第五十話 開戦
横向きの火柱に、今さっきまで話していた老人が骨も残らず消えたのを爆音と爆風の中で見てしまった。モブと響が口をあんぐりあけて、棒立ちになってしまった。
けたたましい程の警報音が鳴り響き、フランがシャリーを抱きかかえてこっちに戻ってくる所だった。
「おい! やべぇぞ!!」フランのその表情に歴戦の逃走メンズも悟って走り出そうとした。「いきなり警告なしで大量にワープアウトして来てんぞっ!」「デメテルの国の皆さんには礼儀とかプライドとかないんですかねぇ?!」
シャリーがフランにしがみつき、フランも隻腕でシャリーを必死に抱えながらプレクスまで走る。
「おい、響。改造は無しだ、推進機全力始動っ! 買い出しもできてねぇが命にはかえられねぇぞ」「ガッテンッス!」そこへ、ハンドレーザーが幾つも飛んできた。
「おい、響ッ!!」自分の周りを通過したハンドレーザーが地面や壁を穿つ。
そこへ、響の周りにハチの巣状の薄い水色の壁が突如現れオレンジ色のハンドレーザーを空中に弾き飛ばした。
「響様、緊急事態によりアンリクレズは虚数湾曲にて対処致しました」
「ナイス!、フランさんとシャリーちゃんと艦長にも同じ奴頼むッス」
「委細承知致しました」その言葉と同時に、同じ様なシールドがドーム状にモブとフランにも浮かび上がる。
爆炎と泣き叫ぶ声が、あちこちから聞こえてくる。
「くそぉ、無茶苦茶やりやがるっ!」「アンリクレズさんっ! 全員守る事は出来ないッスか!!」
「申し訳ございません、アンリクレズの今の力では他に三人以上は湾曲フィールドを貼る事ができません」
響が拳を握りしめながら、「判ったッス、無茶いってすまないッス」と奥歯を噛みしめるが「お役に立てない、道具をお許しくださいマスター」と丁寧な謝罪が返って来た。
フランがシャリーをモブに向かって投げ、モブが両手でがっちりふらつきながらシャリーをプレクスのハッチ上でキャッチ。「ひびきぃぃぃぃ! 後、どれ位で出せる!!」
「もう、火は入ってるッス。推進機一個で飛ぶ前提なら残り二分ッス!」
フランは腰のレーザーソードを抜くと、「ハッチあけたまま上昇してくれ、俺がしんがりをやる!!」と叫んだ。
「響、そのまま上がれ!」そういうと、モブもフランの隣に飛び降りた。
「何で、来たんだ艦長」「あれ見ろっ、セリグさんがフェティちゃん抱えてこっち戻ってきてる!」
よく見れば、セリグが血だらけで執事服があちこち穴だらけになりながらもプレクスに走って来てるのがフランにも見えた。
「アンリクレズさん、セリグさんに湾曲フィールドを頼むッス!」
コクピットから、それを見た響も叫ぶ。
「畏まりました、マスター響」
「セリグさん、もう少しだ!」フランが湾曲フィールドが間に合うようにレーザーソードでモブと自分とセリグに飛んでくるハンドレーザーを弾き飛ばす。
プレクスが徐々に高さを上げ始め、セリグが昇降ハッチの階段に飛び乗るとモブも階段の一番下にぶら下がる形でギリギリ飛び乗った。
セリグは、フェティを艦内にいれるとすぐ戻ってきて風にはためく旗の様になっているモブを力任せに引き上げ。
「全員乗ったか?」と確認する頃には声が聞こえるギリギリの高さまでプレクスが上昇していた。
「おい、フラン。後はおめーだけだ、早く来い!」とモブが叫ぶと建物のがれきを三角飛びしながら昇降ハッチの一番下にさっきモブがつかまっていた様にぶら下がる。
「悪い、あげてくれ。隻腕だった事忘れてた」とフランが言いセリグとモブが「とちったな」と笑いながら艦にあげてくれた。
「昇降ハッチしまうッス、取り合ず艦内に入って欲しいッス」響の声が聞こえて、セリグとモブとフランが最後の力を振り絞って艦内に入ると三人とも大の字で倒れた。
ひゅーひゅーと、三人の息切れの声だけがしばらく続く。
そして、モブが「説明してくれ、セリグさん何があったんだ」とぼやいた。
ごほごほっと言いながらぽつぽつと、「はい、すいません。実は、中央区までフェティお嬢様を連れて行ったのですが。そこで、レジスタンスというか反政府軍にやられまして」
「面目ありませんが、逃がしては貰えませんでしょうか」とセリグに言われ「もう乗せちまったしツケでならいいぜ。ただ、今この船には食料は積む前に飛んじまってインスタントしかない。それでいいかい?」
セリグは笑って、「もちろんです」と答えると再び大の字で倒れ。
「老体にあの距離のダッシュは、三途の川が見えましたよ」と言った。
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