第百十四話 前門後門共に虎

「やべぇ、星の後ろに逃げればいいのは判ってんだが……」

「何処にも、後ろまで行けるだけの隙間がありませんね」


「武装が完璧でもきついっスよこれ、かといって非難を呼び掛けて来るって事は一機でもここを追い込むだけの能力はあると、ここの領主は判断したって事っス」



さっきからずっと、リアルタイムの動きやそのログで少し前の情報を逐一表示させて考え込むが未だ突破口は見つけられずにいた。


「翼は修理したばかり、プレクス最大の逃げ足を約束するジャンプもクマドリもそれぞれ一回こっきり」


「これ、まずいっスよ」「わ~ってる!」



なまじ情報が見えているだけに、領主が何故そう判断したのかは凡そつかんではいる。

「デュークの流動防壁破られる前なら、防壁の下回って逃げるとかできたんだが……」


すでに、モニターにはまるで虫食いの様に防壁に穴があいていると表示されている。


「一回の斉射で、発揮する攻撃力も高すぎますね」セリグが、浮遊砲台を持ってかれている映像を見ながらため息をついた。



「取り敢えず、様子見だ。どうにもならねぇ、さっきタリウスが出てったならしばらく時間はあるだろう」


「様子見っスか」


「敵が先制してるから、逐次投入にしかできてねぇが。それでも、音に聞こえたタリウスのあの数だぜ? 実際、主砲も防いでた。準備ができ次第、どんどん発進させりゃなんとかなるだろ」


その台詞に、セリグがジト目になる。「本当にそう思ってます?」


「すいません、無傷でとは思ってないです」すぐにモブが謝るとセリグも肩を竦めた。



「タリウスで一番きついのが、一定範囲から出られないって事っスよね」


(その一定範囲をこんな視覚化してみる事が出来るとか……)


「そうだな、向こうが艦である以上。砲撃でバカスカやられたら、防ぐだけだもんな」


じっと、モニターをみる三人。


「相手がナイトメア型ってのも痛いッス、弾も燃料も人の命さえぶち込めば何とかなる奴っスからね」「非常に胸糞悪い話だが、犯罪者ギルドにはお似合いだぜ?。 命も財産も根こそぎ奪い取って。窯にぶち込んで、最後の最後まで強制的に人間絞りきる機械なんてよ」


そんなのに先制を取られてる以上、時間経過で事態が悪化する可能性もある。


「多分……、情報をくれって言うまでクレズさんは全てのセンサー切ってたッスよね?」

「はい、響様。少しでも多く自然回復分のエネルギーを蓄積したく」


自分が少し前に言った事とは言え、これもかなり痛手だ。



「セリグさん、取り敢えず三人分コーヒー淹れてくれ」

「かしこまりました、お砂糖とミルクは」


「ヒーローとコーヒーはブラックがいいってな♪」

「今回は俺もブラックで頼むッス」


「じゃぁ、俺の分だけミルクを入れておきます」



セリグがキッチンに言ったのを確認すると、モブが響に向って言った。



「さて、これが人生最後のコーヒーになるかもしれねぇな」

「セリグさんがいれてくれるんなら、とびきり旨い事は判ってるっスからね……」



実は、モニターの画面の端っこにもう一個敵影が映し出されているのを二人は気づいていた。


「犯罪者ギルドの遺産艦が裏手からも来てるなんて、後ろに逃げようって話してる時に見つけるもんじゃねぇッス」「見つかっちまったんだから、しかたないだろうが」



はぁ~と、二人で溜息をついた。モブが自分の顔をバシン!と叩いて気合をいれた。


「うし、とりあえずコーヒー飲んだら。もう一度脱出経路考えるぞ!」

「そうっスね、命大事に安全第一ッス」



裏手から来てるのに、この動き方だと正面しか気づいてない。


モブは、そう確信していた。見事にここの領主は敵の陽動に引っかかってしまっている。

(まぁ俺達も、こんなクレズさんが優秀じゃなきゃ気づけなかったけど)



そこへ、セリグが戻って来た。豆のいい香りがコクピットに広がって、実に香ばしい。


「セリグさん、ありがとな」「ありがとうっス」


「それで、何かよさげな案でも出ましたかな?」とおどけるセリグにあったら苦労しねぇよとモブが笑いながらコーヒーを受けとってゆっくりと楽しむ。



「にしても、相手一機だろ? これだけの、タリウスやら相手に良くやるなぁ」

「関心してる場合じゃねぇッスよ」


セリグも、響に同意した。


(あくまで一機から逃げ切る体で、もう一つが来る前に港出ないといけねぇし)



空になった、コーヒーカップをゆっくりと置くと。推進機の位置を調整する為にキーボードを叩く、すぐに推進機が反応し、既定の位置へ動いた。


「艦長、腹は決まったッスか」

「正直、オムツがいるんじゃねぇかって位にはちびりそうですが何か?」


セリグがそれを聞いて、ふざけた様に。「今から、降りて大人用おむつを買って来ましょうか?」モブもそれを聞いて、いらねぇよ大体手後れだと返した。


「セリグさんも、だんだんノリが判って来たみたいッスね」と響が嬉しそうにしている。

「プレクス離陸、目標地点は高度四千五百メートル付近。減圧平行問題なし」モブはモニターの一点を指さして言った。ルートは北西から宇宙に飛び出すここから出る、味方の攻撃の熱源で目くらましさせてもらいながら、この星の自転に逆らう様な軌道で味方防御衛星の下を通過。最終的には、このラインまで出る。


「味方の防御衛星の下通る時に、結構撃たれそうっス」

「覚悟の上だ、つかここ以外でまともに通れそうもねぇ」


確かにと、セリグと響が納得すると同時に。モブが、一気にレバーを引く。


「さぁ! 行くぞ!!」

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