時には、全員が床で寝ていた。



「お疲れさまでした」そういうと、作ったココアをキッチンにラップをして置くと。ブランケットを三人分もってきてそれぞれにかけた。



「アンリクレズさん、プレクスは何処に向ってるんです?」とセリグが尋ねると「惑星ギンヌンガガプです。到着予定は、四日後です」との回答が返って来た。



「ギンヌンガガプですか……、少し肌寒いかもしれませんね」「当艦内部はエアコンによって快適な温度を保つ事が出来ますが、艦長が外で修理する際の備えはあったほうが良いとアンリクレズは進言します」


シャリーが、フェティを連れてコクピットの様子を見に来たが。セリグが口元に人差し指を当てて「寝かせてあげましょう」というと無言で頷いてセリグたちは部屋に戻っていった。



一連の流れを、アンリクレズは虚数空間から見ていて響にレンズを合わせ。

「響様、やはり貴方に機体を持たせろと命じられた時。私は仲間であるよりも、貴方の道具である方が喜びを感じました。でも、響様が求めるのは仲間……」



プレクスの自動運行を行いながら、アンリクレズは演算を続けている。



「どうか、ご自愛ください。マスター」



ボロボロのプレクスが、宇宙の闇を揺蕩う中でどうにか生きのびつかの間の平穏を貪っていた頃。



犯罪ギルドでは、プレクスの存在が大問題になっていた。

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