第百四十七話 狙撃手の誤算

(何なの! あの小型艦は!!)




超長距離から、具体的には前回の四倍以上は距離を取った位置から狙撃。見事推進機を三つ潰した。そこまでは良かった、だが爆発はおろか引火もせずすぐにこっちに向かって来た。


おまけに、普通の艦なら絶対にやらないであろう流星群の中を川を泳ぐ魚の様に泳ぎながらこっちに向かってきている。


(四倍以上も距離取って即応でこっちに向かってくる事もそうだけど、あの艦は全部の機関部を潰さないと行動不能にもならないって事なの?)


だとしたらかなりマズイ、ただでさえ主砲を弾かれたり。地上からの掃射を振り切って大気圏外まで回避しながら飛ぶ艦の全ての機関部を叩かなければならないとは。


(情報収集が主な任務とは言え、知れば知る程頭が痛くなる)


狙撃は基本的に一撃、一撃で急所をやれないのなら正直な話狙撃で敵を狩るのは厳しい。それはこのナイトメア式の重火器をしょっているラミアムとて同様だ。


私が今回この距離をしくじった事によって、恐らくセリグにも狙撃兵の正体が私だとバレたと考えるべき。


前回狙撃した距離ならば、デメテル軍にはそこそこ狙撃を実行できる兵士はいる。あの男は情に厚い、だからかつての部下だった私を疑う事はまずない。


だが、今回は違う。今回の距離の狙撃を可能にする兵士は、私含めて三人しかいない。それもうち一人はセリグ自身、私自身が狙撃するかもしくは情報をもらしていると言う事でなければ説明がつかない。


「故意か、故意でないかは判別できていないでしょうが。要するに、確実に私が震源地だと申告するようなものなのだ。この距離での狙撃は」


そのリスクを背負って、今回撃ったのに仕留めきれなかった。


あんな小型艦にどれ程の防御機構を組み込んでいるのか、知れば知る程絶望的な難易度に感じる。


かつて不沈と呼ばれた軍艦ですら、情報を精査すれば必ず弱点はある。

だからこそ、リスクを負って集めるのだから。


にしても、三つ潰して尚この速度が出るか……。


「恐ろしい艦が宇宙(そら)にいたものね」


アラネアは即座に離脱を決めたが、その判断は正解だったと言わざる得ない。

今も、あの艦はこっちに向かってきている。このラミアムは狙撃型強化兵、移動はそこまで速くはない。それにしたって……。



「この短時間で、余りにも詰められ過ぎている……」



拠点にしている艦まではまだかなりあるが、敵が流星群の中を泳いでいる状態では狙撃して牽制する事も難しい。


移動をしながら、ラミアムの中でアラネアは考える。

もう一度仕掛けるか、それともこのまま逃げ続けるか。



逃げ続けてもどこかで戦闘になるのなら、こちらに有利なポイントにたどり着きたい。

あの艦唯一のウィークポイントは、戦闘が近距離や白兵戦しかない事。距離を取り続けられるならまだ勝てはしなくても負けはない。


(あの艦にもし長距離攻撃の方法があったならいよいよ手がつけらえないわ)


少なくとも、今までのデータを見る限り長距離の攻撃はない。

だからこそ、私をデータ収集に当てているのだから。



それにしても……、ちらりと追ってくるプレクスを偵察用の浮遊カメラで見ていて思う。

あれだけ隕石群を縫うように飛んで、掠りもぶつけもしないってどういう理屈なのよ。

まるで、狙撃兵の天敵みたいな艦じゃない。


しぶとく、急所が複数あり、足が速く、索敵が広すぎて、移動でどんな雑踏でもぶつけず小回りが利く。



「そんな艦あってたまるものですか、必ず弱点を探り出すわ」


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