第百四十三話 結束
不時着したマレサイトで、ライブラリを毎日貪るように読んでいたモブと響が言った。
「やっぱ、俺達が欲しいのは女神や錬金塔っスよ」「そうだな、どういうものかはライブラリにあったがどこに隠したは書いてねぇ……」
お互いに机に突っ伏すと、欲しいなぁと呟く。
「お兄さん、私は女神が欲しい」「手に入れたって、エネルギーの制限がきつ過ぎるんだよ。女神もギャラルもな。だから、手に入るなら錬金塔が先に欲しい」
あっという顔になるシャリーに、モブが説明する。
錬金塔のヤベェ所は、その変換効率となんでも変換できることにある。
文字通り、錬金なのだ。
「理論も設計もライブラリにあったッスけど、あれ考えた奴は変態ッスよ」
「間違いねぇ、それも超ド級の変態だ」
泥人形の水着の皴を再現するのに、ビニール袋切って広げて張り付けて皴を再現するような考え方でロジックを組まないとあぁはならねぇ。
「ノーマルだったり、常識にとらわれてるやつにゃ逆立ちしたって出て来ねぇ理論だろあれは」「実物が欲しいっス」「全くだ」
クレズは、響が自身であるセブンスのパーツを絶賛しているのを聞いていて嬉しそうにしていた。どうも、この本体を手に入れてからのアンリクレズは表情豊かに響によりそっているのである。尋ねたなら「相棒である事を望まれましたので、鋭意学習中です」との返事がかえってきた。
「俺、自信無くしそうっスよ」「バカいえ、お前は間違いなく天才だ。ただ、歴史に名をとどろかせるヴァレリアス博士はもっとヤバかったってだけだ」
そうっスよね、ライブラリを開けた時の俺達は余りの凄さにぶっ倒れるまで読んでたっスからと苦笑する。
「お前が艦族一の天才なら、向こうは宇宙一の天才だ。ただな、俺みたいなアホに付き合ってくれるって意味じゃ俺にとってはお前の方が何倍もいい」
「僭越ながら、私も響様の方がいいです」「ありがとうっス、クレズさん、艦長」
「それにしても、このライブラリはマジの時間食い虫っスよ」
「読み終わるまで、この星にいたら物資がなくなって俺達はミイラだろうな」
「それ、洒落にならねーッス」
「技術者なら誰でも読みたいと思うぜ、なんせ今まで不明だった事の答えがほぼ全てのってるといっていい」
「これ、今俺のなんスよね?」「はい、間違いなく響様が所持しております」
今追われてるのが片付いたら、どっかで腰据えて読みてぇなとモブが言うと響もそりゃいいっスねと笑う。クレズは、本当に響が知識や技術が好きなんだと思うと嬉しくなった。
映画より、漫画より、小説より、ライブラリが今は最高の娯楽になった。
シャリーもフェティと一緒に勉強していたり、遊んだりする以外はライブラリをのぞいている。
ロストテクノロジーとは何か、博士は何を思ってたのか。
(クレズ、やっぱお前疎まれてなかったよ)
アンリクレズが生まれてきた理由は、やはりロストテクノロジーの殲滅だった。
博士は変態ではあるが、自分の娘を愛せないゴミ屑ではなかった。
全てのヴァレリアス系の発明品は我が子同然だと、ちゃんと日記に残ってやがった。
てめぇの発明品が書いてあるはずなのに、読んでた印象は母子手帳かよだからな。
ご丁寧に、アンリクレズはマスターの許可が無ければその日記を読むことはできない。
自分の所持している書物の中に、博士の苦悩も絶望も全てが記されていた。
響はそれを見て、ことさら手が白くなるまで左拳を握りしめてた。
それを横から覗き込んだ俺は、そっと右手を出してこう言ったんだ。
「俺達に出来る事をやって、クソ共と戦おう」
それを見ていたアンリクレズが、俺と響がガッチリ握手した手の上にそっと手をのせ。
無言でじっと響の方を見て微笑む、その上にフランとシャリーが手を置いた。
「水くせぇ奴らだな」「私もいるわ」その上にフェティが微笑みながらそっと手を置いて。おやつを運んできたセリグも、そっとおやつのお盆をテーブルの上に置くと、フェティの手の上に手を添えた。
「錬金塔を探すぞ」「うっス」「うん」「だな」モブがそう真剣な顔でいい、響が頷いて。フェティが何度も頷いて、フランがそれで行こうという気持ちを表現。
セリグとフェティが顔を見合わせ、ゆっくりと頷いた。
「それと、フラン。もし、セブンスの残り全てが手に入ったら。お前が使ってくれ、これは響と相談して決めた事だ。白兵戦では、お前が要だ」そういって、モブが真剣な顔でフランを見た。「俺は傭兵だぜ?艦長さん」「俺達は貧乏なんだよ」「レンタル料分ぐらいはまけとくさ」「クレズ、俺も響もプレクス操るのは宇宙一だと自負するが白兵戦じゃただのオッサンだ。すまねぇな」「すまねぇッス」二人が頭を下げるが、アンリクレズは首を横に振った「それが、マスターの決定であるなら、アンリクレズは持てる力を全て使うのみです」と響の肩にちょこんと座って微笑む。
「それと、セリグさん。フェティちゃん共々オタクら二人にも頼みたい事があるんだ」
「それは俺が可能な事なんでしょうかね」「プレクス降りるまでで構わねぇから、これからもコック頼むわ。もちろん、フェティちゃんもセリグさん手伝ってあげてくれ」
フェティとセリグが顔を一度見合わせた後、ゆっくりと頷いた。
そして、二人は力強く頷く。
「もちろん」「喜んで♪」
「それと、シャリー」モブが残ったシャリーに声をかける。
「はい、艦長」そういわれて一瞬だけ、デレっとするが直ぐに顔を引き締める。
「俺か、響になんかあったらシャリーが指示だせ。これから手分けする事もあるだろう、こっから先はヤバい連中とドンパチやろうって話だ。だから、俺達になんかあったら責任もってフランやセリグやフェティちゃんが生き残れる様にして欲しい」
俺達同様、白兵は戦えないからなと肩を竦めるとシャリーもしっかりと頷いた。
「クレズさん、俺と艦長になんかあったらシャリーちゃん達を頼むッス」
「私が居る限り、響様に万が一などさせませんがご命令とあらば了解致します」
「あの、俺は?」モブが徐に尋ねると、全員が揃ってこんなニュアンスの答えを出した。
艦長は、自分で何とかして……とそれを聞いて。「おいおい……」と苦笑いのままコクピットに座る。
「じゃ次はリズィいって、買い出し&仕事。その後は錬金塔を頑張って探すぞ」
そうして、不時着していたプレクスは宇宙へと戻っていく。
一方その頃、敵さんはというと。
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