第八十四話 雛鳥

「おっ、帰って来たッスね。セリグさんもすみに置けないッスね」と茶化す響に、セリグは苦笑しながら。「過去の部下ですよ、あの方は」と薄い笑みを浮かべた。



「フェティ様、ご不便をおかけして申し訳ありません」と頭を下げるセリグに首を横に振って「いつもありがとうございます」と微笑んだ。



二人が、外向きの演技をせず。プレクスの内部で主従に戻っていて、それを、微笑ましく見ていたモブと響だが。取り敢えず、現状を話し合う為に席に座った。


「フランとセリグさん、それに響。取り敢えず、俺としちゃ二日様子を見て問題ないなら仕事を再開したい」開口一番モブがいうと、フランが手をあげた。


「一日の休みを取るのは定石だから判るとして、もう一日取るのはどうしてだ艦長」


「単純に、心配だからだよ。響なら判ると思うが、ワープ失敗って事はそれだけ変な風にまだ通常空間がねじ曲がってる筈だ。けど、俺たちには一週間も何もせず滞在するだけの金銭的余裕はねぇ。んで、ここは機械惑星だ。下手に無事に飛んでる所なんか見つかった日にゃ……」両手を前に手錠をかけられるのをおどける様にやる。それで、フランはあぁと苦笑しながら納得した。


古今東西、そういう有用な技術を持った個人というのはロクでもない連中に眼をつけられやすい。弾を避ける程度なら、無駄にキャリアが長い艦族だからギリセーフだったとしても。空間のひずみを避ける様に飛ぶというのは、仮にできたとしても空間に干渉する技術や装置がロストテクノロジーである事もあって。


「そりゃ、犯罪をでっち上げられて。そこから先の一生、空間を避けて飛ぶ事をさせられるっスね」


立場の弱いもんの辛いとこッスと響が肩を竦めるも、アンリクレズは「響様、避ける事も空間を正す事もこのアンリクレズには容易い事です」とプレクスに居る面々の頭に響く声で主張する。しかし、響は「それやったら、避けれるだけじゃないから余計マズイっスよ。取り敢えず、やって欲しい時は俺らから頼むッスから」と窘めると「承知しました、響様。いつでも、お声がけ下さい」と答えた。


プレクスの面々が、顔を見合わせ思わず変な顔になった後。全員が響の方を見て、響も何となく居心地が悪く苦笑した。


「今まで、クレズの野郎のおかげで助かったのは事実だが。今の時代じゃ大事だ」モブが言うと「そりゃそうっス、その理論は俺が知りたい位ッス」というとまたもやアンリクレズは「セブンスのライブラリを統合出来れば、ヴァレリアス博士が知りうる全ての知識と情報が保存されていますので。響様の知りたい情報を、好きなだけ閲覧する事が可能になります」


それを聞いて、全員がガバッと先ほどの空間うんぬんの比ではなく驚いて響の方を見た。

響もその重大さに、思わず両手が震え「マジっすか、クレズさん」と確認すると「はい、その中にはティアドロップの設計図も含まれます。セブンスのAIプログラム、詳細な虚数空間干渉能力等アンロック条件以外の全てを閲覧可能になります。もちろん、通常空間への干渉や修正方法なんかも記載があります」



モブがいち早くその情報のヤバさに気がついて「フラン、セリグさん。これは、他言無用だ」というと二人も頷く。


「なんで答えてくれたっスか」「響様が指定した人と、響様本人しか私の声が聞こえる事はありません。セブンスはマスターの為に存在する道具です。マスターの命令を違える事はありません。その権限があれば、答えるようプログラムされています」


響は脱力したように溜息を零すと、「じゃ、セブンスの機能やパーツの詳細等の情報は艦長と俺に次から一回確認とって欲しいッス」と言うと「承知しました、権限を一部設定し直します」と答えた。



「俺達の、探し求めていたティアドロップに初めて王手がかけられるだけのモノを得たな」静かにモブが言えば響も顔を赤くして興奮しながら何度も頷いた。


「人生が終わるまでに、ティアドロップが拝めるかもしれないと思ったら燃えてきたッス」


セリグは、セブンスの力を今まで見てきているし。この二人が、ヴァレリアス博士のロストテクノロジーを学ぶ。その可能性に、年甲斐もなく喜んだ。



フランも、それを誰かの手に渡す事の怖さを知っているから。「俺が、プレクスの皆を守りぬかなきゃな」と力を入れるがモブが肩を叩いて無言で首を振る。



「戦うのは最後の最後、俺達は逃げてしぶとく粘るだけさ。フランの事は、頼りにしてるから。料金払えるうちは頼む」と言った。「あぁ、格安で請け負うよ。世話になってんだ、その分ぐらい働かないと居心地悪くてしょうがねぇ」と笑った。



(セブンスは残り五個、そのうちの一つがライブラリ)



「五分の一か、だが何も手掛かりがなく貧乏しながらその日暮らしで飛び回ってた頃に比べりゃ大分マシだ」とモブが言った。


「その為にも、今は仕事して。ロクでもない連中に捕まらないようにしてっスね」


「あぁ」三人がそれぞれ拳を突き出してチームワークを確認した。


「それと、フェティ様とシャリー様が健やかに過ごして頂ければ。わたくしもその健康の一助となれるようにコックを頑張りたいと思います」とセリグが言った。


それぞれの、決意を胸に。

結局その日は、響もモブも興奮して眠れず。


翌日、シャリーとフェティに叱られた。

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