第百四十四話 巨艦に咲く漢華

「また、逃げられたのねぇん」シナをつくりながら薄ら笑いを浮かべるジェーンに対し、ナラシンハの乗組員たちが全員で土下座していた。


奴隷室をやられ、こっちに人間を送り込んで暴れて回収。

強化兵の傭兵と、ナイトメア式サイボーグを、ナイトメア艦の中で戦って生き残る……。

「申し訳ありません!」「言い訳はしなくていいわよぉ」平謝りする部下に、薄ら笑いを浮かべたまま足を組みなおした。



ナイトメア式の艦の中に人間送り込んで回収する事もそうだけど、そりゃナイトメア式サイボーグと戦える人間なんてものが存在していればの話。


「傭兵フラン……、思った以上ねぇ」まさか生身で、サイボーグと戦えるだけでも中々いるもんじゃないのに。ナイトメア艦の中でナイトメア式サイボーグと戦えるともなれば、ましてやこのフランは片腕。両手なら、勝ち切られてた可能性すらある。


艦もそうだけど、乗組員もパないわねぇと内心苦笑した。


「その使えないゴミ達は、ドレットクイーンの窯にでもほおりこんで頂戴」


はっと言うと、周りの部下が回収しようとするがただで殺されては叶わないと反旗を翻そうと武器を全員が武器を構え。ジェーンを狙うが、ジェーンが指で腕置きを指でトンとやると床に真っ暗な穴があいて落ちていく、優秀でない縁を掴めなかった何の失態もしていない部下と一緒に……。



「精々、その命をこのドレットクイーンの為に捧げなさい」

黒い穴からは、まるでけして逃れられないトラウマを呼び起されるような悲鳴があちこちからあがる。「ナイトメア艦は、絶望が力になるの」


(私はその力だけを使い、その絶望は誰かに押し付けるわよぉ)


病院を襲撃して、一度はセリグをつかまえたってのにフェティは捕まえられず。あの、小型艦に奪還された。「速い速いとは思っていたけど、奴隷を三部屋分も積んでるナラシンハに追いついて奪還して逃げ切るとか。ちょっと異常よぉ」


映像をもう一度見直すと場所が宇宙なのに、こちらの攻撃を浴びながらまるでドリフトでもしている様な横滑りのままそれらの攻撃を躱しつつ、さっき部下が黒い穴に落ちた様に小型艦がドリフトしたままの体勢から立ち上がらず。そのままワープしていた。



今までの情報を総合して判った事は、この小型艦の乗組員が全員私とは違ったベクトルで壊れてんのよ。それと、遺産の力は恐らく空間系。そうでなければ、ワープ直前で命中したはずのこっちの攻撃がすり抜けてるのはおかしいわ。


それが出来るなら、常時そうしておけばいい。だが、アラネアの時でもそうだがこの艦は限界ギリギリまでその遺産を使っていない。


回数制限?出力制限?どちらにしても、縛りを割り出さないとね。これだけの性能で、ノーデメリットは無いでしょうし……。


二度の誘拐も、襲撃も失敗。これだけ探して、不正にデーターベースハックしてなきゃ病院に居る事も判らなかった位。


要するに、索敵能力もずば抜けて高い。悔しいけど、私達のドレットクイーンの索敵より広い可能性がある。あくまで私たちの場合は、攻撃範囲がそのまま索敵範囲といっていいし。連邦艦や軍艦と比べたら三倍は索敵範囲があるはずなのだけど、嫉妬しちゃう。



アラネアの事がバレたらいよいよ、追いかけるのも難しい。


「ふぅ……、難題ねぇ」そんな言葉が口をつく。



ナラシンハは手元にあるカードの中でも、中位レベル。

最高速はそれを僅かに越え、人力で遺産を跳ね返す。


「神威のボーヤ……、この宇宙で遺産を持たないアナタはただのモルモット。アナタの国の国民は全て私のナイトメア艦の燃料になるの。命の油田ってとこね、精々搾り尽くして散々搾取した後で、窯にぶち込んで燃えてもらおうじゃない」


自身の部下の命すら何とも思っていないジェーンが、薄ら笑いを浮かべほくそ笑む。


(麻薬? 異性のトラップ? 権力がなんだっていうの?)


どれも違う、この宇宙でもっとも強いのは他者の怨嗟と絶望よ。人生ごと奪いつくして、その尊厳すら投げ捨てさせ、死ぬ事すらナイトメアのエサにする。



その力で、新たな家畜を手に入れる。

自分以外の人間なんて家畜よ……。



ヴァレリアス博士が何故、ナイトメア系の全てを壊そうとしたか。

時の権力者たちは、何故セブンスからナイトメア系のものを隠して自分達だけが使おうとしたのか。この犯罪者ギルドのオカマを見れば一目瞭然。力にとりつかれた人間が他者の人生ごと奪おうとするのが世の理ならば、それに抗う力無きものが化け物の糧となっていく。


それが、怪物や悪魔の正体。古今東西、人は何故か美しく描かれる。


博士が何故、AIにたった一人の人間を愛するプログラムを組み込んだのか。

博士は、人を信じた。人の可能性を信じた、人の未来を信じた、人が善意を機械に学ばせ続ければ必ず機械はそれに応える。


もしも、博士の想いとは裏腹に悪意と絶望を生み出す化け物にこのAIが渡っていたなら。きっと機械の邪神が出来あがり、それは誰も勝つ事ができなくて。


あらゆる抵抗を無意味とし、等しく滅びを振りまいた事だろう。

博士がその機械に与えた力は、それ程に強大なのだから。


その事実は、その機械すらまだ知らない。

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