ルステリの悲鳴

アルバレスタまで出撃させながら、まんまとプレクスに逃げられた犯罪者ギルドのナイトメア型艦ヒドルストン艦長のルステリはその美しい金髪をかきむしっていた。


「何なんだ! あの小型艦はっ!!」

「港のデータをハッキングしてきました、艦名はプレクス。艦長モブ、エンジニア響、傭兵に白刃フランソワとその娘が乗っている様です」



その瞬間ルステリの顔が、真顔になった。


「白刃フランソワって有名な個人傭兵の?」「どうやら、その様です」


成程、最後長いビームソードの様なモノでこちらの砲撃を全部逸らされたがそう言う事ならそれは仕方がない。


常識として、まず傭兵はギルドに所属している事が大半で。ギルドに所属していない傭兵は基本的に新人などだが、稀に個人で上級ランク傭兵がいる。


この個人で上級というのは、一人でギルド並の力がある証明に他ならない。


まして、宇宙傭兵というのは、金さえつんで、契約さえ結べば犯罪者だろうが、政府だろうが宗教家だろうがお構いなしに味方につけられる勢力。

当然、犯罪者ギルドのナイトメア艦の艦長ならそれを知らないわけじゃない。


そう言う意味では、戦争屋と言い換えてもいい戦闘のプロ。強い傭兵はそれだけ悪名高く、犯罪ギルドの中でさえ元上級個人傭兵が幹部クラスという事もある。


(人間やめてる様な連中ばっかりだからな)


「ボスには、フランソワにやられたとだけ伝えろ。最期の砲撃全部逸らされた映像とセットでな……」「了解しました」


フランソワっていや、優男で剣の達人だって話は聞いてたが、砲塔を増やし強化兵からも砲撃を浴びせてあんな変態軌道の小型艦から武器をだして全部逸らされるとなればやはり上級個人傭兵は敵だと厄介極まる。



「そいつら、幾ら積んだんだ。並の艦族に雇える傭兵じゃねぇだろが……」



※実は、金を払って契約してる訳ではなく成り行きで乗っているだけだったりするがこう思ってしまうのも無理はない。それだけ、宇宙傭兵は金と契約には煩いのだから。



「他の乗組員は、コックとその娘か」リストを見ながらルステリが顎に手をあてて考える。


フランソワが強いのもそうだが、あのプレクスとかいう艦は小型艦の常識をことごとくぶち壊す様な動きをしていた。こっちの攻撃が、何処に飛んでくるか判って無ければできない動きが多すぎるのだ。


モブって野郎が運転担当なら、モブなのは名前だけで。俺達より、ネジがすっ飛んでる可能性が極めて高い。



「ひでぇ名前だな、それだけは同情する」



※犯罪者ギルドにさえ、名前をディスられていく艦長。



「砲塔を増やす為に、奴隷どもを四百人は窯にぶち込んじまったからな。後で、補充しねぇと。ナイトメア艦は、燃費が悪すぎる」


この時、ルスタリは気がついていなかった。そのコックと娘こそが、今回のターゲットである事を。そして、ボスからはそこを言われて大目玉を喰らう事を。



奴はこっちに向かって飛んできて、正面きって食い破り逃げおおせたんだ。デュークの連中は誰一人として後ろから接近させたこっちのナイトメア艦に気がついてなかったというのに。


つまり、奴らが持ってる遺産ってのは索敵系だ。それも飛び切り範囲が広く、未来予知と言える程の弾道をも読み取る能力があるとしか考えられない。


俺達の主砲を小型艦に積めるような出力のバリアでガードなんてできるか?できねぇよ、だとしたら索敵以外にも遺産を複数積んでるってこった。



逃げみち塞ぐように弾をばらまいても避けやがったからな……、しかし、被弾してたって事は完璧じゃねぇ。もっとも、何であれだけ当たったのか理解はできてないが。



捉えるなら、それがまぐれじゃダメだ。確実に当てれる様に、奴らの遺産の情報を集めねぇと。


思案を浮かべながら、プレクスへの執念を燃やすルステリ。



「絶対に、その遺産奪ってやるっ!」



両手足を斬られ喉を潰された人間達が、黒い穴の中でおぞましい悲鳴に似た何かをあげているのを心地よいBGMの様に聞きながら。みるみる、ケーブルがその体に絡みついて姿を隠していく。



その窯を一瞥して、軽くワイングラスを掲げて仕草だけの乾杯をした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る