第百四十六話 異次元の精度
大きくプレクスが傾いて揺れ、全員が色んな所に体や頭をぶつけモブが叫ぶ。
「おい、クレズ何があった!」「索敵外から攻撃を受けました、エネルギー内容から以前の狙撃改造ラミアムだと思われます」「被害は!」「左翼推進機を一撃で三つ持っていかれました、一番外の推進機に着弾。破片で内側に二次被害です。現在壊れた推進機を虚数空間に収納。他の推進機のフォーメーションを変える事で対応しています」
少し前に、不時着した際。虚数空間の保管庫にケーブルを保管庫内部で通す事でアンリクレズがコントロール。物理的に繋いだり切ったりできる機構を実数空間からある程度可能な範囲で排除した事が功をそうした。
「最高速度は落ちるけど、全部やられてないなら飛び続ける事は可能ッス」
「クレズの索敵外って事は、以前よりももっと遠い位置から撃ってきてるって事かよ!」
全く、敵ながら本当やべぇなそれと苦笑し。「方角は判るか」「演算結果によると左翼前方十時と十一時方向の間からかと」
十二を真正面としたときの方角で、アンリクレズが説明した。
「響様、艦長ご指示をお願いします」「俺がコクピット行くまで適当、右側に見える隕石群の中に飛び込んで飛ばしとけ」「承知しました」「暇じゃなくなってよかったじゃないっスか」「嫌味で言ってんのかそりゃ」
それだけ言うと、セリグに後片付け頼むわと言って飛び出して行った。
「普通の艦は、機関部やられたら飛べなくなるんです。本当にこのプレクスは生き残る事に特化した艦だ」
そういって、言われた通りにキッチンに二人が置いて行った皿やカップを片付けるべく。丁寧に抱えると、ふと考え込む。
「それにしても、クレズさんの索敵外からの攻撃なんて。そんな事を成功させる人物……、まさか!」はっとセリグが青ざめる。
自分が連絡を取っているのは、かつて自分の部下だったアラネアだけ。
「いやいや……、そんな筈ありません」首を横にふるセリグ。
(明確な証拠がでるまでは、俺の心に留めて置きましょう)
少し前に会ったアラネアは、あの時のままじゃなかったですか。
そんなハズはない、そんなハズは…………。
「だが、もし遺産に他者を洗脳できるような代物があったとしたらどうか……」
それだと、かつてのデメテル軍は全て人間としてはもう生きていない事になる。
「すいません、クレズ様おられますか?」「はい、セリグ殿」「遺産に人を洗脳できるものはありますか?」「ありません、その力を持って狂う例は数多ありますが。他者を自在に操る様なものは存在いたしません。それが、どうかされましたか?」「いえ、ならいいんです。失礼しました」「そうですか、また何かあればお声がけ下さい」「ありがとうございます」
(ライブラリを持つ、今のクレズ様が無いと断じるのなら無いのでしょう。ただ、その力で人が狂う事はある……ですか。確かに、使っている響さんや艦長も文句言ってましたからね。なんてものを残しやがるんだと)
「信じていますよ、貴女の事を」セリグはそう呟くと、片付けを再開する。
一方で、ぜーぜー言いながら当人は走ってるつもりでも。今だコクピットまでナメクジの様な速度で走ってる二人が居た。
「運動不足っすよ……」「だな、このピンチを乗り越えたらおれ痩せるんだ」
そんな事をいうオッサン二人がとても短い筈のコクピットまでの廊下を進んでたどり着くと、もうすでにシャリーは自分の席に座っていて。その椅子の後ろで、かなり怒っているフランが青筋を浮かべながら笑っていた。
「早く指示を出せ」フランが凄んでいる間に、響がこっそりと自分の席に座ってベルトをしめた。
「今、クレズに指示を出して。近くの星っつーか岩の沢山ある流星群みたいな所に飛び込んでもらったトコだ。相手はスナイパー、なら障害物が一杯あった方が対処もしやすい」
それを聞いて、少しヒートアップが下がって来たフランが艦長に続きを催促。顎をしゃくりながら「それで?」と凄む。
「推進機を三つやられたから、最高速は落ちてる。だが、現在はいつも通り他の推進機を動かして対応した。後は、敵さんの出方次第だが。前みたいに引いてくれるなら、こっちも助かる」「引かなかった場合は?」「敵の懐まで、突っ走るしかねぇだろ。最高速が落ちてても狙撃強化兵に追いつけねぇ程プレクスはのろまじゃねぇ」
モブのその言葉を聞くと、はぁ~~~と息を吐きだしながら「ようするに相手の出方待ちなんだな」と最終確認をするフランにモブがゆっくりと頷いた。
「大体判った、今プレクス飛ばしてるのはクレズなんだな」「あぁ」「しかし、統合したパーツ揃えてこんなに能力が跳ね上がるとはね……」
「申し訳ありません、フラン。索敵範囲外からの攻撃に対処できませんでした」
「咎めてない、自動運転に頼りきりでのどかにコーヒー飲んでたこいつらの方が余程咎められてしかるべきだ」
うっと、胸を押さえる響とモブ。
「クレズ、敵の位置は今掴めているのか?」「はい、艦長の指示通り右側の流星群につっこみ、障害物を利用しつつ敵が補足出来る位置まで移動し。現在は様子見しながら、流星群の中を移動中です」「判った、精々ぶつけない様にしてくれ」「かしこまりました」
「多少ぶつけても修理するのはこいつだから、構わねぇぞ」とモブを指さしながら冗談を飛ばすもアンリクレズは取り合わない。
「艦長、敵影移動を開始。追従しますか?」「頼む」それだけ言うと、プレクスは後をつける様に岩の群れの中を進んでいった。
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