第百十六話 フラップパワー
歯を食いしばって、恐怖に耐えながら綱渡りの回避を繰り返すプレクス。
味方の援護もあって、徐々に高度を上げてはいるが未だ大気圏半ば。
まるで、峠のカーブをドリフトで攻め込む様な動きで敵の砲撃に合わせて食らいついていく。
「次は、どうするっスか!」
「三番推進機の冷却水をぶちまけろ!」
オーバーフローして使えなくなった推進機に回している冷却水を僅かに開いた隙間からぶちまけ。敵の砲撃と水が当たって煙幕になって、目くらましとして機能。
水蒸気で作った煙幕の中を、まるで高波に挑むサーファーの動きで舞い抜けていこうとするが波の壁を敵の攻撃がお構いなしに飛んでくる。
「ぶちまけた三番の蓋を閉じて、他の冷却水を三番に回して補充!」
「了解っス」
インカムの声が、艦内に響く。
僅かにモブの眼が見開いて、タイミングを計って友軍の横三メートルを通してプレクスが抜けていく。
「冷却はどうなってる!」「冷却周りは異常無し、オーバーフローした推進機の復帰まで最大で三百秒ッス」「そんなに、待てねぇって!」「艦長が、今冷却使って煙幕しなきゃもう少し早く冷却完了できたッス」
(バカやろ、あそこで煙幕はらなきゃ向こうから丸見えでハチの巣だっつーの)
必要な犠牲だと判りつつも、推進機や冷却をも失っていくのは厳しい。
そこで、プレクスの体勢がガクっと一瞬落ちた。
「何が起こった!?」「六番推進機に被弾したっス、消火はすぐに完了してるけどもう六番は使い物にならないっスよ!!」
「やっちまった!!」 一度は体勢を崩したプレクスだが、響が素早く六番を邪魔にならない位置に変えて消火する事で再び力を取り戻した。
まるで、酸素が足りない金魚が水面を目指す動きでプレクスの機体がついに宇宙と大気の境目にたどり着く。
「さて、ここからだぜ……」「判ってるッス、てかもう敵さん見えるとこまで来てるッス」「ったくよぉ、もう少し遅刻してきてくれてもいいんだぜ?」
軽口を叩いてはいるが、余裕は全くない。
「敵、強化兵アルバレスタ当艦をロックオン」
「やっべ、嘆いてる場合じゃねぇ」「どうするんスかこれ」
「プレクス総員、なんかにしがみついとけ!」
そう叫ぶと、正面のアルバレスタに向って突っ込む。
無論、砲撃も銃撃も浴び放題だ。現在のプレクスはノーガード、掠りでもしたら、それで終わりだ。
「艦長そりゃ、無茶っス!!」
「響、一番と二番をコクピットの頭上。四番と五番を両方の翼の端。バランスは七番八番のみで取れるか?」
「クッソタレッス!」
それでも、指示どうりに動かし。一番と二番の推進機の噴射によって機体は尾翼部分だけが上に上がっていく。
宇宙に出ている為、コクピットが真下の状態に。頭上にあった推進機を体制に応じて徐々に鼻先に持ってくることにより逆立ち状態で宇宙に浮いていた。
そのまま、四番と五番の推進機を使って横に回転。
七番と八番を噴射する事でそのまま進行方向に移動しながら砲撃を文字通り回転だけで交わしながら砲撃を通過。素早く、体勢を戻すと「ジャンプスタンバイ!」と響に通達。
(後ろからも敵が来てるんじゃ、一回しかねぇジャンプで逃げ切れるとは思えねぇんだよな……)
正面の気持ち悪いデザインの、触手という砲台が増えまくっているヒドルストンが見えてくる。
「合図したら、迷わずジャンプだ!」「早めに頼むッス!!」
「警告、無理な回転で翼に高負荷がかかりました。右翼フラップに深刻なダメージ」
「「嘘だと言ってクレズさん(ッス)!!」」
(流石に、曲芸みたいな回避続けりゃそうもなるか……)
「むしろ、今まで良く持ちこたえたッス……」
「また、修理かよ!」「艦長、ドンマイッス」
「熱源感知、敵両肩からエネルギーライフル」
クレズが警告と同時に予告線を表示、それを見てモブが青ざめる。
「マジかこれ」データを見ると、敵の砲撃の威力も直径もヒドルストンから発射されているものよりも強化兵の肩から発射されるものは四倍強ある。
モブが思わず、自分の震えた足を左拳で叩きつけて己を鼓舞した。
「覚悟を決めろ、ギリギリで飛んで正面敵の後方に抜けてやる!」
徐々に、包囲を固められつつあるプレクス。
味方の援護射撃も、プレクスにこうも集中砲火されていては厳しい。
「どうするっスか?」「右翼を下、左翼を上に斜め三十八度にプレクスを傾け時速八百キロで突入。可能な範囲まで敵の弾幕を引き付けてジャンプ。ヒドルストンの後方なるべく遠くに、アウトした後全力でお祈りだ」
(これ以上の速度をだすと、多分翼をやっちまうっ!)
「最後だけ、どうにかなんねぇっスか!」
「あんな図体してるんだ、回頭には時間がかかる、味方艦が邪魔で思った様に攻撃は飛んで来ねぇ……はずだ!」「なんで、そんな自信ないんスか!」
方針は固めた、慎重に角度を調整し。モブが敵の砲撃の予告線を睨みつけながら、そうであってくれとコースを探す。
そして、プレクスは敵の砲撃の中を掻い潜り。敵の主砲の光の中へ消えていった。
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