第八十六話 新たな旅路

機械惑星でたっぷり一か月、仕事をこなし。補給的にも軍資金的にも一息ついた一行は、次の目的地デュークツー星へ向けて飛び立つ準備を始めていた。



「飲み屋で誰かが言ってたんだけどよ、エゼル星系方面で所属不明の。白銀の鬼みてぇな強化兵が出没するらしんだよ」


モブが、最終チェックをしながら響に振る。


「所属不明ってのが怪しいっスよね、この広い宇宙と言えど所属不明は残骸とかって相場が決まってるのに動いて通行してるのを所属関係なく襲ってるってのが驚きッス」


そこに、フランも足を組みながら会話に混ざった。


「そりゃ、どっかの国の研究所から手が付けられなくて廃棄されたとかじゃねぇのか」


「判んねぇよ、それを確かめに行くんだから」


「クレズさんがいれば、最悪遠くから確認だけして逃げるっていう手もあるッスからね俺達には」


「お任せ下さい、響様」


そう、艦族ギルドから直接指名を受け。状態を確かめに行く、戦闘力はほぼ皆無でもプレクスの逃げ足はギルドでも一目置かれているからこその依頼。


それを聞くと、フランが「ホントそれインチキだな」と笑った。


「俺も響以外の奴が使ってたら、頭叩いてるトコだ」とモブも乗っかる。


「排除しますか?」アンリクレズが即応するが「しなくて良いっス」と即答する。




「フェティとシャリーもそろそろ機械惑星から出るから、忘れやなんかあったら困るから確認行ってくれ。セリグさん」「かしこまりました」



「心なしか、セリグさん少し元気になったッスね」「あぁ、必死にフェティちゃん守るのに精一杯で仲間が無事生きてるの判ったからだろ」



「各部、異常なし。全系統、オールオッケーだ」「こっちも、制御系や挙動に異常なしッス」


「よーしよし、トラブルの無いのは良い事だぜ」「ここ最近ロクな飛び方して無かったっスからね」崖から真っすぐ急降下で追ちる車を追いかけるとか、対空砲火の弾の雨の中よけながら離陸とかさぁと思い出しながら「良く生きてたっスね……」「言うなよ……」


と最終的に二人で落ち込む。「お兄さん、忘れ物無いよ」とシャリーが後ろから大きな声で言ってくれた事で二人とも気持ちを持ち上げた。「おう」「確認ありがとッス」


「おし、じゃ行くか」「うッス」「そうだな」と三人が笑うと、プレクスの推進機に火が入る。



「おい、響君。随分、推進機の調子が宜しいんですが」「最近、クレズさんがソフトウェア的な手伝いをやってくれるようになって今まで怖くて手が入れられなかったキャブレーションやタイミングなんかも手を入れたっスからね」


何処をいじったらどうなるかのシュミレーションも、改善提案もやってくれるんで下手な総合ソフトよりクレズさんの方が良いっスね。


「恐縮です」


そこ、しくじるといきなり推進機のエンジンがかからなくなったり燃料バカ食いする様になったりするッスと苦笑した。


「燃費は?」「あれからさらに約五%良くなってるっスよ」


その返事に、モブが天に向かってガッツポーズした。


「ありがとう、響君」「その君づけキモイからやめるッス」


フランも、二人のやり取りに呆れ顔をしながら。「あんまりふかしてっと、港の連中がイヤな顔するぞ」というとモブはそうだったそうだったとレバーに手をやる。



「よっしゃ、目標デュークツー」レバーを徐々に下げると、推進機の針が上がってゆっくりゆっくり上昇していく。


「無理矢理、飛ばなくていい離陸って最高だな!」とモブが爽やかに言うと。

「それが、普通の事なんだけどな」「そうっス、それで感動とかやめて欲しいッス」



技術者として、機体に負担をかける様な飛び方は余り好きではない。



徐々に、地上が離れていく……。



空の色が変わっていき、宇宙空間に飛び出した。



「プレクス、宇宙空間に出ました。デュークツーまで通常運行で二週間前後となります」


その時、あっとした顔になるモブ。



「どうしたっスか?」


余りの表情の変化に、何かとんでもないモノを忘れてきたんじゃないかと不安になりながらゆっくりと尋ねる。


「何、忘れたっスか」


モブがいきなりぶわっと滝のように泣き出したので、フランも焦りだす。


「おいおい、艦長本当なに忘れて来たんだ」



今だぐずっている、モブの背中を二人でさする。



「もう予約して、金も払っちまった境界焼きを取りに行くの忘れてた!」

「シャリーには戻れないっていったのに?」フランがジト目でつつく。


「すいません」


それだけいうと、モブは港に急いで忘れ物したのでどっか着陸させてもらえませんかと相談すると「九百八十一番に止めて下さい、ただ二時間以内に離陸する事が条件です」


「ありがてぇ、九百番代なら店のすぐ近くだ!」それだけいうと、機体を横に倒して墜落する様に港に戻っていく。


「さっき、急降下で機体に負担かけたくねぇって話したばっかりじゃねっスか……」


そうは言っても、響も境界焼きは大好物なので「後で、少し分けて欲しいッス。それで手打ちッス」と苦笑し「全員に分けるよ」とモブも涙を拭いた。


<第一章 完>

<第二章に続く>

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