第百二十話 ギンヌンガガプ

結局、モブ以外の響やシャリーにフランはギンヌンガガプに着いてすぐプレクスを降りて仕事を探しにギルドにそれぞれ港から歩いて行った。



一方、モブは一人寒空の下で修理を始めた訳だが。


「へ~~~くしょい!!」モブのくしゃみが艦内に盛大に響く。


アンリクレズが懸念した通り、このギンヌンガガプは肌寒い。


外の気温は、晴天で十二度だ。



今日は、内部で使うミゾナットを自作していた。通常のナットは頭にミゾは入っていないがヘリコプターなどの極端に振動がある様な場所にこのミゾ付きナットは使われる。


ミゾにピンを差し込んで、振動でも緩みにくくなっているのだ。


手が震えて、地味に大変だが。今日外で作業するよりは、ずっとマシだとこうして初日に点検した後、ジャンクから必要な部品を手作業で作り続けていた。


もはや、手慣れた内職の様に黙々と朝入れてもらって既に冷めたコーヒーを飲みながら作業に没頭し。出来た部品をアンリクレズにしまってもらうを繰り返していた。



寒い寒い言いながら、線をよったり、圧着したりとにかく必要な部品を揃えていく。

偶に虚ろな目で、ちらりと外を見ながら「はぁ~」とクソでか溜息をつく。



「艦長、今帰ったッス」「おかえり、仕事は?」「運搬とかはないっス、だけど商店の手伝いとかなら大量にあるッス」「ありがてぇ」「調子はどうっスか」「部品作ってた、成果は後でクレズさんにでも聞いてくれ」



それだけ言うと、インスタントコーヒーを響にいれて差し出した。


「外寒いだろ」「そうっスね」


そこへ、フランとシャリーも帰って来た。


「おう、お前ら相変わらず男二人で仲がいいな。BLってやつか?」フランがニカっと笑うと響がブッと噴き出して顔中にコーヒーをぶちまけた。それをシャリーが慌ててハンカチで拭く。「シャリーちゃん、ありがとうッス。俺は、ノーマルッスよ……」


しまらねぇなと頭をかきながらも、フランに「助かった、ありがとな」とモブが頭を下げるがフランはモブの肩をぽんぽんやると「気に済んな」というだけだった。



「お兄さん、プレクスは?」「必ず直すから、子供は心配すんな」それだけいうとモブが自分のコーヒーをいれ「それ美味しいの?」とシャリーが聞くが大人三人苦笑い。


「美味くはねぇが、温まる。シャリーは、ココアでも入れてもらえ。俺達もシャリーと同じころはココアだったからな」


あったまりゃ何でもいいんだよと肩を竦め、シャリーも笑って頷いた。



「とは言っても、俺達の時は砂糖なんてクソ高いから。今飲んでるコーヒーと変わんねぇ位苦かったけどな」


それだけいうと、モブは部品を作っていたそれを片付けた。


「そっちは?」フランに尋ねると、「こっちも、店の手伝いばっかりだな。こんだけ寒いと屋台や露店は売れるがなり手がいないっぽくて。店の手伝いばっかだよ」


せちが無いねぇと苦笑すると、全くだと返された。

「取り敢えず、今日はセリグさんに鍋用意させたから。特にシャリー、遠慮したらゆるさねぇぞ」と名指しでモブがいうと、シャリーがはいと笑った。


「ちなみに、鍋って何用意したんスか」「あ? 生き残った祝いだからそりゃカニに決まってんだろ」


その瞬間、フランが怖い顔でモブに迫り。モブがウッとなった。


「カニの種類は?」「トッケビのアロングだよ、それがどうかしたか?」


その瞬間、フランは深呼吸しシャリーに言った。


「トッケビは、白みそ鍋が最高に旨いんだ。シャリー」と今までで一番真剣な顔をしていたので響があっこれそうとう好きな奴だと苦笑した。



「トッケビとは奮発したっスねぇ……」「あのなぁ、最後の晩餐があんなしけた飯でたまるかってんだ。皆で生き残ったんだ、と言っても一匹しか用意出来なかったがな」


「トッケビはデカいから十分だろ」「いや、好きならもうちょい用意するんだったってちょっと後悔してるよ」


「お義母さん、トッケビってそんなに美味しいの?」「シャリーは食べた事が無いのか?、もったいねぇ。人生の半分ぐらいは損してるぞ、そりゃ」



(相当好きだなありゃ)

(相当好きっスね)


顔を見合わせて、無言で頷く。


「カニの中でも見た目は最低だし、鍋に収まらない位デカいから足を折って入れるのが普通だがトッケビは最高の出汁が出るんだ……」等とシャリーに説明を始めてしまうフラン。それを聞く度、眼を輝かせて。楽しみ♪を連発して、更にご機嫌になる。



(俺も響もミックスが好きなんですとか言えねぇ)



こっそり、モブが部屋をでてセリグの所に行こうとするとフランに止められた。


「どこへ?」「いや、セリグさんのとこへ様子見にな……。こんだけクルーが楽しみにしてくれるとあっちゃ俺としては、様子見ぐらいしておきたいじゃねぇか」



フランが口を吊り上げて、モブの肩をポンポン二回叩いて「頼む」とだけいった。



(目がクソこぇぇって、こりゃ早いとこ白みそに変えてもらわねぇとな)



その夜、白みその鍋は仲間達の心を温めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る