第百四十五話 世話焼き
「響様、コーヒーがはいりました」クレズがそっとカップを差し出すと、「ありがとうっス」とそれを受け取る。
ウマい……っていうか、クレズさんはあれからセリグさんの手伝いもこうして飲み物を入れてくれることも。プレクスの演算制御も全てをおこなっているだけでなく、響の肩等も揉んでくれていた。
「至れり尽くせりってか」「ダメになりそうっス」
「後は、ご指定のデーターベースよりのライブラリの六百番~七百番の資料です」そういって中空に板が浮き、それはまるでタブレットの様に操作できた。
響様はやや濃いめに、艦長はかなり薄めにいれるのが好き。
アンリクレズはとにかく、洗濯物や掃除に至るまで学習を繰り返すうちにほぼ何でもできるようになっていた。
「おーい、クレズ! 訓練の相手をしてくれ」フランが呼べば幻影を創り出し、実態が無いとは言えフランの剣術すらマスターし完全に互角以上に渡り合えるまでとなった。
もちろん、響の世話を焼き。プレクスを制御し、訓練を同時におこなってラグ一つ起こさないのである。
「なぁ、響」「なんとなく、言いたい事は判るっすよ……」
響の横でアンリクレズが微笑みながら、首を傾げている。
「あれが機械の人形で、作り物だったとしても。俺は羨ましくてしょうがねぇんだが?」「逆だったら、俺も艦長の事恨んでるッス。気持ちは凄く判るッス」
アンリクレズの学習能力は異次元に良く、大体のモノは一日あれば十全に使いこなす程にマスターしているのである。当然、響の操作技術も。モブの運転技術も、とにかく片端から出来る様になる程優れてはいるのだが。
「博士はなんで、あれを一機しか作らなかったのか。せめて二機あれば、俺も探そうかなって気になるんだが」「夢があるっスよね……、絶対裏切らない。絶対に先立たない、やたら応用範囲の広く。あらゆる事を学習してマスターし使いこなすAI」
「最初なんか、背中流そうとしてきたッスからね。止めたけど」
「どうしてもってんなら、俺は構わねぇよ?」
「艦長、冗談でもそう言う事言うもんじゃないっス」
二人は温かい飲み物を飲みながら、二人して鍋の残りをつついていた。
それを片付けようとすると、またアンリクレズがもっていって洗い物を始めてしまう。
仕事を奪われたセリグも、モブと響の所へやってきて苦笑しながら座った。
フェティとシャリーは二人とも、楽しく歓談しているので必然男三人が掘りごたつに座る形になったのだが……。
「響さん……、俺の仕事取られちゃいましたよ」「うっス、すまねぇッス」
怒ってるわけじゃありません。むしろ俺も攫われた時の為に、フランさんと一緒に鍛えるべきですかねと笑った。「お任せするッス、取り敢えず自動運転の精度もかなりあがってるんで。判断に困る場面でもない限り、ずっとライブラリ見てくっちゃねする以外やる事が無い俺らよりはずっとマシッス」
そう、あれからずっとライブラリを読んでいるか。食っちゃ寝するかしかやる事が無い二人はもはや艦内でニートしている様な有様だった。
「宇宙生物や隕石群等を見かけた時だけ、指示を出して後は自動運転で済む程精度があがるとは……。あんまりだから時々コクピット座ってるけど、それしなかったら感覚ごとどっか行きそうだわ」
そういって、三人は溜息をついた。
「そういや、響。システムの改修どうなってる?」「そっちは、すこぶる順調っスよ」
旧式の筆記具で書いた、構想のメモをモブに渡す。
「俺の方も今までブラックボックスをカンで繋いでた所を、随分整理整頓できた」
ほれといって響に、プレクスの機体がどうなっているかの設計や設定のメモ書きを渡しお互いがそれを確認しながら眼を通す。
「俺ら今これしかやる事がないとはいえ、随分頑張ったじゃないっスか」
「お前もな……、一人でやる仕事じゃないぜこれ」
(この二人は本当に、お互いを信頼しているのですね。プレクスが強いのは艦の性能だけじゃなく、クルーの信頼があってお互いがお互いの弱点を潰し合うからでしょう)
そこへ、アンリクレズがやってきて「響様、このペースで飛び続ければ一週間で目的地です」「特に問題がなければ、このまま急がず通常運行で頼むッス」「かしこまりました」
「一週間はなげぇな」「急いだら直ぐつくッスけど、改修や修理した後でフル稼働なんて怖くてやるのはアホかピンチの時だけっス」
ピンチなんてあって欲しくないっスけどねと響が苦笑した瞬間、明らかな攻撃がプレクスの左翼の推進機を一撃で三つ撃ち抜いてプレクスの体勢が大きく傾いた。
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