第八十五話 すれ違う願い
あの後、何事もなく。プレクスに戻ってきて、フェティにアラネアの無事を報告したセリグは夕飯を作りながらふと今までの事を振り返った。
「こうして、平穏に生きるのも悪くないのですがね」と呟く様に自身に問いかけた。
アラネアさんが無事だったという事は、他の方も無事かもしれないと言う事。それが、セリグには嬉しく思う。
あれから、配達を中心に艦族ギルドに貼りだされている仕事を数回こなしつつ。休みを挟むを繰りかえしていく日々。
フェティも、外の星に出た時は遠慮なくシャリーと一緒に勉強したり遊んだりした。
あれから、プレクスのモブと響の二人はとにかく必死になってセブンスの手がかりを求めている。全艦族の夢、ティアドロップ。
彼らとて、艦族である以上やはりティアドロップを探して旅をしているのだ。
艦を動かすのだってタダじゃないから、仕事をしているだけで。
本当は、今すぐにでも探しに行きたいはずなのだ。
セブンスは、ヴァレリアス博士に疎まれ。ティアドロップとセブンスは同格の光と闇。
そうだとすれば、ティアドロップという存在がどういうモノなのかおぼろげながら予想はつく。
「七つのうち、二つであれ程の性能をしているなら。七つ集めた時、マスターが響さんの様な方でなかったらと思うと恐怖しかありませんね」
幸いセブンスは、マスターを一人しか持てず。仮にマスターを殺せても、セブンスは冬眠状態に入るだけでマスターの権限を強奪は出来ないという事もセリグはアンリクレズから聞く事ができた。
問い乞われれば、それに答えるAI。
(その様な存在は、なるべく誰も知らない方がいいでしょう)
「知らなければ、存在しないのと一緒。だから、セブンスは博士にその存在を消されたのでしょう」
セリグは、調理を続けながら考える。
「どうか、同胞達よ。無事でいて下さい」
そんな、セリグが空に向かって願いを呟いていた頃。
アラネアは、神威と連絡を取っていた。
「神威様、セリグと接触。連絡先を得る事に成功しました」
「そうだ、いきなり距離を詰めると怪しまれるからな。手紙は忘れた頃に書く位で構わない、あくまで手段が確立できてさえいればいい」
「はっ!」
神威は、セリグを一度取り逃がしている。
故に、もっと慎重に事を運ぶ必要があるとして。警戒が薄い元同僚を使っているのだから。あの、小型艦は宇宙でも戦闘機並の機動力があった。考えられない事だが、事実として離陸から空中そして空に至るまで一切の変化なく戦闘機並のドックファイトを演じ、こちらの猛攻を凌ぎきったのだ。
だが、艦はずっと宇宙に居る訳ではない。手紙を受け取るタイミングが判れば、艦が港に居るタイミングが判る。
「残念ながら、艦での勝負は話にならん。我々では逆立ちしたって追いつけん、かといって誘拐も失敗した事から。奴らは、何らかの手段でクルーの居場所を知る手段を持っている。ダミーをあれだけ撒いたのに、本命に真っすぐ向かって来たことからもそれは明らかだ」
アラネアも、誘拐の一部始終を見ていたのだ。それは、理解している。
「神威様、せめてその位置情報をどうやって知る事が出来ているのか。その手段が判らない事にはこちらはどうやっても後手に回ります」
アンリクレズの通信は虚数空間を通しており、実数の傍受は全て無効。だから、神威やアラネアを始め軍部の誰一人としてプレクスがどうやってクルーの位置を割り出しているかを理解できていなかった。もちろん、虚数の通信は虚数に干渉する手段があれば暗号化もへったくれもない生データで通信しているのでもろバレなのだが。肝心の虚数に干渉する技術が今の時代にはロストテクノロジーだということ。
「そうだ、あくまでも心細い逃走兵のフリをして。その手段を聞きだすのだ」
アラネアと神威は知らない、その手段は知った所で遺産でなくば歯が立たない代物である事を。GPSとは違い、虚数空間に繋がってさえいれば距離の減衰もしなければ。通信強度の心配もいらない等という、荒唐無稽な代物であることを。
セリグの思いとは違い、アラネアも神威もフェティを捕える為。
お互いの気持ちは、かけ離れたものだった。
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