第百二十二話 湾曲
一方、アラネアと連絡を取りつつ、プレクスでコックをしているセリグ。
フェティもセリグのお手伝いをしたり、買い物をしたりして過ごしていた。
シャリーと響が良い職場に巡り合えたらしく、フランは見張りでずっとそっちに行っていた。モブは、毎日コツコツと修理を繰り返していく。
吹雪く日や寒い日には、プレクス内で部品を作り。晴れた日や暖かい日に、組み込んでいく。少なくとも、外側は完全に修復が完了し。明日からは、作業で外に出なくて済むと胸を撫でおろしていた。
「ただいまッス」「おう、おかえり」
「修理の進捗はどうっスか」「外は塞がった、後は内部だけだな」
「じゃ外に出なくて良くなったッスか」「おう、外出るのは嫌だったしさ。なるはやで外塞いだわ」
「こっちは大繁盛っスよ……」がっくり肩を落とす響に、シャリーが苦笑しながら「お兄さん、大人気だったよ」とモブに報告する。
「シャリーも、響もご苦労様。部屋行って、温まってくれ」親指で中を指した。
ちらりと、温度計を確認すれば今日の外は五度を指していた。
一緒に居たフランも三人で奥の部屋に入っていくのを見届けて、早いとこ俺も修理終わらせて働かねぇと。
大半はジャンクから部品を作っているが、どうしても作れないものや燃料や食料などはどうやっても買わなければならない。
(宿代わりの艦があるだけマシか~)
こんな、田舎の安宿なんて泊ったら暖房がついてるかも怪しいし。最悪は薄い毛布一枚なんて事もありえる。
(いつか、エアコンを外でも利く様にしてぇな)
モブがそんな事を思っていたら、シャリーがこっちを急に振り返った。
「ん? どうしたよ」「あのね、お兄さん。やっぱりこの艦温かい♪」
「あぁ、俺が寒いの苦手だしな」「そういう事じゃないんだけど」
意味が判らないと首を傾げるモブに、シャリーがしょうがないお兄さんと苦笑して奥へいってしまう。
それを見ていたフランが無言で、笑いをかみ殺しながらモブの肩を叩いて一緒に奥へ消えていく。
そこへ、セリグがやってきてモブに話しかけた。
「艦長、夕食出来ましたよ。ちなみに今日は、カリカリにしたベーコンに温玉とサラダです」「あぁ、毎日ありがとな」「いいえ、これが私の仕事ですので」そうやってキッチンから奥の部屋へ運ぼうとするセリグに、モブも俺も手伝うわと一緒に料理を運んだ。
「フェティちゃんは、調子どうだい?」「買い物などを、良く手伝ってくれています」
「そうかい、すまねぇな」モブがそういうと、セリグは肩を震わせて笑う。
「貴方みたいな、艦長は初めてです」「こちとら艦族だ、基本的にアウトロー。常識に収まる奴の方が少ねぇだろ?」
セリグは、そうですねと言った後。「私が見た中では最高ですけど、確かに常識には収まりませんね」と答える。
料理をセリグと一緒に運ぶと、奥の部屋に全員集合していた。
「あ~ぬくい」「今だけは、艦長の寒がりにマジで感謝しかないっス」そう言いながら全員がプレクス内の掘りごたつで足を延ばして温まっていた。
全員で入れる様に、大きめにモブが作った掘りごたつ。
そのテーブル部分に料理が並ぶと、みんなの眼が輝く。
温玉はシャリーが、サラダはフェティが、ベーコンは響が、ガン見レベルで熱い視線を送っていた。それぞれの好物だからだ。
モブも料理を置いた後、空いた席に座ると手を突っ込んで「おぉ~、温い温い」なんてやっていた。
まるで猫が体を丸めて顎をテーブルにつけている様に見え、シャリーがくすりと笑った。
「モブお兄さん、ごはんたべよ?」シャリーが、モブの分をそっと押すとモブがまだ手を出したくないけど自分が持ってきた手前受け取らない訳にもいかず。
もそもそと、中にしまっていた手をだして受け取ると「食うか」とだけ言って食べ始める。食べ始めると勢いがつく様で、うめ~うめ~言いながら食べているのを見ると全員がふんわりした笑みを浮かべていた。
「艦長、この先どうするんすか?」「取り敢えず、プレクスなおす。直したら、この星で俺も働く」「じゃ、しばらくはプレクス暮らしっスね」「あぁ、明日は各部屋に悪いけど入るぞ見られて困るもんあったらどけるなり金庫入れといてくれ」暖房切れたらことだからな。
「判ったわ」「判ったよ」「うっス」「かしこまりました」それぞれの返事が返ってくる。
各部屋のエアコンや各種酸素気圧などの通気口は全部屋入り口の横、それでも中に入らなきゃならないから一応通達するモブ。
「にしても、このプレクスのエアコンはすげぇな」「どういう事っスか?」「そうか、響は知らねぇのか。普通の艦のエアコンって惑星止まってる時には利くんだけど、プレクスは宇宙にいてもデジタルで設定した温度になるよな?」「最大三十八度設定まであるッス、下は二十度位まで下がるッスね」「プロミネンスの近くでも、宇宙で扉開けててもドアの通気口の近くでは殆ど温度が変わらなかったぜ?」「そりゃ、艦長がそう作ったッスからね」「俺寒いの苦手でさ、宇宙だと太陽みたいな星が近くなきゃ冷えるだろ?。だから、推進機の水でもそうだけど俺達が困る所は重点的に作ってあるんだよ」
他は、かなりハリボテっスけどねと響が苦笑した。
「お兄さん、ハリボテって……」くすくすと笑うシャリーに、いやマジマジと机に顎をのせたまま目を細めていうモブ。
「このコタツも、響がパッチワークでごまかして。適当なワタ洗って入れただけのコタツ布団だし。机部分も木クズボンドで圧縮圧着してくっつけて削りだしただけだしなぁ」
それでも、顎と飯のせるぐらいはできるんだけどと苦笑した。
いつの間にか、ご飯を食べ終わって眠ってしまったモブを見て。夕食後に音を立てずかたずけながら小声で順番にお疲れ様といってコタツの部屋から出ていく。
この後、セリグの連絡が墓穴を掘る事になる。
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