第百十七話 苦しみ貫き今を研ぐ


「ジャンプ成功、アウト座標は?」


「敵の後ろ七時の方向、距離百九十です」


モブの確認に、クレズが答えた直後にプレクスが再び大きくゆれた。


「どうなってるっスか!」

「相手の砲は触手です、回頭せずとも後ろの我々を攻撃できます」



あっ……となるモブ、白眼になって思わず叫ぶ響。敵の強化機械兵もすぐ察知してこちらに再び包囲をかけようとしています。


そうクレズからの報告を聞いて、思わず頭を抱えた。



「今の攻撃を受けた事で、一、二、三番推進機沈黙」その報告に、モブが声にならない悲鳴を上げた。



「まじかよぉ……、三つも持ってかれちゃったのかよぉ…………」

「艦長、いよいよやべぇっス」「判ってる!」



「おい!、大丈夫か?」そこへフランが駆け込んでくるが、涙目のモブが「ちょっと大丈夫じゃねぇかも、シャリーとフェティはどうした?」と尋ねるがセリグさんに任せてこっち来たんだよと言われた。


「響、状況は?推進機四つやられてるッス。うち一つはオーバーヒートなんでもうちょい粘れば復帰できそうっス。三つは完全にオシャカッス」


「一大事じゃねぇか、おう艦長。ヴェルナー貸してくれ」フランがいうと、涙目のオッサンが自分の腰かららヴェルナーを投げ渡した。



素早く、直列に持ち手をしっかり繋ぐと宇宙服借りとくぜとそのまま行ってしまった。



「おい、まさかとは思うが……」「多分、そのまさかっスよ」



足を重力板に固定しつつ、無茶苦茶な長さに伸ばしたヴェルナーの刀身を伸ばし。

敵の砲撃を切りまくって、明後日の方向に流していくのをみて。モブと響は、「人間業じゃねぇよ、あれ片手でやってんだろ?」


「強化機械兵や艦の攻撃を刀身を、伸ばせるだけ伸ばして、マグロ包丁どころかプレクスの五倍位の長さにしてそれを振り回しいなし切ってるッス」



「おいっ、何ぼさっとしてんだ!。昇降口を後ろ向けてなるべく早く逃げろ!」


「アイアイマム!!」どっちが艦長か判らない三下風の返事をすると、モブが全力でフランの指示通りに昇降口を後ろに向けた。


響も、生きている推進機を全部それで飛べるよう配置をし直した。



「生き残っぞ」「「うっす!」」



(さて、片手で何処まで持つかねぇ……)



そんな事を考えながら、お首にも出さない。

今、そんな事を口走れば士気がガタ落ちになるからだ。



(娘は、俺が守る!)



「クレズさん、敵さんが諦めるぐらい出るにはあとどれ位必要ッスか」

「最短で、四百八十秒必要です」


その台詞に、ガックシなる響。


「バランサーに使ってる推進機も、全部前進に回したらどうだ?」

「そんな事したら鼠花火みたいに暴れまわる事になるっスよ!」


「アンリクレズも、艦長の案を推奨いたします。現在のプレクスは推進力が圧倒的に足りていません」


響が、腕を組んで考え込むが直ぐに決断した。


「フランさん、申し訳ねぇッスけど速度上げるために艦が暴れまわる事になるッス」

「了解!」


「敵、回頭終了後に主砲を発射しようとしています。エネルギー充填しつつ、左旋回」



「おい、響! 艦長!!」



フランが時間がねぇと心の中で叫びながら、ヴェルナーで敵の攻撃を捌く。


「敵の主砲を、クマドリで凌ぐ。やれるか?」

「畏まりました」



「バランサーや旋回に使ってる分まで、全部速度上げるのに使うぞ!」

「大博打じゃね~ッスか、でもそれのったッス!」




響が、素早く推進機のフォーメーションを変え。瞬間、速度は爆増したが。まるで手の付けられないロデオの暴れ牛の様にプレクスがあっちこっちに暴れ狂う。



そんな中でも、フランは全ての攻撃を全部ヴェルナーでいなし切っていた。


ムリな体勢で、無茶苦茶な軌道。それでも、ぐんぐん敵との距離が開いていく。



「各部、負荷が増大しています」

「わ~ってるよ!」

「辛抱してくれっス」



狙いすました様に、極太の敵主砲がプレクスを貫くが最後のクマドリが完全ガード。

ビリビリと艦内の空気が揺れるが、それだけだ。砲撃の中にいるというのに驚くほど何もない。


クマドリが霧散し、蛍の光の様に消えていく……。



「報告!」「主砲によるダメージゼロ、むしろ変な恰好で飛んでる負荷の方が深刻ッス。このままの速度だと、自分の速度でへし折れるッス」


「十秒持たせろ。それで、通常航行に戻す!」「了解、クレズさん。聞いたっすか十秒だけ頼むッス」


「必ず!」


響に求めらた、クレズの言葉に力がこもる。


「十秒だな、任せとけ!!」フランからも力強い返事が返って来た。



イヤな汗が乾いて、シャツがカリカリになっていくのが判る。


「カウント始めます十……」クレズがカウントを始め、長い長い十秒が幕をあけた。

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