第百二十一話 寒空の下で
「こっちにビール三つッス」
「は~い」
結局、響とシャリーはビアガーデンの手伝いをしていた。
酔っ払いがシャリーに変な事をしようとすると、怖いお義母さんが後ろからやってくるため流石の酔っ払いもお肉と酒を楽しむだけに留まる。
(あんな怖い見張りがいるのに、ちょっかいかける度胸はないッスよね)
あの怖い見張りは、プロミネンスぶった斬って強化兵や艦の砲撃も斬撃で逸らすとかいっても自分が聞いたってハッタリだろと思うけどマジ何すよね……。
肉を焼きながら、壁に背を預けているフランをチラ見する。
「娘の初仕事だから、心配だからみてる……ね」その横で、店長も笑ってそれを許可した。
響とシャリーがビアガーデンで働いて、フランは酒を口にして。
「あぁやって、人は大きくなっていくのかね……」
フランは、ふと夜空を見上げると星空が瞬いていた。
寒い空の下、星が見えるのは空気が澄んでいる証拠だ。
「あそこから飛んできて、見慣れた景色なはずなのに。どうして、地上から見る星は美しいのか……。まるで、夢や希望みたいだ」
その呟きを聞いていた響が「フランさんがキモイ詩人みたいな事言ってるッス」というと無言で頭を殴られた。
「おう、シャリーちゃんと響さん。賄いだ!」
そういって、店長が差し出すビアガーデンの詰め物がのった皿には旨そうな肉汁と油がたっぷりだった。
「ありがてぇッス! シャリーちゃん食べよ食べよ」
休憩の為一度店を閉め、店長も今日の稼ぎが良くホクホクしながら笑顔で賄いを出していた。
「やっぱ綺麗な子がウェイトレスやってくれると違うねぇ! 後、カッコいいお兄さんも今回は大当たりだわ~」と嬉しそうに話す。
酒は仕事中なので、ココナッツミルクを飲みながらがつがつと食べる響に若干呆れ顔のフラン。
(あいつも、あれが無きゃな)
調子が狂う位軽いノリで、ピンチの時でも悪ノリしてるような会話をしていた二人を思い出しどうしてか口元を吊り上げて笑う。
(前に比べりゃ、シャリーも脅えなくなった)
この前なんか大ピンチの連続だってのに、お義母さん二人を助けてあげてって、震えなくなったし笑顔も増えた。
(いい事だ、あれだけ優しい気立てのいい子なら傭兵はやらない方がいい)
艦族も褒められた職業じゃないが、それでもどっちかしか選べないのなら。艦族の方がナンボかマシってもんだ。
にしても…………、ナイトメア艦の見た目は相変わらず慣れねぇな。
気持ち悪いにも程がある、酔っ払い共の下賤な眼差しみてぇだ。
(本人がやりたいっていうんだから、体験がてらやらせては見たが良く働く)
笑顔を振りまいて、後半もしっかり働くシャリーを見ながら思う。
そんなフランに、店長が声をかける。「アンタ、あの子の父親かい?。良く働く、うちの息子にも見習ってほしいもんだ」
フランが、苦笑しながら店長に答えた。
「俺は、母親なんだがな……」その言葉に眼を見開いて「失敬、こんな綺麗な男がいるわきゃないわな。演劇じゃあるまいし」「気にしてない、それより見学したいなんて無理いって悪いな」
母親なら余計に心配だろ、構わねぇよと店長がトングをカチカチとやった。
「今日は冷えるな、酒の御代わりもらえるかい?」「こっちは商売なんだ、金さえもらえりゃ構わねぇぜ?」
店長に金を手渡して、店長は素早く木樽から酒をついだ。
「いい酒だ」「うちの売りは肉の方なんだがな……」
「そうだ、うちの息子がデカくなってもう使わなくなっちまったからこれやるよ」
そういって、やけに近未来的なデザインの「パズルかこれ」「あぁ、俺も爺さんからもらったんだが終ぞ解けた事はねぇんだが」そういって店長が頭をかく。
フランも呆れて、なんだそりゃそれじゃ本当にパズルかどうかも判らねぇじゃねぇかと苦笑した。
「俺は爺さんに、パズルの土産っていってもらったもんだからさ」「いいのかよ」「いいんだよ、息子も俺も解けた事はねぇしな」「ありがとよ」
それだけ言うと、フランは片手で受け取りそれをポケットにいれた。
「お義母さん~、仕事終わったからギルド寄ってかえろ~♪」
「色々ありがとな、店長」「次も見張る気なら、肉食ってってくれよ!」「見張るのをダメとは言わないんだな」「そりゃ、そんだけ飲んでってくれりゃ。下手な客よりお客様だぜ」空になった、ジョッキをちらりと見た店長が苦笑いで言った。
「足でるんじゃないのかい?」「いいんだよ、娘にゃ自由に職業体験してもらって。自分が納得した職業で、働いてもらいたいしな」「いい母親だねぇ~」「そうかい?」
それだけいうと、片手しかない手でシャリーと手を繋いで帰っていく。
「それだけの事をしてやれる母親ってなぁ、案外いないもんなんだぜ……」
店長が屋台を片付け始めながらふと、自分も息子にそれだけの事はしてやれてねぇなと溜息をついた。
フランは、しばらくもらったパズルの事を酒のせいもあってしばらく忘れていた。
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