第百十五話 絶望のドッグファイト
急速発進したプレクスは、乗組員に若干のGをかけながら上昇していく。
高度計を確認しながら、一直線ではあがらずやや螺旋を描くように上昇。
(それでも、この揺れやGで済んでるのは流石と言う他ないですね)
セリグは、後にする地上をちらりと見てすぐに前を向いた。
「総員、何かに捕まってろ!」モブがそう言うと左フットペダルをべた踏みで踏み込む。
前方に予告線が六本走ったのを確認すると、素早く左に舵を切る。
船体が左翼を下に一気に傾くが、ここでプレクスの構造が生きてくる。
左推進機のペダルをべた踏みする事で、左翼推進機だけで機体をささえて傾いたまま空を翔けていく。右翼の推進機は空中でバランスをとる為の力を提供、それによって速度を一切落とさず回避。
宇宙から長距離で飛んでくる砲撃やレーザーの正確な位置を予告線でクレズが表示、モブがプレクスを操って。各推進機の配置や出力は響が担当。
「次は、八本来るッス」「ミラーボールみてぇにチカチカしてんじゃねぇっつんだよ!」
同じ様に、傾いてかわせないラインで飛んでくる。
そこで、阿吽の呼吸で響が推進機を全て真上に移動させ、ブレる様にプレクスの機体が真下にずれる。
八本飛んできた攻撃は今、プレクスが飛んでいた位置を綺麗に直進で通過するのを確認すると三人が胸を撫でおろした。
素早く、推進機の位置を翼の下の定位置に全て戻し水平飛行に移行。「プレクスの状態は?!」
「若干の負荷がかかりましたが、許容範囲内です」とアンリクレズが機体の状態も右側に表示してくれていた。
「推進機は全部無事……、いよっし!」今も断続的に攻撃を浴びてはいるが、予告線が正確なので上手く回避できている。
「クレズさん流石っス」「恐縮です」
その時、予告線が六十本近くに一気に増えた。
「やっべ、敵さんいつの間にか触手みたいな砲台無茶苦茶増やしてやがる。これだから、ナイトメア型は……」
「それでも、俺達に砲撃能力の三分の一も向けてるって事はそれだけタリウス達は優位に戦えるはずだ」
それだけ言うと、排気口をレバーで少し開けそれが飛行機雲のように後を引いていく。
響がにかっと笑うと、「飛び切りあおってやるッス」と悪い笑顔を浮かべた。
そのまま、左回転で飛行機雲が螺旋を描きながらまるで昇っていく。
「砲撃ってのは、真上からと真下からくるのを狙うのは苦労するんだ。格闘戦の基本だな」
恐るべき回避能力で、レーザーや実弾をバリアなど一切はらずに回避していくプレクス。
その運動能力に、敵も味方も思わず目がいく。
それを見ていたローレンスもセリグが言っていた台詞を思い出した。
「生き残るだけならやってのける」とその自信はハッタリ等では無かった。
あれなら、フェティ様は絶対大丈夫だ。その確信が、ローレンスを鼓舞し。それは、部下に伝播していく。
それにしても、味方で良かった。あれでは、ほぼどんな兵器でも後ろを取られてしまう。
飛んできた砲撃にあわせて、巴返し等熟練の戦闘機乗りでもそうやれる芸当ではない筈だ。それを、ほいほいと……。
味方の士気が上がるにつれて、プレクスへの砲撃も徐々に弱まってくる。
「どんなに強い遺産でも一機じゃ、砲撃位置を特定しやすいからな。何となりそうだ」とモブ笑った瞬間、予告線が極太で表示され「やっべ、響、推進機の位置を変更」「わ~ってるッス」素早く推進機を移動させようとするよりも先に、プラズマの巨大な塊が迫ってくる。
「艦長、クマドリは?」「まだ星も出てねぇのに切り札切れるかってんだ、気合で避けるぞ。ダメだった時の為に消火器もって待機しとけ!」
慌ただしく、セリグがキッチン横の二酸化炭素がつまったボンベを担いでしっかりとスタンバイした後重力板を起動させて己を地面に吸着させた。
「ご丁寧に、下ラインも砲撃ばら撒いて防いで来てるっス」「デスヨネ~、さっき咄嗟の事とは言え真下に逃げるのを見せたのはマズったな……」「普通の艦は、真下に咄嗟にずれて躱して飛ぶなんて物理的にできね~ッスからね」
言い訳してても、砲撃は待った無しに迫ってきている。
「二番と三番推進機を顎下に回してくれ」「一番とかは回さなくていいんスか?」
「多分、それを回すと次追いうちかけられたらかわせねぇ」
響は、推進機を移動させながら尋ねるがモブの答えはノー。
ちなみに、プレクスにとって推進機とは航空機で言う所のジェットエンジンみたいなもので飛行しながら推進機の位置を変えるというのは一度でも半端なく難しい。
ただ、一部が稼働するだけのオスプレイが未亡人製造機なんて言われてる所以でもある。
それを、響はモブの要請でいとも簡単に操縦の邪魔にならない様に推進機の位置を変えているのだ。プレクスが、空中でも宇宙でも可笑しな動きができる所以と言っていい。
それぞれの、推進機に出力リミットを設ける事で各部の推力調整を行い。機体バランスを保つ、とんでもなく器用な事を阿吽の呼吸で行っているからこその機動力。
「顎下の推進機、リミットオフ!」「二番、三番リミットオフ了解ッス」
すぐに、操作がなされ。推進機から吹きだす力が増した。
レーザーの螺旋を描きながら直進する極太の飛んできた砲撃の上部を、推進機の排出圧でまるでエアホッケーの円盤の様に滑っていくプレクス。
空中でレーザーの上を滑っているのをみて、周りのパイロットの常識が壊れていく。
無論、それを管制塔でみていたローレンスは「何あれ~~~!」と叫んで思わず友軍の何人かがインカムをずらした。
「ダメージは?」「二番、三番がオーバーフロー。しばらくは冷やさないとダメっスよ!最高速も少し落ちざる得ないッス」「了解、汚い花火になるよりゃマシだよな!」「星になるにゃ未練がありすぎるんで、もうちょい気張ってくれっス!」
「俺だって、未練たらたらなんだよ畜生が!!」
コクピットで二人してそう叫ぶと、再び敵の猛攻を浴びながら宇宙に上がるべく上昇を続けるプレクス。
「全然、攻撃が減らねぇぞ。むしろ、どんどん俺達に来る攻撃が増えてる」「最高速が落ちてるから、弾幕はられるとキツイッス」
今も、クレズが予告線を表示し。多すぎるために、順番に数字が振られるようになったがその数が七十を越えている。
それだけではなく、業を煮やした敵さんから砲塔を更に増加してこちらに照準をあわせているとアラームが鳴り響く。
それを、左右のローリングを駆使しよけようとするが。
「敵さん、俺達が避けるコース全部塞ぐ気っス」「物量万歳ってか、羨ましいねぇ!」
「響、大気圏出るのにあとどれ位かかる?」
「真っすぐ直進なら、すぐ出られるっス。だけど、こうも煩くあんな長距離からバカスカ撃たれてたら中々前に進まねぇッス」「だよなぁ……」
「敵、強化兵の出撃を確認。数、三十五です」
そこに、クレズから無常の報告が入って二人がゲッソリした表情になる。
「こりゃ、デュークの守りとかを狙うってよりかは。確実に、大気圏出た後の俺達狙いだよな」「どうせ、囲まれるんならキレイなおねぇちゃんが良かったッス」「同感!」
まだ、ピンチは続くようだ。
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